キチナングループ株式会社

DXが進まない日本の中小企業が多い中、地方都市において、先代までが築いた事業基盤を、若い感性を生かしてアップデートに励んでいる企業がある。山口県宇部市に拠点を置き、総合物流サービスを展開するキチナングループ株式会社が、その会社だ。

同社が本拠を置く山口県宇部市は、山口県の西部に位置する人口約15万人の都市。かつては炭鉱の町として栄え、近年は化学工業やエネルギー事業を展開する宇部興産（現在のUBE株式会社）の企業城下町として発展。現在はUBEのグループ会社を含め、多くの化学会社が工場や倉庫を構えている。

キチナングループは、貨物輸送から出荷代行まで、物流ソリューションをワンストップで提供している。山口、岡山、大阪、名古屋に拠点を構え、物流倉庫を運営。製造・保管・出荷・配送とロジスティクス全般をバックアップする体制を整えている。

「当社の事業は、化学工業の町、宇部のインフラを幅広く支えています。物を運ぶだけではなく、輸送、保管、生産管理、製造請負、プラント工事、調達まで幅広く、お客様の事業成長を後方からサポートしています。14のグループ会社を傘下に持ち、地域最大級の整備工場を有する大型・小型車の点検・整備を提供するサービスや梱包・加工サービス、プラント工事、機械加工、人材派遣サービス等、製造業のお客様をトータルで支援する体制を強化しています」（代表取締役社長・井本健氏）。

1962年、創業者の井本昇氏が山口市内で個人運送事業を始めたのが、同社の源流。その後、宇部市に本拠を移し、運送会社としての地歩を固めた。1999年に2代目の井本浩二氏が代表取締役社長に就任し、経営の多角化を推し進めてきた。2020年5月に就任した井本健氏は3代目。就任してすぐに、事業整備と経営改革に着手した。

「私の父である先代社長の方針で、多角経営を推し進めていました。宇部市はかつて公害問題に苦しんだ経験から、環境問題への意識が高く、街路樹や花壇等の緑豊かな環境が整備されています。宇部市の移り変わりに合わせるように、父の代では園芸用の土を製造する会社やガラス瓶の再生工場等も経営していました。どれも素晴らしい事業ではありましたが、経営の独立色も強く、グループとしてのシナジーが希薄でした。そこで、私は事業の選択と集中を進め、一部事業を売却する等、事業ポートフォリオを刷新しました」（井本氏）。

2023年6月、吉南株式会社からキチナングループ株式会社へ社名変更。井本氏の経営改革は加速する。東京で過ごした学生時代にWebサービスの開発に携わる等、ITに精通していた井本氏は、就任してからこれまで社内のDXを推進してきた。

2024年に働き方改革関連法が運送業にも適用されることもあり、物流業界ではDXによる業務効率化が急務となっていた。井本氏は、バックオフィス業務や顧客管理・営業支援業務にクラウドサービスを導入。ツールに合わせて社内の業務フローも変更し、社内にエンジニアを採用することで、それぞれのツールを連携させ、情報連携によって新たな価値を創出した。

「社内のコミュニケーションにチャットツールを使い、電話とFAXが業務の中心だった会社をデジタル化しました。管理会計を導入して財務状態も見える化。ガラス張りの経営にシフトするため、あらゆる情報のオープン化を進めました。今もチャットツールではDMを使わず、オープンな空間でコミュニケーションする文化を大切にしています。ベテラン社員の中には、新しいツールに戸惑う人もいましたが、使い方を懇切丁寧に説明し、できることから始めて少しずつ慣れてもらいました。60代の社員がチャットツールで軽快にコミュニケーションを取っている様子を見て、外部の会社の人に驚かれます」（井本氏）。

事業の選択と集中を進め、社内DXで効率的な業務を構築してきた同社。収益基盤も安定し、売上も従業員数も右肩上がりで推移している。従業員数は5年で倍増した。

さらに、総合ロジスティクス企業として宇部の産業を支える企業グループを目指し会社の成長を加速させるべく、M&Aを引き続き積極的に展開している。同社がM&Aを進める背景には、自社の成長以外にもう一つの理由がある。地元企業の「後継者問題」だ。

「山口県は後継者不在ランキングの上位に位置しています。会社を継いでくれるのを期待していた後継者が東京や大阪の大学へ進学し、そのまま山口に帰って来ない。かくいう私も同じような身でしたが、縁あって山口に戻り会社を継ぎました。とはいえ、後継者が東京で活躍して戻ってこないため、会社の存続が危機にさらされている中小企業もあり、DX推進を標榜している当社にM&Aのオファーが届きます。若者が山口で活躍するフィールドをつくるため、M&Aは積極的に進めます。『宇部に戻って働くならキチナングループ』と思ってもらえる企業グループを目指しています」（井本氏）。

そしてもう一つ、同社はDX成功体験を物流業界にインストールするため、新規事業も視野に入れている。“現場目線”を重視した物流業界のDXプラットフォームの開発を計画している。

「当社に入った時、アナログな作業が横行している現実に驚きました。次世代の会社にブラッシュアップするため、各種SaaSの導入を進め、一定の成果を得たと思っています。物流の現場を知る会社として、物流DXを実現するITソリューションの開発を考えています。そのためには、自社エンジニアや事業創造を手掛ける経験豊富なビジネスパーソンを必要としており、広く募っています」（井本氏）。

井本氏が3代目に就任してから、力を入れ始めたのが人材の採用と育成。新卒採用を積極的に展開し、若手ビジネスパーソンの中途採用も強化。若い感性で会社のDXを加速させてきた。

「若い人達が当社を選んでくれるのを、経営の一つのバロメーターにしています。彼ら彼女らには未来があり、その自分の未来を託す先を考え、働く会社を選ぶ。東京や大阪、福岡に出る人も多い中、宇部の地を選んで当社で働いてくれる人が増えるのは、若い人達が当社に自分の未来を託してくれるという意味だと捉えています。これからも若い人達から働きたい会社だと思ってもらえるように、経営の舵取りをしていきたいと思います」（井本氏）。

若手ビジネスパーソンにとって魅力的な企業グループにするため、同社では社員の働き心地・働きがいにも気を配っている。定期的に従業員サーベイを実施し、社員の声を汲み上げ、組織改革・強化に繋げている。

「宇部で一番、働き心地の良い会社を目指しています。そのために、若手社員を中心に社員の声を集め、働き方や社内制度の変革に活用しています。企業ブランディングにも注力し、運送会社のイメージ刷新に取り組んでいます。運送会社には仕事がきつくて低収入といったイメージがあるのも事実ですが、社内DXで効率化することで働き方も待遇もアップしていることを、内外にアピールしています。物流は人々の生活に欠かせない重要な社会インフラ。宇部のインフラを支える誇りを大切に、働きがいのある企業グループを目指しています」（井本氏）。

クラウドツールを積極的に取り入れて業務改善を進め、モダンな働き方ができる組織を地方都市でつくる。そうすることで、若手ビジネスパーソンが地方都市でもやりがいのある仕事、充実した労働環境を得られるようにすることが、地方都市の活性化に繋がる。

「宇部は、温暖で雨の少ない典型的な瀬戸内海式気候。自然豊かでありながら、ショッピングモールや映画館、遊園地等、都市型の商業施設も充実しており、都会の喧騒から離れて穏やかな暮らしを送りたい人や、自然と触れ合いながらも都会の利便性を享受したい人にも適した町です。山口宇部空港が近いこともあって、東京との時間的な距離が近いのも特徴。東京は日帰りできる距離です。宇部市の他社にはないモダンな環境がある会社だと自負しています。宇部で面白い仕事がしたいと願っている人がいれば、ぜひ一度、お話ししましょう！」（井本氏）。