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インタビュー画像代表取締役・加藤 雅也氏 1979年愛知県生まれ。2000年、家業の社労士事務所に入所。2005年、社会保険労務士資格取得。2013年に社労士事務所を法人化し、社労士法人セルズ(現・社労士法人FORROU)設立。同時に東京営業所を開設。2015年7月、株式会社セルズ代表取締役社長に就任。e-Gov電子申請の普及活動に注力。2020年11月、社労士受験講座開始。2024年12月、株式会社セルズホールディングス設立。代表取締役就任。2025年4月、一般社団法人 人事労務システム協議会理事就任。

社労士事務所を営みながら、ソフトウェア開発を始めた経緯をお話しください。

創業者の現会長は、Windowsが登場する前からプログラミングの知識を持っており、社労士として顧問先を支援しながら支援先の担当者向けに、「請求書管理」や「在庫管理」といった小さなツールを作って提供していました。そんな中で自社の業務ソフトも自作して使っていたところ、周囲の社労士から「使わせてほしい」という要望を受けて本格的に外販し始めたのがセルズの始まりです。 当初は基幹システムを作るつもりはありませんでした。既に他社が提供していましたので、特定業務に特化したソフトを作ろうと考えたのです。 最初に開発したのは『最適給与』という給与シミュレーションソフトです。社労士は年金の手続き等を取り扱いますが、例えば60歳以降に給与を下げた場合、年金と雇用保険の給付金が出て、結果的に手取りが高くなるケースがあります。こうした国の制度について、顧問先に有益なアドバイスを提供する際、国が作成したパンフレットを見せるだけでは分かりづらいものです。そこで、実際の会社の給与データを使ってシミュレーションすることで、具体的なイメージが湧くようにしました。ボタン一発で数百パターンのシミュレーションを行い、最も良い結果を示すのが『最適給与』です。このソフトが愛知県の社労士の方々に受け、「他の県でもいけるのではないか」ということで全国的に展開していきました。 以降もいくつかの業務ソフトを作り、ご好評いただいていたのですが、ソフトごとにマスターデータを入力する手間がかかるため、統合システムを作ってほしいという要望をいただくようになりました。それが基幹システムである『台帳』を開発したきっかけとなりました。

プロダクトを開発する上で重視していることをお話しください。

ソフトウェアを活用することで、社労士が顧問先とコミュニケーションを図るための「話題」を創出することです。社労士が顧問先を訪問する際、ただ手続き書類の控えを届けるだけではなく、一言二言でも会話を交わすことが重要です。例えば、給与計算のデータから賃金水準の変化や残業の急増等に気付くことがあります。その時に「何かありましたか?」と声をかけることで対話が生まれ、顧問先の役に立つアドバイスができるからです。 私は、こうした日々の雑談にこそ社労士の付加価値が生まれると考えています。だからこそ、普段から対話のきっかけを仕込んでおくことが非常に重要です。『最適給与』や『台帳』といった当社のプロダクトには、そうした視点が盛り込まれており、顧問先との話題づくりに役立つ帳票を作成できます。システムの力で社労士の提案力を引き出す仕組みこそが、競合他社にはない当社の強みです。 また、私は一人の社労士として、行政に提出する書類よりも、顧問先に渡す書類の方が大事だと考えています。行政への提出書類は法令で形式が決められており、誰が作成しても変わりません。しかし、顧問先に渡す書類には事務所ごとのカラーが出せます。多くの社労士は手続きを終えるだけで顧問先への独自のフィードバックを行っていませんが、あえてオリジナルのサービスとしてデータを見える化して提供する。そこに価値があると考え、こだわってきました。 お客様からお預かりした人事労務のデータを基に、「こんな気付きがありましたが、今後どうしていきましょうか」と一言添えれば、「実はこんな課題で悩んでいる」と打ち明けていただけます。データから得た気付きを起点に、顧問先と伴走していく。それによって社労士が企業経営に必要不可欠の存在となり、結果として「社労士と顧問契約を結びたい」という企業が社会全体で増えていくと考えています。

代表就任までの経緯と、就任後に取り組んできたことをお話しください。

私がこの業界に入ったのは20歳の頃です。父に誘われ、パソコンの基礎や社労士事務所の業務を学びながら仕事を手伝い始めたことがきっかけです。その中で「目の前の顧問先に喜んでいただくサービスを提供するには、法令知識やパソコンスキルも必要なのだ」という社労士としての基本姿勢を学びました。ただし、本腰を入れるようになったのは2005年、27歳の時に社労士資格を取得してからです。「これは生涯かけてやっていく仕事なのだ」と実感し、父の後を継ぐ決意をしました。 大きな転機となったのが2013年の東京進出です。社労士事務所を法人化し、東京に事務所を開設。約2年半で軌道に乗せることができました。その間に取り組んだのは自社の運営だけではありません。当時は電子申請の利用率が2%程度で、国からの要請もあり、社会保険システム連絡協議会(現:HRSA)という団体が設立されていました。私もその団体に入って啓蒙活動を行っていました。その取り組みを通して、自社の発展だけではなく、社会保険行政そのものが効率良く回る仕組みづくりに尽力したいという意識が芽生えました。 その後、東京から名古屋に戻り、2015年に経営を引き継ぎました。代表就任後は引き続きe-Gov電子申請の普及活動に注力しつつ、当社の社内体制の強化にも取り組んできました。 その一つが労務環境の整備です。背景には、東京で採用活動している時に、内定者から断られるということが相次いで採用の難しさを痛感した経験がありました。例えば、社労士資格を持っている人が必ずしも社労士事務所に入るわけではありません。企業の人事総務部門に入った方が、生活が安定する場合もあります。その経験を通して、社員がやりたい仕事に専念するには、社員自身が働きやすく、家族の理解も得られやすい環境が不可欠であることに気付き、健康支援や福利厚生等を整えて当社の労務管理を徹底してきました。ただし、働きやすいだけでもいけません。私達の仕事が社会にどう貢献できているのかを可視化し、やりがいや志を持って働ける環境づくりにも取り組んでいるところです。

新規事業にも取り組んでおられるとのこと。経緯と思いをお話しください。

新規事業に取り組む背景には、社労士業界に対する感謝の気持ちがあります。当社は社労士という資格制度があるからこそ成り立っている会社です。そのため社労士業界全体を盛り上げるような活動を行っていきたいと考えています。 現在取り組んでいるのが、社労士事務職員向けのオンライン学習サービス『ロウカレ』です。社労士事務所で働く職員の方が、日々の実務に直結する知識や法改正情報をスキマ時間で効率よく学べるプラットフォームとして、2025年8月にリリースいたしました。 同事業は、多くの社労士事務所において、厚生労働省から発信される膨大な最新情報や頻繁に行われる法改正のキャッチアップを始めとして、職員の皆様の教育・育成が大きな課題になっていることに着目したのがきっかけです。厚労省の資料は専門用語が多く、日々の忙しい業務の中で正確に読み解くのは非常に時間がかかります。情報収集が「苦行」になってしまっている現場の負担を減らし、事務所全体の実務力を底上げしたいという思いから開発をスタートしました。 『ロウカレ』の大きな強みは、「実務に直結する」コンテンツを徹底的に網羅している点です。たとえば、ニュースや労務トピックスでは、厚生労働省などの信頼性の高い一次情報に基づき、実務に必要な要点だけを分かりやすく要約してタイムリーにお届けしています。さらに、実務に即応できるスキルアップのための講義動画を配信しているほか、顧問先への情報提供にそのまま使えるPowerPointの資料テンプレートや、当社ソフト(『台帳』『Cells給与』『FORROU』など)の活用ノウハウなども動画で提供しています。 おかげさまでリリース以来、当社のシステムをご利用いただいている社労士事務所の職員様を中心に着実にお役立ていただいています。このサービスを通じて、職員の皆様が知識を深め、業務の質を高め、顧問先により良い提案ができるようになる仕組みを提供したいと考えています。政府の今後の動きまでを抑えたリアルタイムの実務知識は、生成A Iはまだまだ及ばない領域であり、求められる士業の価値づくりに寄与するべく、社労士事務所全体が実務に強くなる体制づくりを全力で後押しし、業界全体のさらなる発展に貢献していきたいという思いです。

今後のビジョンをお話しください。

現在、当社は第三創業期を迎え、AI時代における「労務管理のアップデート」に取り組んでいます。コロナ禍等を経て、社労士が顧問先を訪問し、雑談する時間は激減しました。給与計算のデータを見て、一言二言でも気付きを伝える時間が大切だと考えてプロダクトやサービスを作ってきましたが、なかなかそれがしづらい環境です。そこで社労士側に働き掛けるのではなく、企業側が人事労務のデータから課題を見つけて、社労士に相談したくなるような環境をつくっていきたいと考えています。 現在は、生成AIが普及したことで、企業の担当者がコンピュータを使って労務相談ができる時代です。社労士の業務も自動化に置き換えられる部分は確かに存在します。しかし、いかに自動化されても、間違ったデータが入力されれば、ミスが大きくなるだけです。AIの時代だからこそ、今まで以上にデータを“正確”に、そして“効率的”に登録することが求められているのです。それに加えて重要なのが“専門性”です。顧問先から相談された時に、話ができる材料は常に持っておく必要があります。社労士業界がAI時代においても発展し続けるには、この「正確性・効率性・専門性」の三つが備わったシステムを提供し、社労士の仕事の進め方自体をアップデートしていく必要があると考えています。 中小企業の労務担当者は、労務管理だけではなく、バックオフィス全般に向き合っています。社労士は、そういった担当者の方々にとって心強い相談窓口になるべきだと考えています。そこで税理士や弁護士等とも連携をとって、課題に応じて最適な方を紹介できる状態がつくれれば面白いと考えています。そうなれば弁護士や税理士の方々にも喜んでいただけますし、逆に顧問先をご紹介いただく機会も増えるでしょう。人間同士の繋がりをつくれるのは、人間だけです。社労士が顧問先にそういった付加価値を提供できる環境をつくっていきたいと考えています。

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