株式会社Limerを創業したのは、なぜですか?
最初から会社を作ろうと考えていたわけではありません。きっかけは、会社員として働きながら始めたロボット開発の副業でした。 アメリカの大手テック企業で働いていたこともあって、年収がかなり高くなっていました。そこでのプロジェクトが終了した後、転職活動をしましたが、面接しても年収の条件が折り合わない。その一方で、私の仕事には興味を持っていただき「副業として開発をお願いできませんか」という声は多くいただいたんです。 最初は先述のテック企業時代の知人から頼まれた仕事でしたが、そこから人づてに依頼が増えていきました。私と同世代の技術者がCTOやCEOなど、企業の意思決定をする立場になってきたことも大きかったと思います。「こういうロボットを作りたい」と相談をいただき、面白そうであれば引き受ける。それを続けているうちに、7〜8社から案件をいただくようになりました。 やがて勤務先の副業規定の範囲に収まりきらなくなり、個人で対応できる仕事量でもなくなってきました。それなら会社として受けられる体制を作ろうと考えたのが、Limerを設立した経緯です。会社を作ってから仕事を探したのではなく、先にお客様から開発の依頼があり、それに応えているうちに会社になった。現在も、Limerの事業の基本はそこにあると思っています。
ロボット開発会社として、Limerの強みは何ですか?
私たちは、ロボットそのものをゼロから設計し、その上に必要なソフトウェアを載せる開発を得意としています。既製のロボットを使う場合、ハードウェアの形は最初から決まっています。その制約の中で課題を解こうとすると、本来は機構を少し変えれば簡単に解決できることまで、ソフトウェア側で複雑な処理をしなければならない場合があります。 例えば、ロボットに物を持たせる場合、既製のハンドを使って様々な物を持たせようとすれば、認識や制御のために多くの学習が必要になるかもしれません。しかし、ハンドそのものをゼロから設計すれば、もっと簡単な仕組みで安定して物を持たせられます。 私たちが重視しているのは、高度な技術を使うこと自体ではありません。お客様が抱えている課題に対して、どの方法なら最も直接的にアプローチできるのか。機構で解くのか、制御で解くのか、ソフトウェアで解くのか、AIを使うのか。最も簡単で、安定して動く方法を選びます。ハードウェアから作れることは、その選択肢を広げるために重要だと考えています。
フィジカルAIの登場で、ロボット開発はどのように変わったと感じていますか?
二足歩行ロボットの開発において、アメリカの大手テック企業時代に作っていたロボットとは機体の安定性が桁外れに違います。当時の二足歩行ロボットは、どうしても倒れることがありました。現在は屋外へ持ち出して長時間歩かせても、簡単には倒れません。開発を始めてから実機で実験できるようになるまでのスピードも非常に速くなっています。 以前は、センサーから入力された情報に対してどう動けば倒れにくいのかを、技術者がモデルを作りながら考えていました。膨大な選択肢の中から、人間が「この辺りが良さそうだ」と絞り込んでいました。半導体の性能向上によって計算能力が飛躍的に高まり、センサーの入力に対する制御方法やパラメータの組み合わせを大量に試せるようになりました。全部試した結果として、より良い答えを導き出せる。AIの進化というよりも、それだけの計算を可能にした半導体や計算資源の進歩が非常に大きいと見ています。 とはいえ、何でもAIで解けばいいとも考えていません。画像から対象物を認識するような部分では、AIは非常に有効です。けれども、従来から使われてきた制御方法の方が安定している領域もあります。そこは無理にAIへ置き換える必要はありません。既存の技術と新しいAI技術を組み合わせながら、システム全体として安定して動かす。Limerでは、その考え方を大切にしています。
今後、Limerはどのように事業を進めていきたいですか?
AIの分野では、大規模な資金調達をして大量のGPUを導入し、膨大な計算資源を使って開発する動きがあります。顧客が求めているものを実現するために、大量の計算資源が必要なのであれば、そうした投資には意味があると思います。 ただ、Limerが重視しているのは、お客様の課題です。私たちは、お客様から「こういうものが欲しい」という相談を受け、お金をいただきながら、小さな擦り合わせを積み重ねて開発しています。解決すべき課題があり、そのために必要な技術や資金を使うという順番を大切にしています。 スタートアップが、大企業と同じように資金力を競って大量のGPUを保有することが、本当に自分たちの役割なのかという疑問もあります。資金力そのものを競うのであれば、大企業の方が圧倒的に強い。Limerは、自分たちが培ってきたロボット開発の技術を使い、目の前のお客様の課題を一つずつ解決することで成長していきたいと考えています。 もう一つ、根底には「国益に繋がる仕事をしたい」という思いがあります。補助金や助成金等の公的な資金を使って海外製のGPUを大量に購入することが、本当に国益に適うのかは、立ち止まって考える必要があります。新しい技術だから使うのではなく、その技術への投資によって何が生まれ、誰の課題が解決されるのか。そこまで考えることが重要だと思っています。
仕事をする上で、大切にしていることは?
ひらめきだけには頼らないようにしています。自分たちが出した答えについて、なぜそれを選んだのかを説明できるようにすることが大切です。Limerでは「星取り表」と呼んでいる方法を使い、考え得るアイデアを可視化して比較します。 例えば、ドアを開閉する仕組みを考えるとします。モーターで動かす方法もあれば、バネを使う方法もあります。構造そのものを工夫して、電気を使わずに元の位置へ戻す方法も考えられます。最初の段階では、そうしたアイデアを20〜50案ほど並べます。それぞれについて、電気的にどうか、コストはどうか、経済性はあるか、耐久性はどうかといった項目を点数化して比較します。 一つの案を書き出すと、そこから別の案も生まれます。C案を検討している途中で、C'やC''のように枝分かれしていく。深く検討していくと、100案近くになることもあります。頭の中だけで考えていると、「思いついたか、思いつかなかったか」になってしまいます。それでは、どこまで検討したのか、なぜその案を選んだのかを後から説明できません。 星取り表にしておけば、何を比較して、何を捨て、なぜ最後の案を選んだのかが見えるようになります。完成した後に「なぜこの設計なのですか」と聞かれても、理由を説明できます。こうした考え方は、社内でも共有しています。優れた設計を個人のひらめきだけに頼るのではなく、検討のプロセスそのものを積み上げられるようにしています。
