株式会社イエロー・デジタルエンターテインメント

株式会社イエロー・デジタルエンターテインメントは、SNSを通して、個人で活動するクリエイターのエージェンシーである。同社では、クリエイターのマネジメントやSNSマーケティングをはじめ、企業・自治体等のPR・イベント企画とのマッチング、次世代クリエイターの育成を行っている。

2021年8月設立のスタートアップだが、契約クリエイターは既に120名を超え、さらに毎月数十名規模のペースで新規契約が進んでいるという。フード関連のフェスティバルや神奈川県小田原市のPR活動にジョイン。なお同社では、SNS等で発信するスキル／ファンへの影響力／セルフブランディングのノウハウ等を併せ持った人材を、インフルエンサーではなく「クリエイター」と呼んでいる。そこで本稿でもクリエイターに表現を統一し、説明を進めていく。

代表取締役の城山氏は、長年広告業界でキャリアを築いてきた。テレビ・ラジオ・雑誌・新聞の4大メディアやWEB上でのプロモーションを手掛け、企業や商品を認知させるノウハウを知り尽くした人物だ。しかし城山はこの10年で、消費者の購買活動に変化が起こっていることを感じ取る。

広告等によって認知は広まるが、購買には直結していない。むしろリーダーシップを持った個人（＝クリエイター）による発信が、消費者の背中を押している。メディアからの大量の情報ではなく、「あの人が使っているから／薦めているから、自分も買う」という判断をしている。コロナ禍以降、さらにその傾向が強まった様子を見て、城山氏は同社を立ち上げた。

「クリエイターの中には、何かの拍子でバズった結果、大量のファンを抱えたという人が多いようです。自分の発信方法をマネジメントする等、セルフブランディングに長けたクリエイターはほんの一握りでしょう。また、クリエイターにPR等を依頼する事業者側のリテラシーも、まだ十分とは言えません。そこで私達がクリエイターと正式に契約を交わして教育やマネジメントを行い、成功までのプロセスを支援する。同時に、事業者側が安心して発信を依頼できる環境を整えようと決めたのです」（城山氏）。

もっとも、城山氏によれば、SNSでの発信活動は、「自分で発信したことがない人が、クリエイターにとやかく言う世界ではない」とのこと。では契約クリエイターをどのように教育し、支援していくのか。具体的な方法を次項で紹介しよう。

同社は『イエロー・クリエイターズアカデミー』において、ベーシックな人材教育を行っている。コンテンツとしては、コミュニケーションで大切なこと／留意すべきこと、言葉遣い、感情をコントロールする方法等が挙げられる。今後、企業や自治体等のPRの「顔」として活動する上で欠かせない育成プログラムだ。さらに、先輩クリエイターによるクリエイター教育も行っているところが、同社独自の取り組みと言えるだろう。

同社は設立とほぼ同タイミングで、既に絶大な人気を誇るクリエイターと契約を交わし、発信力を高めてきた。そのクリエイター達が持つ様々なノウハウを、新たに契約した次世代の後輩クリエイター達に“伝授”していくのだ。後輩クリエイター達は「先輩のようになりたい」という、これ以上ない動機付けによって、様々なノウハウを身に付けていく。

ここで興味深いのは、先輩クリエイター達の働き方だ。自らも現役クリエイターとして自宅でライブ配信やSNSの更新を行っているので、基本的に出社の義務はない。城山氏によれば、意思を持ってそのような働き方を推進しているとのことだ。

「実は契約クリエイターは全国にいます。地元で活動しているからこそ、地元のことをポジティブに発信できる。私はそう考え、出社や通勤の義務を設けていません。こういう働き方をあらゆる業界に広めていきたいですね」（城山氏）。

同社ならではの“働き方改革”に共感したのが、冒頭で紹介した神奈川県小田原市である。同社の方向性に賛同した職員が、小田原市のPRをクリエイターに依頼したことで関係がスタートしたそうだ。

ただし、事業者からの依頼とクリエイターのマッチングには細心の注意を払っている。ビジネスディレクターの遠藤三智直氏によれば、それは「クリエイターのこだわりは崩したくない」からだ。

「顧客の悩みや要望はしっかりヒアリングします。そして、顧客の課題解決を『自分がやりたい』というクリエイターをマッチングするのです。クリエイターには、こういうPRを手掛けたい、自分をこうアピールしたい、というこだわりがあります。顧客からどんなに求められても、そのこだわりを崩すことは求めません」（遠藤氏）。

個人の発信力に注目し、次世代のクリエイター支援を目指して同社は設立された。クリエイターとの関わり方に、その思いが貫かれているのだ。

ライブ配信、ライブコマース、短編動画の制作等、Z世代に向けてスマホ縦画面のエンターテインメントを創造・提供する同社。クリエイターを育成し、一人ひとりのこだわりを重視したマネジメントを行うことに共感し、様々な個性を持った人材が集まっている。

同社ではクリエイターを無作為に契約せず、オーディションや審査を通して規模を拡大している。ライブ配信をしていたある学生は、同社に応募した際、「内定が出ている会社に就職すべきかどうか悩んでいる」と打ち明けたそうだ。城山氏の回答は「そのままライブ配信を正社員として続ければいい」というものだった。

「普通は、大学を卒業したら就職…です。でも私は『明確な理由もなく、何故かそういうことになっている』という常識・習慣を全て打ち破り、新しい働き方を創出したいと思っています。クリエイターが正社員になってもいいじゃないですか。好きな地元で活動しても、自分のこだわりに合った案件を選んでも、何の問題もありませんよね」（城山氏）。

城山氏が掲げる「新しい働き方の創出」を通して、同社の価値を高め、誇りを持ってクリエイターとしての活動に取り組んでもらうことが、城山氏の目的だ。