ドラマーからネットワークエンジニアに転身したのはなぜですか?
高校を卒業してから、バンドでやっていこうと思って上京しました。ドラムを叩きながらアルバイトで生活していたんです。でも、2〜3年くらい経つと、「このままバンドだけで食べていくのは難しいな」と現実が見えてきました。 当時からパソコンやインターネットには触れていて、勉強する機会もありました。これから必要になる分野だろうと思い、最初に始めたのが一般ユーザー向けのインターネット接続サポートです。「インターネットに繋がらない」といった問い合わせに電話で対応する仕事ですね。 そこでスーパーバイザーを経験し、法人向けのサポートも担当するようになりました。サポートの仕事も面白かったんですが、だんだん「使っている人を支えるだけではなく、インターネットそのものを作りたい」と思うようになりました。そこで転職して、通信キャリアのネットワーク構築プロジェクトへ入りました。3年ほど通信キャリアのネットワークを作り続け、そこから本格的にネットワークエンジニアとしてのキャリアが始まりました。 さらに転職した先で、大手自動車メーカー関連のネットワーク設計・構築を担当するようになりました。最初は一人で入った仕事でしたが、とにかく面白くて、少しずつ仕事と仲間を増やしていった。気がつけば10人くらいのチームになっていました。このプロジェクトは、独立後の現在も続いており、もう20年以上の付き合いになります。
経営を学ぶために入ったスタートアップでは、どんな経験をしたのでしょうか?
バンド活動を止めた頃に、自分の人生について「25歳で結婚して、30歳で家を建てて、35歳で社長になる」と決めていたんです。結婚は25歳でした。家は31歳だったので、そこだけ1年遅れましたけどね。 ネットワークエンジニアとして仕事を続ける中で、いずれ会社を経営したいという気持ちはずっと持っていました。エンジニアとしてネットワークを作ることは分かっても、会社の作り方は分かりません。それなら、小さな会社へ入って経営を見てみようと思い、7名ほどのスタートアップへ転職しました。 私はエンジニアを育てる役割を期待されて入社したのですが、会社は1年ほどで約100名まで大きくなりました。毎月のように未経験者を採用し、現場へ配置していく。本人の経験や希望と違う仕事へ送ることもありました。 私自身もプレイングマネージャーとして仕事を持ちながら、20名ほどのエンジニアを見るようになりました。みんな同じ場所にいるわけではありません。それぞれ別の現場で働いているので、一人ひとりが何をしていて、何に困っているのかまで把握できなくなっていきました。 当然、辞めてしまう人も出てきます。私がやりたかったのは、エンジニアを集めることではなく、エンジニアを育てることでした。会社が急激に大きくなる中で、やりたかったことからどんどん離れていきました。「こういう状態はつらいな」と感じ、1年あまりで私も会社を辞めました。
アイティアスリート株式会社を立ち上げた背景は?
スタートアップを退職した後、以前勤めていた会社へ戻りました。そこから3年間、現場で仕事をしながら経営について勉強し、独立の準備を進めました。 一緒に会社をやりたいと言ってくれるエンジニアも現れました。今の当社の役員です。独立する時は、会社を黙って辞めるのではなく、社長へ直談判しました。喧嘩別れして、まったく別の場所で一から会社を作るのは大変です。私としても、それまでお世話になった会社との関係を切りたいわけではありませんでした。 そこで、「私が社員として一つのチームを動かすより、会社を作って動いた方が、もっと大きなビジネスを作れます。そうなれば、あなたの会社にもメリットがあります」という話をしました。社長に「本当にやりたいのか」と聞かれて、「やりたいです」と答えました。最終的には理解していただき、取引関係を保ちながら独立することができました。 社名の「アスリート」には、単に体を動かす人という意味ではなく、高みを目指す人というイメージを込めています。ネットワークの専門家集団として、もっと上を目指していく。そんな会社にしたいと思って名付けました。 35歳で社長になるという計画には少し遅れて、36歳でしたね。
社員には、どのようなキャリアを歩んでほしいですか?
エンジニアとして技術を高めることは大前提ですが、その先にどのような道を歩むかも、自分で選べるようになってほしいと思っています。設計・構築の専門性を究める人もいれば、メンバーをまとめるリーダーになる人もいる。顧客との関係や売上、人材の育成まで担い、一つの組織を経営する立場へ進む人が出てきてもいい。全員に同じキャリアを求めるのではなく、本人が目指す将来に合わせて、挑戦できる仕事を作り出せる会社にしたいと考えています。 会社の中で責任ある立場を目指すだけでなく、将来、自分で会社を作りたいという人が出てくることもあるでしょう。私は、それも一つの選択肢だと考えています。私自身、前の会社へ独立したいという意思を伝え、話し合いを重ね、関係を保ちながら会社を立ち上げました。きちんと自分の考えを伝え、互いに納得できる形を作れば、会社を離れた後も協力関係を続けることはできます。当社から独立したいという社員が現れた時にも、誠実に向き合ってくれるのであれば、挑戦を応援したいと思っています。 社員がずっと当社で働き続けることだけが、幸せだとは思っていません。一人ひとりが自分のやりたいことを見つけ、必要な技術や経験を身につけ、自分の意思で次の道を選べることが大切です。アイティアスリートで働いた時間が、その人の可能性を狭めるのではなく、選択肢を増やすものになる。そんなキャリアを描ける会社にしていきたいと思っています。
仕事をする上で、大切にしていることは?
一番大切なのは、誠実であることだと思っています。長く仕事をしていれば、何でも予定どおりにできるわけではありません。大きなプロジェクトでは、「これは難しいな」と思うこともありますし、期日に間に合わないこともあります。そういう時は、なるべく早くお客様へ正直に状況を伝えます。できないことを隠して、最後になって「やっぱりできませんでした」と言う方が、お客様は困ります。 私は、できることを何でも増やせばいいとは思っていません。何でもできますと言っても、品質が伴わなければ意味がない。できないものは、できないと伝える。ただ、「できません」で終わるのではなく、「この方法ならできますが、どうでしょうか」と代わりの方法を出す。そうすれば、お客様の仕事は前へ進みます。 長く仕事をしていると、当時担当者だった方が部長になったり、一緒に仕事をしていたSIerの営業の方が部門長になったりします。しばらく連絡を取っていなかった方から、「中村さん、会社をやっていると聞いたんですけど、この仕事をお願いできませんか」と電話をいただいて、また新しい仕事が始まることもあります。結局、しっかりと仕事をすることが、一番の営業なんだと思います。
