Amazonでは、どのようなシステムを開発していましたか?
大学院では免疫や生物の仕組みを数理的に明らかにするという研究していました。研究職という選択肢もありましたが、将来を考える中で、これまで身に付けた情報処理の知識を生かして、ソフトウェアエンジニアとして働きたいと思うようになりました。 Amazonを選んだ理由の一つが、物流の現場です。利用者にとってAmazonは非常に便利なサービスですが、物流センターで働く多くの人達の仕事が、快適な利用体験を支えています。当時は物流センターでの労働環境について厳しい意見を目にすることもありました。実際に課題があるのであれば、自分の技術を使って改善したい。そう考えてAmazonへ入社しました。 担当したのは、物流センター内の在庫管理や、コンベア、ロボット等の設備を動かすシステムです。例えば、複数の商品を注文した場合、注文ごとに商品を棚から集めていては効率が悪くなります。そこで、複数の注文の商品をまとめて取り出し、後から注文ごとに仕分ける。その仕分けを自動化する機械とAmazon全体の在庫管理システムを繋ぎ、機械に適切な作業指示を出すソフトウェア等を開発していました。 Amazon全体が持つ膨大な情報から、現場の設備を動かすために必要な情報だけを取り出して渡す。物流を物理的に動かす仕組みと、ソフトウェアの間を繋ぐ仕事を約6年間経験しました。
大企業のAmazonから、創業間もない株式会社Kiviaqへ転職した理由は?
元々スタートアップには興味がありました。学生時代にシリコンバレーを訪れて起業家の話を聞く機会があり、大学時代の友人にも自分達で事業を始める人が多かったため、いつかは自分もスタートアップに関わりたいと考えていました。 その中で当社の構想を聞き、「これは今やるべきサービスだ」と感じました。同時に「本当に実現できるのだろうか」という感覚もありました。実際に薬局を見せてもらうと、在庫管理をはじめ、解決しなければならない課題が数多くありました。当社は、調剤薬局を一つの物流拠点として捉え、Amazonの物流センターを作るように、在庫や人の動きまで含めて全体を設計し直そうとしていました。 Amazonには大規模な投資や長年蓄積してきた仕組みがありますが、当社はスタートアップです。同じ発想を薬局という異なる領域で実現することは、技術的にも事業的にも難易度が高いと感じ、エンジニアとして挑戦する意味があると思いました。既に実現できると分かっていることだけを作っていても、大きなチャレンジにはなりません。 そして何より、改めて考えてみると、患者さんが体調の悪い中で薬局へ行き、薬ができるまで待つことが当たり前である必要はない。自宅で薬を受け取れる体験は、将来的には当たり前になる可能性があります。その新しい当たり前を自分達でつくれることに、大きな魅力を感じました。
Kiviaqで開発する面白さは、Amazon時代とどのような点が違いますか?
一番大きいのは、患者さんが自宅で薬を受け取れるという新しい体験を、会社全体でつくっていることです。 Amazonほどの規模になると、非常に大きなサービスの中で、一つのプロセスを深く改善する仕事が中心になります。それ自体に大きな意義はありますが、サービス全体を自分達で作っている感覚とは少し異なります。 当社へ入った当初は、外部の開発会社に作っていただいた最小限のシステムを引き継ぐところから始まりました。まだ利用者も少なく、私自身が薬局の事務作業を経験しながら、現場で何が起きているのかを理解していきました。 利用者が増えると、それまで問題にならなかったことが次々に課題になります。例えば、オンライン服薬指導も、同じ時間に何人でも予約できる状態では、利用者が増えた時に待ち時間が生まれます。そこで15分単位の予約枠を設定し、その時間に対応できる人数を管理できる仕組みに変更しました。こうした課題を現場で見つけ、すぐに改善できることが面白いですね。 Amazonでは組織や契約上の理由もあって、物流センターで実際に作業する方からエンジニアが直接話を聞けませんでした。当社では、薬局で働く人や配送スタッフから「ここが使いにくい」「配送時にこんな問題がある」と聞けば、直接確認してシステムへ反映できます。現場とエンジニアリングの距離が非常に近い。自分が作ったものによって業務がどう変わったのかまで見られることは、現在のフェーズならではの魅力だと思います。
AIの進化によって、Kiviaqのシステム開発はどのように変わると考えていますか?
これまでは、ソフトウェアを開発するには非常に大きな工数が必要でした。そのため、薬局向けのシステムを開発する企業も、一度作ったものを多くの薬局へSaaSとして提供しなければ、ビジネスとして成立させにくかったと思います。 AIの普及によってソフトウェアの開発コストは大きく下がり始めています。そこで可能になるのが、「自分達の薬局で使うためのシステムを、自分達で作る」という考え方です。 一般的な薬局向けシステムに自分達の業務を合わせるのではなく、当社が実現したい患者体験から逆算して、必要なシステムを作る。以前であればコストが合わなかった方法ですが、AIを活用すれば現実的になりつつあります。そこは当社の競争力になると考えています。 現在、独自の在庫管理システムの開発を進めています。患者さんから処方せんが届いた時点で、必要な薬が在庫にあるかを自動で判定する。将来、拠点が増えれば、「この店舗にはないが別の店舗にはある」「1時間では届けられないが翌日なら届けられる」といった判断まで、迅速にできるようにしたいです。 患者さんに当社を選んでもらうには、病院の隣にある薬局へ行くよりも、圧倒的に便利な体験を提供しなければなりません。そのためには、表側のUIだけではなく、在庫や調剤、配送を含めた薬局のオペレーションを極限まで効率化する必要があります。AIは、そのための開発スピードと選択肢を大きく広げる技術だと考えています。
仕事をする上で大切にしていることは?
Amazonで学んだ考え方の一つに、問題を個人の注意力ではなく「仕組み」で解決するというものがあります。 何か失敗した時に、「次から気を付けます」で終わらせても、同じ問題はまた起こります。Amazonには「Good intentions don't work, only mechanism works.」という考え方があり、善意や注意力だけに頼らず、失敗が繰り返されないメカニズムを作ることを重視します。 当社もまだスタートアップなので、上手くいかないことは数多くあります。その時に誰かを責めるのではなく、「なぜ起きたのか」「次に起こさないためには、どのような仕組みに変えればいいのか」を考える。その姿勢は、私自身も仕事をする上で大切にしています。 そして、こうした働き方を実践するために、課題を自分事として捉えられる、オーナーシップのあるエンジニアと働きたいです。極端に言えば、私が1カ月仕事を離れることになっても、「この人がいればプロダクトは大丈夫」と思える人が理想です。与えられた実装だけを担当するのではなく、プロダクトに必要なことを考え、自分で判断し、必要であれば周囲を巻き込みながら進められる。今の当社では、それくらいの主体性が必要だと思っています。 私自身、現在はAIを積極的に使っており、コードを一から自分で書くことはほとんどありません。設計を考え、AIに実装させ、内容をレビューして修正する。エンジニアの仕事は、コードを書くことから、何を作るべきかを考え、品質に責任を持つ方向へ変わりつつあります。だから、技術だけを追うのではなく、「どうすればもっと良くなるか」を考え続けられる人と一緒に新しい薬局の仕組みを作っていきたいですね。
