株式会社オニカム

美容室『ALBUM』を中心に、首都圏で多様なスタイルのサロンを展開する株式会社オニカム。同社は、「美容室×マーケティング」という戦略で業界に名を轟かせた存在だ。

比較サイトやクチコミサイトの会社をつくった槇野氏が、なぜ美容業界に目を向けたのか。そこには、起業家ならではの目線で見つけた共通点がある。

「美容師とお客様が近い距離で会話しながら過ごす美容室は、とても珍しいビジネスです」 施術に対する客からの評価だけでなく、会話の中で聞き出した生活や趣味、周りで話題になっていること……、これらは立派な“情報”になりうる。床屋談義という言葉があるように、美容室でも顧客との接点と、半径50cm以内に近寄れる信頼感がある。この情報をビジネスに生かさない手はない ーつまり、「床屋談義をお金にする」ー と、槇野氏は考えたのである。

設立後、美容業界に特化したマーケティング事業を始めようとしたが、まずは美容室事業を開始したという同社。
「美容室マーケティングをするなら美容室を自ら経営しないとだめだろうと考え、自社でも美容室を運営しようと動き始めました」（槇野氏）。

まずは現場を知ろうという試みとして始まった美容室『ALBUM』だが、やはり槇野氏のマーケティング戦略はぬかりない。活用したのは、同店がスタートした頃に広まっていたインスタグラムなどのSNSだ。写真や動画を中心に楽しむSNSは、美容室の経営と、とても相性が良いという。そこで積極的に、店内で手掛けたヘアスタイルのパターンを撮影して発信。みるみるうちにインスタグラムのフォロワー数は増え、2023年5月時点で約45万人と業界で抜群の知名度を誇っている。

「おかげさまで、HOT PEPPER Beauty AWARDのベストサロン部門では日本で一番予約される美容室として、5年連続全国1位受賞（※）を果たすことができ、名実ともに”日本で一番予約される美容室！”となることができました」
（※ 2018-2020 ALBUM新宿店、2021-2022 ALBUM銀座店にて受賞）

業界内で圧倒的な実績を残してきた同社。しかしこの実績は、あくまで次のマーケティング事業に繋げることが狙いだ。

同社は美容室を運営するほか、そこで得た経験やデータベースを基に大きく二つの事業を展開している。それが、美容室のマーケティングツール『IKINA』と、オンラインストアだ。

『IKINA』には、三つの機能があるという。まず一つ目は店舗スタッフの教育システムだ。ツールを見せてもらうと、スタッフ別の成績がグラフで表示される。
「おしゃれ度やヘアケアスキル、顧客単価、リピート率等、美容師として必要とされる全ての項目についての成績が出され、ランキング化されます。これで、自分の強みと弱みがはっきり分かるのです。店長や副店長からの指導コメントも入り、フォローアップも可能。このシステムは、スタッフ達が上を目指すモチベーションになっていますね」
こういった美容師の日々のレベルアップもあるからこそ、絶大な人気を誇る美容室になったのだろう。

二つ目は、そんなスタッフの店舗運営をサポートする発注システムだ。こちらでは、店舗で使用するカラー剤等が一定数の在庫を切ると、自動で発注される。スタッフが現時点での在庫数をiPadを用いてIKINAシステムに入力するだけで、あとは店に製品が届く。些細なことだが手間のかかる発注業務がなくなるだけで、スタッフの仕事はかなりスマートになりそうだ。

そして三つ目が、対利用客とのシステムだ。アプリ『IKINA』を登録した客のアカウントに、店舗で撮影した施術のビフォーアフターを反映する。ヘアスタイルの仕上がりを確認できることはもちろん、次回の来店時に写真を見せてイメージを伝えることもできる。また、このアプリからスタイリング方法を美容師へ相談する等のコミュニケーションも可能だ。

なお同社は、フランチャイズ店舗の展開を予定しており、それらの店舗にも『IKINA』の利用を広げ、活躍をサポートしたいと考えている。

そして同社の新たな取り組みが、オンラインストアだ。全国に流通するシャンプーやスタイリング剤の中には、美容室店頭でしか販売されていないものも多数ある。今まで消費者にはなかなか手に入らなかった商品をオンラインで販売する画期的なサービスが、『ALBUM オンライストア』だ。話題のブランド商品も入手できるため、利用客から圧倒的な支持を得ている。同ストアでの取扱商品の中には、日本で一番売り上げる商品も登場しており、急成長している。
「今後は、『IKINA』のような自社サービスやオンラインストアで販売できる自社プロダクトも続々開発していく予定です」

「我々は情熱を持ち、情報を分析し、行動し、お客様の信頼をお天道様に胸を張って獲得します。」――こちらは、同社が掲げる行動指針だ。特に後半の言葉は、思わずドキッとしてしまう。

“お客様第一主義”は大前提。その上で、従業員も弊社に関わる関連会社様も、幸せになれるような会社にする。また、人として正しい行動をとり、お天道様に胸を張って仕事をしよう ということだ。

同社が『IKINA』のような取り組みを行うのは、単にマーケティングで会社の収益を上げたいからではない。「元々槇野には、美容師が時間や稼ぎを搾取されがちな美容業界の課題を解決したいという思いがありました。そこで、得意分野だったマーケティングを活用しました。美容師のレベルアップと業務効率化を目指し、お客様の満足度やリピート率も上げることで、美容室全体の底上げもできるように取り組んだのです」。現に『ALBUM』のオーナーでもある槇野氏は、美容室事業をはじめ、同社から報酬を得ていないという。ここからも、槇野氏の本気度がうかがえる。

また、美容室の現場と本部のギャップを最小限にすることも心掛けている。本部のSV（スーパーバイザー）は定期的に店舗へ赴き、スタッフとの情報共有を欠かさない。システムの構築だけでなく、こうした丁寧なコミュニケーションにも、美容室のモチベーションや働きやすさの理由がありそうだ。

本部の体制は約30名。この規模の大きさは業界でも珍しい。槇野氏が同社から報酬を得ない分で社内投資をふんだんに行い、頑丈な体制を整備したという。そして本部の従業員の働きやすさも目一杯考慮しているそうだ。

「リモートワークは大々的に推奨しています。SVの所属する営業部門は例外的に出社が原則とはなりますが、コーポレート部門はスケジュールに応じて月の半分は在宅勤務です。そのほかの部門では、月に1、2回程度の出社に止まるスタッフもいます。特に開発部門は、ほぼ全てがオンラインで完結するため出社の必要がないありません。スタッフ同士で数カ月ぶりに会うなんてことも珍しくありません」（安田氏）
実際、取材に訪れた日もオフィスの半分以上が空席だった。

もちろんリモートワークの中でも、部門内のコミュニケーションとタスク管理は欠かさない。困っているメンバーに手を差し伸べる体制や、一人ひとりの成果を社内で公平にジャッジする評価制度も整えている。

人々のキレイを叶える美容師も、彼らを支える本部のメンバーも、幸せに――。起業家・槇野氏を中心につくり出した同社は、みんなの“働く幸せ”がデザインされた最高のステージだ。