自分で事業を始めようと考えた原点は?
高校時代の寮生活が大きかったと思います。大学の附属高校へスポーツ推薦で進学しました。当時の寮は規律が非常に厳しく、自分の意思で行動を選べない環境でした。社会人になってからも同じように、誰かに決められた働き方を何十年も続けることになるかもしれない。そう考えた時に、自分で仕事をつくれる側に回りたいと思うようになったんです。 そのまま大学へ進学し、経営学部のITビジネスコースで学びました。大学3年生になる頃には就職も意識し始め、会社へ入るとしても、いざという時に自分で仕事をつくれる力を身に付けておきたいと考えていました。 最初に始めたのはブログです。アルバイトではなく、自分の自由な時間を使って、まずは「1円」を稼いでみようと思いました。大学で学んだことや、自分なりに考えた仕事の知識を記事にしましたが、3カ月ほど取り組んでも収益は数十円にとどまり、独学だけでは足りないと感じました。そこで夏休みには東京のシェアハウスへ移り、Webマーケティング会社でインターンをしました。そこから、インターネットを使って事業をつくる道へ本格的に進んでいきました。
10件以上のWebメディアを事業譲渡できた理由を、どのように捉えていますか?
一番大きいのは、ユーザーにとって本当に価値のある情報を届ける姿勢を崩さなかったことだと思います。大学時代、東京のWebマーケティング会社でインターンをした際に、検索ボリュームが「10」しかいなくても、その10人の役に立つ情報なら価値があると教わりました。検索数や収益だけを見るのではなく、その情報を必要としている人が何に困っているのかを考える。この姿勢が、その後の事業の軸になっています。 仮想通貨、就職活動、ライブ配信、フードデリバリー等、これから利用者が増えそうで、まだ十分な情報がないテーマを選び、メディアを立ち上げてきました。新しいサービスを早く見つける情報感度と、ユーザーの課題を捉える視点。その二つを組み合わせることで、メディアを成長させる再現性が少しずつ形成されていったと思っています。 SEOや収益化の技術も10年近く積み重ねてきましたが、小手先の手法だけでは長く続きません。ユーザーが情報を知ったことで選択肢が増え、行動が変わる。そこまで考えてつくったメディアだったからこそ、事業として価値を認めていただき、10件以上の譲渡に繋がったのだと考えています。
次の事業に、トレーディングカード市場を選んだ理由は?
ポケモンカードを中心に大きな熱狂が生まれており、中長期的にも市場が続くと考えたからです。ポケモンは、子供から大人まで世代を超えて知られている強いIPです。生成AIによって文章や画像を簡単に作れる時代になるほど、権利によって守られ、多くの人が共有しているオリジナルの価値は高まると考えています。 トレカ市場全体を見ると、既に多くの店舗や事業者が存在します。それでも、マーケティングという切り口では、まだ大きな参入余地がありました。トレカショップやオリパ事業者には、カードが好きな人やプレイヤー出身の経営者が多く、マーケティングを専門に行う会社は多くありません。信頼できる情報メディアも十分に整っていない。市場そのものは活況でも、自分達の強みを生かせる場所は空いていると判断しました。 もう一つは、AIの普及によって合理化が進むほど、人が熱狂できるものの価値が高まると感じたことです。カードを集める、当たりを期待する、誰かと語り合う。そうした熱狂は、人にしか生み出せないと思っています。自分達も事業づくりに熱中しながら、ユーザーへ適切な熱狂を届けられる。この市場なら、ビジネスとしての成長性と、仕事そのものの面白さを両立できると考えました。
事業売却の経験によって、事業に対する考え方は変わりましたか?
事業譲渡は、起業家にとって合理的な選択肢だと思っています。資本力のある会社へ加わることで事業をさらに伸ばせる場合もありますし、そこで働くメンバーの待遇が良くなる可能性もあります。私自身、複数のWebメディアや会社を譲渡した経験があり、経済的な成果も得てきました。 その経験を通じて分かったのは、売却すれば全てが満たされるわけではないことです。事業を手放した後に、心に穴が開いたような感覚が残ることもあります。事業をつくっている間は、仲間と試行錯誤しながら一つのものを育てることに熱中しています。それを譲渡すると、責任や負担から解放される一方で、熱中していた対象も自分の手元から離れてしまう。砂場で仲間と大きな城を作り、完成した瞬間に誰かへ渡すような感覚に近いかもしれません。 だから今回は、メディアをつくり、収益化して売却するという過去と同じ仕事を繰り返したくありません。買取や流通、海外販路等、トレカ市場にはまだ多くの事業機会があります。情報を扱うだけで終わらず、商品とお金が実際に動く新しい商売をつくりたい。合理的なタイミングで資本参画等を検討する可能性はありますが、まずは自分達が長く熱中できる事業へ育てることを大切にしています。
仕事をする上で、大切にしていることは?
大切にしているのは、スピードと信頼です。小さなスタートアップが資本力のある会社と同じ速さで動いていても、勝つことはできません。思い付いたら形にし、ユーザーの反応を見て、次の手を打つ。AIを使えば試作や検証の速度は上げられるので、その力を最大限に生かしながら、人よりも多く挑戦する姿勢を、メンバーにも持ってほしいです。 速く動けば、失敗する回数も増えます。失敗そのものは問題ではありません。大切なのは、自分の判断や行動を引き受け、何が悪かったのかを考え、次に同じ失敗を繰り返さないことです。失敗を認めず、嘘やごまかしで逃げると、チームの信頼が失われます。間違えたら率直に認め、高速で改善する。その積み重ねが、AIでは代替できない人間としての価値になると思っています。 今の当社は、決められた仕事をこなす人を求めている段階ではありません。メディアやサービスを育てるだけでなく、次にどんな事業をつくるのかまで一緒に考えてほしい。立ち上げ期の混沌を乗り越え、いずれは経営を担うくらいの気持ちで、自分の判断を事業へ反映したい人と働きたいです。
