オフィスに入るとまず往年のTVアニメに登場するロボットが目に留まります。これは川十株式会社の事業内容に掛けているのですね。
はい。社長に就任してすぐ、展示会等に出展した時に痛感したのは、ブースの中にブロック材や六角等の形状をした金属材料を並べるだけでは、誰も立ち止まっていただけないということです。何とかして目立たないといけないと思って、展示できるものを探し回った中の一つがこのロボットでした。毎週少しずつ部品が届いて、自分で組み立てる大型のフィギュアですが、金属製ですし、ちょうど良いと思って買い揃えました。ちょうどコロナ禍の時期で、どうせやることもないだろうと、「社長の夏休み」と題して組み立てている様子を動画で撮影し投稿しようと思っていたら、予想外に忙しくて…。家の中に箱が溜まっていくのを見かねた家族から急かされ、何とか組み立てました。(友人のU埼氏が実際は制作) 他社と同じものを扱っていても、サービスの質を向上させるための考え方や取り組みは全く違います。その事実を伝えるためには、何かしら目立たせないといけません。このフィギュア自体は、何気ないきっかけで作ったものですが、要するに会社のブランディングの一端です。 営業面だけではありません。採用活動を進めるに当たっても「一緒に働きませんか」と自信を持って伝えられる言葉が出てきませんでした。今の時代、ひたすら真面目に仕事をしているだけでは採用もできません。製造業も今の時代に合わせて、休日も増やす等、働きやすい環境を整え、福利厚生を充実させる必要があります。中小零細といえば、残業が多くて休みが少ないのが当たり前の中、イメージを塗り替えたいと思い、様々な改革を行ってきました。
安全管理や健康経営も、採用を円滑に進め、人材の定着を図るための取り組みですね。
そうです。私自身、現場から上がってきた人間ですので、現場のことは熟知しています。ただ、社長に就任して改めて痛感したのが、工場スペースが限られており、従業員の安全な作業テリトリーを確保できないということです。工場での労働災害は絶対に起こしてはいけません。そこで安全管理にはいち早く取り組みました。委員会を設けて、2カ月から3カ月ごとに安全講習を実施する等、意識改革に努めてきました。そうしているうちに、近所に土地が空いたため、思い切って新工場の建設を進めることにしたのです。 健康経営も私が社長に就任してから取り組んだ施策の一つです。1日8時間の就業時間内に集中して仕事をすることによる残業削減、年休取得率の向上推進、週に一度の無料ランチデー、食事補助制度、ストレスチェック、自然光を取り入れた遊び心のあるオフィス空間等の取り組みを行ってきました。 こういった取り組みを始めた頃は、社内の理解を得るのが大変でした。しかし、そういった取り組みをしながら人を採用し続けた結果、離職率が極端に減って、ようやく理解されるようになってきました。 当初から言い続けてきたことは、我々の最大の強みは人だということです。人が辞めずに定着するからこそ、超短納期というビジネスモデルが成立します。しかし社員が五人も減ってしまえば、同じことはできません。同じことができないということはサービスが低下して、売上も減ってしまいます。人が定着して増え続けるからこそサービスを維持・向上できる。だからこそ人を大事にしなければならないのだということは現在も訴え続けています。
コロナ禍の中でも仕事が減らず売上が拡大できた要因をお話しください。
当時、行動制限がある中で、当社は展示会には出展し続けました。社内からも反対意見はありましたので、数名の幹部だけで出展し続けた結果、新規顧客が増えました。コロナ禍以降は毎年30社ぐらいずつ取引先が増えています。その結果、分母が急激に大きくなりました。加えて、原料高に伴う値上げを行ったことで売上も拡大しました。 当社は低価格を訴求したビジネスは行っていません。どちらかというと高めの設定をしています。しかし価格が高いのには理由があります。それだけのコストを支払って徹底した管理を行っていますので、そのことを自信持って説明すればお客様にも納得していただけます。 現在の仕組みが出来上がるまではそうはいきませんでした。既存のお客様にも原料高だからという理由だけでは納得していただけなかったのです。しかし今は、注文から納品までのプロセスが明確です。お客様から「高い」と言われても、「これだけの人数が関わって、こういう管理をしています」と説明できます。だから営業マンも自信を持って交渉ができるのです。
長期的なビジョンをお話しください。
代表に就任した当初、私は自分の中で、10年間全速力で頑張ると決めました。なぜ10年間かというと、例えばiPhoneがリリースされて、指紋認証までの進化を遂げるまでの期間が約10年間です。当社も10年間でドラスティックな進化を遂げたいと思いました。社長に就任したのがちょうど40歳。体力がある10年間は精一杯経営に取り組んで目標を達成し、50代に入ってからは落ち着いた働き方ができるようになりたいです。 そのため、これからの3年間はリーダーシップを発揮して、可能な限り事業を拡大・拡張したいと考えています。従業員とその家族を幸せにするためには、歩みを進めなければなりません。ただし、むちゃくちゃなことはできません。責任を負う立場ですので失敗はできません。当初の計画では、もっと前に進んでいるはずでしたが、投資も必要ですしリスクもありますので、慎重に前に進んでいきたいと考えています。 課題の一つがシステムの外販事業を立ち上げて、軌道に乗せることです。また、数年前から始めているBtoCの事業も定着させたいと思っています。元々、川十という会社はオーナーが10個目につくった会社です。現在は他の会社はなくなりましたが、そういう気質のある会社です。10個まで増やすかどうかは別として、できる限り可能性は広げたいと考えています。 根底にあるのは、従業員にもやりがいや楽しみを持ってほしいという思いです。例えばBtoC事業を行うことで、ものづくりの楽しさ、人が喜ぶ姿を肌で感じてもらいたい。それによって「川十で働いていて良かった」と思うことが、パフォーマンスをより高めるきっかけにもなると思っています。
在庫管理システムの外販事業を立ち上げた経緯をお話しください。
きっかけはお客様からご要望を頂いたことでした。代表取締役に就任して間もない頃に、当社が運用する管理システムを見せてほしいとご来社されました。そのお客様は材料の管理に苦労されており、廃棄率が高く、悩んでおられました。ご来社された際に、当社の管理方法を説明させていただいたところ、システムを売ってほしいというご要望を頂きました。しかし当時は、自社向けに開発したシステムであり、他社で使っていただけるものとは全く考えておらず、お断りしていたのです。 ただ、時が経つにつれて、自社だけが儲かれば良いわけではないという考えも芽生えてきました。ブランディングの観点からも、社会貢献や地域貢献もしなければならない。もちろん金属材料の加工・卸を通して貢献している自負はありますが、それ以外にできることはなんだろうと模索し、当社が蓄積した在庫管理のノウハウ提供にたどり着きました。 実際にマーケティングをしてみると、材料管理ができずに困っている製造業の方々は少なくないことが分かりました。そういった事業者の方々に当社のノウハウを提供すれば喜んでいただけるのではないかという発想からシステムの外販事業が生まれました。 当社が開発した『自在管理』システムは金属材料に限らず、テキスタイルや木材、液体等、あらゆる形状の材料を管理できます。世の中に在庫管理ソフトと言われるものは沢山ありますが、動的在庫管理ができるソフトはほとんどありません。そこは当社独自のノウハウです。調べてみると国内では類似特許はなかったので、特許申請を出しました。今は、世界のマーケットを調査中ですが、一部でも特許が取れれば、特許取得済みとしてリリースできると思っています。 当社内で運用しているシステムはオンプレミスですが、外販するシステムはクラウドシステムとして社内でゼロから構築します。現在はそのための体制づくりを急いでいるところです。まずはプロジェクトマネージャーを担える人材や、その右腕として動ける若い人材を揃えた上で、AIや外部ベンダーをコントロールしながらスピード感を持って開発を進めたいと考えています。丸投げするつもりは毛頭ありませんので気負う必要はありませんが、私達の仲間として一緒にチャレンジしていただければ嬉しいです。