最初の起業までのキャリアについて教えてください。
大学を卒業後大手人材サービス会社に入社し、法人向けコンサルティング営業を3年間やりました。同社を選んだ理由としては、企業を経営するためにはヒト・モノ・金・情報が必要だと言われていますが、その中でも規模や業界を問わず共通しているのが「ヒト」だと考えたからです。 同社を退職する際には既に起業を考えていましたが、上司から引き留められ、事業計画を見せるように言われました。それを見た同社創業者であり不動産投資会社を立ち上げた方から「うちでやらないか」と誘われ、ジョインすることに。当時の自分のできる小さな範囲で起業するのであれば、ここで仕事をするのは一つの通過点として大きな学びになるのではないかと考えたからです。 結果として2~3年の間に不動産の投資業務と人事業務の責任者として従事し、まさに「ヒト・モノ・金・情報」の動きや重要性を学ぶことができたと考えています。
一度上場を経験された後、再び起業という選択をされた背景には、どのような想いがあったのでしょうか?
前職では、大学時代の仲間とともにスマホアプリのカジュアルゲームの会社を立ち上げ、4年でマザーズ(当時)上場、さらにその1年半後には東証一部(現プライム)への鞍替えを経験しました。目標にしていた「最短での上場」を実現できたことは、自分たちにとって一つの到達点だったと思います。 ただ、正直なところ、感情面ではやりきったという達成感もありましたが同時に空虚さもあったのが本音です。当時の僕らは、PLを最重要指標として売上・利益の創出に重きを置き、それ以外のことは必要最低限のこと以外削ぎ落としながら、全力で走り抜けていました。とにかく短距離走のような経営で、属人性が高く、戦略的な事業展開やそれを支える組織としての仕組み等、目には見えづらいけれど本質的で重要な部分に十分な時間や思考を割けていなかったと思います。 その結果、上場という事実はあっても、「社会に対して何を残せたのか」「誰を幸せにできたのか」といった問いに、胸を張って答えられない自分がいました。自分たちの矢印がどこまでいっても“自分たち”にしか向いていなかったと気づいたことは、大きな学びでもあり、強い反省でもあります。 その後、そうした経験に加え、プライベートでも子どもの誕生といった大きな転機が重なり、自分自身の人生をあらためて見つめ直す時間を持つようになりました。特にコロナ禍をきっかけに、これからの社会や自分の役割について考えるようになり、「次に起業するなら、もっと社会のためになることをやりたい」と自然に思うようになっていきました。 今、自分の中ではこれが“2周目の人生”だと捉えています。これからの40年近い時間をかけてでも、時代の変化があっても残り続けるもの、社会課題に向き合って少しでも良くしていけるものをつくっていきたい。そう思ったのが、再度起業を志した理由です。前回は自分たちの成長を主軸に置いた起業でしたが、今回は社会にとって意味のある挑戦を、仲間と一緒にやっていきたいと考えています。
医療・介護業界向けヘルステックという領域に着目されたのはなぜですか?
医療・介護の業界に注目した理由は、この産業の中に「本当に人のために働きたい」と考えている方々が多く存在していると知ったからです。実際に現場で働く方々にお話を伺っていく中で、家族の介護経験をきっかけに資格を取り、この仕事を選んだという方が非常に多く、使命感や倫理観の高さに心を打たれました。 そんな方々が日々向き合っている現場には、「情報が外に出ない」「業務の進め方が属人化している」「本来向き合いたい仕事に時間を割けていない」といった構造的な課題が数多く残っていました。たとえば同じ業態・同じエリアの施設でも、請求までの業務フローや売上管理方法や戦略が異なっていたり、法人としての規律やノウハウが曖昧なまま運営しているため、同じ法人内であっても成果の出方が全く異なっていました。 僕はその状態を知ったときに、この業界にこそテクノロジーが果たすべき役割があると感じました。 そして、自分自身がその一助となるようなプロダクトをつくりたいと自然に思うようになったんです。 現在足元では、住宅型有料老人ホームなどを対象に、施設運営の根幹となる「シフト表」と「ルート表」を自動生成し、収益構造を可視化・最適化できるツールの開発を進めています。目指しているのは、単なる効率化ではなく、「人が本当に向き合うべき仕事に集中できる環境」をつくること。結果的に、経営側にも現場にもプラスになる、そんなプロダクトを届けていきたいと考えています。
今どのようなことに取り組まれていますか?
現在、介護施設向けのプロダクト開発を進めています。ただ、単に早くリリースすることを目的としているわけではなく、「この業界において本質的に求められているものは何か」を丁寧に見極めながら進めているフェーズです。 そのために、全国各地の介護施設に実際に足を運び、制度や業務フロー、運営の仕組みだけでなく、現場の空気感や職員の方々の声にもじっくりと耳を傾けています。業界の構造を深く理解し、その上でどのような提供価値が真に必要とされるのかを探るプロセスにこそ時間をかけています。 ありがたいことに、プロダクトの構想段階でも「今の内容でも有償で使いたい」といった声をいただくことがあり、現場からコンサルティングのご相談をいただく機会も少なくありません。ただ、そういった短期的な収益機会に対しても、慎重に向き合うようにしています。というのも、私たちは常に「その一歩が、自分たちの描く中長期のビジョンにつながっているか」を判断基準にしているからです。 もちろん、スタートアップにとって足元のキャッシュフローや売上も非常に重要ですし、意識しないわけではありません。ですが、それ以上に、「この先の10年、20年にわたって業界に必要とされるプロダクトとは何か」を見据えて意思決定することの方が、私たちにとっては重要だと考えています。 医療・介護業界はITリテラシーの課題や業務逼迫の現実もあり、「良いテクノロジーがあれば使ってもらえる」という単純な話ではありません。むしろ、「どうすれば現場で自然と使われるか」「どうすれば業務が楽になったと実感してもらえるか」といったところまで落とし込んでいく必要があります。だからこそ、単に“使える”ではなく、“現場にとってなくてはならない”存在へと昇華させることを目指しています。 事業としてもチームとしてもまだまだ立ち上げのフェーズではありますが、自分たちの仮説と、目の前の現場の声を往復しながら、一歩ずつ積み上げています。今すぐ売ることよりも、磨いてから届けること。その姿勢を大事にしながら、私たちはこの産業に長く根ざすプロダクトをつくろうとしています。
どんな方と一緒に働きたいですか?
医療・介護という巨大産業は、依然として構造的な課題が多く、業界全体の変革は始まったばかりです。そのため、正解のない中でも柔軟に動き、自ら役割を広げていける方とご一緒できたらと思っています。 創業初期の今は、プロダクト開発に加えて、現場ヒアリング、業務プロセスの可視化、商談、採用など、多岐にわたる課題に日々向き合っています。決して整った環境ではありませんが、だからこそ「必要だからやる」「面白そうだからやってみる」といった柔軟さや泥臭さを前向きに楽しめる方に加わっていただきたいと考えています。 また、エンジニアの方にも、単なる開発担当にとどまらず、プロダクトと現場の両方に興味や好奇心を持って、自分ごととして向き合っていただけると嬉しいです。 もちろん、こうした挑戦は一人ではできません。立場や領域を越えて多くの人と連携し、チームとして大きな挑戦を前に進める。その過程を楽しみながら、自身の可能性も広げていけるような方と出会えることを楽しみにしています。