大学院では、どんな研究をしていたのですか?
大手通信会社と共同で、ヒーリングVRと呼ばれるジャンルの研究をしていました。VR環境下でどのようにリラクゼーションを誘発できるのかをテーマに、特に視覚が主流とされるVR領域において、嗅覚や触覚といった五感全体の活用にも注目していました。私の研究室では、横隔膜に電気信号を与えることで理想的な呼吸を誘導する技術に取り組んでいました。人それぞれに適した呼吸リズムをコンピュータが学習し、それに基づいて呼吸をサポートすることで、ヒーリング効果の向上が見込まれるという内容です。この研究で、バーチャルリアリティの学会にて論文を発表し、賞も頂きました。 研究活動の傍ら、個人でアプリ開発にも取り組んでいました。将来的に起業したいという明確な思いがあったため、研究だけではなく実践的な開発スキルを身に付けておきたいと考えたからです。大学院修了後、いきなり起業する道も考えましたが、まずは大規模な開発現場で経験を積むべきだと判断し、地方電力会社に入社しました。起業するなら地元・九州でと考えていたため、上京するという選択肢は当初から持っていませんでした。
新卒入社した大手企業を辞めて、起業した背景は?
大規模な開発は、社会インフラを支える非常に重要な仕事です。前職では、そうした社会的意義のある大規模プロジェクトに関わる中で、「小さくてもいいから、お客様の顔が見える開発がしたい」と思うようになりました。自分がつくったシステムを、目の前のお客様に届け、喜んでもらえる実感を得たい。その思いが、次第に強くなっていきました。同じような思いを持つ先輩社員や同期とも共感し合い、お昼休みに自主的に勉強会を開催して、新しい技術の習得に励みました。というのも、九州のシステム開発の現場では、未だに古い技術が使われているケースが多く、最新技術に触れる機会が限られていたからです。 「鉄は熱いうちに打て!」という言葉に背中を押され、情熱が冷めないうちに行動に移そうと、志を共にする先輩と二人で会社を退職し、当社を創業しました。私達が注目したのは、DXが進まない九州の中小企業の現場です。中には未だにWindows XP上で動く業務システムを使用している会社もありました。私達は、そうした企業に最新の技術を、手の届く価格で提供することを目指しました。中小企業の開発は、大規模なプロジェクトほどの予算や工数は必要としません。しかし、SI業界の構造的な課題もあり、彼らのDXはなかなか進まないのが現状です。だからこそ、私達がフットワーク軽く、実用的なソリューションを届けていく意義があると感じました。
WONQの設立からこれまでを振り返っての感想は?
正直に言って、当社の設立は“見切り発車”でした。お客様もエンジニアもいない中で、「九州の企業DXを推進する会社をつくる」という思いだけで飛び出したのです。当然、最初は営業にも苦労しました。どこの馬の骨とも知れない会社の話等、誰も耳を貸してくれませんでした。 それでも、熱意だけは誰にも負けないという気持ちで、知り合いの伝手を頼りに一件一件アプローチを続け、少しずつ案件を受注することができました。今もまだ「種まき」のフェーズだと思っています。中小企業のDXには大規模な開発が必ずしも必要ではない、という事実をもっと広め、信頼できるDXパートナーとして選ばれる存在になりたい。そして、地元・九州の未来を共に築いていきたいと考えています。 福岡は「エンジニアが活躍する街」を掲げ、市を挙げて支援する等、エンジニアフレンドリーな場所です。さらに、ベンチャー気質が根付いた土地柄であり、全国的にも起業率が高く、従来の常識にとらわれない発想や挑戦を歓迎する文化があります。一方で、保守的な側面も根強く、新参者には厳しい空気があるのも事実ですが、一度仲間と認めてもらえれば、驚くほど厚い信頼を寄せてくれるのがこの地域の魅力でもあります。 “九州人の手で、九州の未来を創る。” この思いを胸に、これからもあらゆる手段で積極的にアプローチを仕掛けていきたいと考えています。
仕事をする上で大切にしていることは?
私達エンジニアにとって、プロ意識は大前提だと考えています。お客様の期待を超えるクオリティーのシステムやアプリを提供することは当然です。ただ、それだけでなく、仕事に夢中になれるかどうかも大切な要素だと思っています。私は「仕事=生きる」と捉えているタイプなので、ライスワーク以上の“意味”や“情熱”を仕事に求めています。 エンジニアとのコミュニケーションもとても重視しています。エンジニアの中には、対話が得意ではない人も多く、当社のメンバーも比較的おとなしいタイプが多いです。だからこそ、彼らが不安や不満を抱え込まないよう、定期的に声をかけて会話することを意識しています。お客様に“かゆい所に手が届く開発”を提供するのと同じように、社内においても相手の気持ちに寄り添うチームを築いていくことが大切だと考えています。 そしてもう一つ、新しい技術へのキャッチアップについても触れておきたいです。テクノロジーの進化が加速する中で、エンジニアが学び続けなければならないのは当然です。ただ、それを“義務”や“プレッシャー”にしてしまっては本末転倒です。当社では、新しい技術を楽しみながら学び、自然と熱中できるような環境づくりを目指しています。
趣味は何ですか?
アウトドアが好きで、最近は糸島へサーフィンに出かけています。エンジニアの仕事は頭脳労働が中心なので、自然の中で体を動かすと、思考も気持ちもリフレッシュでき、次への活力が湧いてきます。 キャンプにもよく出かけています。時には役員と一緒にキャンプを楽しむこともあります。社員とも行ってみたいと思っているのですが、まだ声をかけられていません。「断られたらどうしよう」とちょっと遠慮してしまっていて。でも、これから社員が増えていけば、きっとキャンプ好きな人も出てくると思うので、「キャンプサークル」をつくって、定期的にアウトドアを楽しめたら最高だなと密かに考えています。