株式会社ひらまつ

株式会社ひらまつは、レストラン事業、ブライダル事業、ホテル事業、外販事業を展開している、東証スタンダード上場企業である。同社の事業内容や特徴は、次のとおりだ（2025年7月現在）。

●レストラン事業

全国に31店舗の飲食店を運営。フランス料理を中心に、イタリア料理、日本料理というジャンルと、「グランメゾン」と呼ばれる高級レストランやカフェ、料亭といった業態の幅広さを持つ。各店舗は、シェフや支配人、ソムリエ等の個性を最大限に表現し、個性を確立させていることが大きな特徴だ。したがって、本部が主導してメニューを企画、食材を供給し、マニュアルに従って運営するチェーンオペレーションとは一線を画している。

一方で、“ひらまつブランド”の傘下で運営できるメリットや、個人店経営では不可能な食材購入のスケールメリット、新規出店等への投資といった企業としてのアドバンテージを発揮。このバランスが同社の最大の強みと言える。

●ブライダル事業

ブライダルが行えるキャパシティを持つ15カ所のレストランで“レストランウェディング”を運営。1991年に日本で初めて「レストランウェエディング」がスタート。レストランにブライダル専任スタッフを置いたパイオニアである。ブライダルスタッフとシェフ、支配人がワンチームとなり、“圧倒的な食体験”を伴う、新郎新婦や参列者の誰もが思い出に残るウェディングを提供する。

●ホテル事業

伊勢志摩（賢島）、熱海、箱根（仙石原）、沖縄（宜野座）、京都、軽井沢の6カ所で、これまでなかった「滞在するレストラン」をコンセプトにした“オーベルジュ”を運営。グランメゾン級のレストランに高級リゾートホテルが併設された斬新なスタイルで、各地の恵みが味わい尽くせるラグジュアリーな滞在価値を提供している。


●外販事業

フランス各地の最高峰のワイナリーと契約し、温度管理等の品質管理が可能な直輸入体制を構築。店舗で提供するだけでなく、ECでも直接販売している。

以上に加え、新規事業開発にも取り組んでいる。方向性は大きく二つある。

一つは、これまで同社が培ってきた飲食業の運営ノウハウといった知的財産を活用するサービス。海外のハイブランド等、同社と親和性が高い企業が新規展開する飲食店の運営受託や新規開業コンサルティングを手掛ける。もう一つは、ECにおける取扱商材の食品等への大幅な拡大だ。いずれも、リアル店舗以外の事業チャネルを構築し、これまでリーチできなかったエンドユーザーにアプローチするという大きな狙いがある。

同社は1982年創業。創業者の平松氏は、フランスで修業を重ね、1982年の帰国後に東京・西麻布に『ひらまつ亭』を開業する。連日満席という繁盛店となり、そんな平松氏の下で修業したいという料理人が集まる。
成長していく弟子たちに新しいレストランを任せたいと、個性を最重視する多店舗展開を決意。その後、現在のような多彩な業態に広がっていった。

1991年には前述のとおり日本初のブライダルスタッフを擁するレストランウェディング、1996年には日本初のインターネットカフェ、1997年には日本初の本格ブーランジェリーカフェや本格デセールカフェをオープンさせるといった先進的な取り組みを続ける。
2001年には本場のパリにレストランをオープンさせ、4カ月後にミシュランガイドの一つ星を獲得するという史上最短で、ミシュラン史上初の日本人オーナーシェフの星獲得となった。

2002年、そのパリの店に、現代フランス料理の生みの親で“神”と讃えられるポール・ボキューズ氏が来店したことを機に、同社との特別な関係が生まれる。そして、同社は彼の名前を冠した店を、本拠地であるフランスのリヨン以外で唯一、オープンすることを許された。
2003年にはジャスダック、2010年には東証一部への上場を果たす。高級飲食店の上場は世界的にも異例のことだ。
2008年にワインの直輸入システムを構築、2011年にはECをスタートさせて外販事業を開始。2016年にはホテル事業をスタートさせた。

そのように発展してきた同社であるが、2020年にコロナ禍の直撃を受ける。これを機に、生き残りを懸けて同社ならではの価値を再整理し、新旧メンバーが議論を重ねて次のMISSION、VISION、VALUEを掲げた。

●MISSION：食の可能性を広げ、心ゆさぶる「時」を提供する。
●VISION：この世界を、食の感動でつながる大きなテーブルに。
●VALUE：お客様の期待を超える、ひらまつの“WOW！”
・Warmful：一人ひとりの人生に寄り添った、オーダーメイドの優しさと圧倒的なウェルカム感で大切な時にいつも訪れたくなる場所であり続けます。
・Original：食のパイオニア企業として、本物の質を追求し、常識にとらわれない発想で、誰かに話したくなるような美味しさを超えた新たな食体験を提供します。
・Wonderful：それぞれの店舗や事業が連携し、食・人・地域の魅力を最大限に引き出しながら、関わるすべての人たちに驚きと喜びを届けます。

「当社の価値の源泉は人材であり、そのあるべき考え方や方向性を明確にしたと自負しています。これを力に、未来に向けてチャレンジしていきます」と取締役COOの植杉かおり氏は強調する。

2025年7月現在、同社の社員数は731名。「“動物園”と例えたいほど、多様な個性の持ち主が集まっている」と植杉氏。その全体を束ね、組織風土づくりを推進する基軸として、前述のVALUEと、「誰かを幸せにするこの仕事を、誰よりも楽しむ。」「お客様のリクエストには、101%の優しさで応える。」といった8項目のSPIRITが掲げられている。これらは、人事考課における定性評価指標に組み込む等して浸透・促進を図っている。

「私をはじめとする経営幹部層は、“自己表現を重視する”“目の前の人の幸せを大切にする”といった創業時からのフィロソフィーに魅かれて入社し、日々吸収してきたメンバーが揃っています。こうしたメンバーがフィロソフィーの本質に則って答えを出し、マネジメントし続けることで、自ずと当社のカルチャーが形成されていると思います」（植杉氏）。

2024年4月には「ひらまつアカデミー」を立ち上げ、創業以来の同社の経営を振り返り、フィロソフィーを再確認する社員教育に着手した。「例えば、レストラン業でスタートした当社がなぜブライダルを始めたのか、あの時なぜあのような経営判断を下したのかといった、その現場に立ち会った“生き証人”がリアルにエピソードを語ることで、理解を深める狙いがある」と植杉氏は言う。

そして、2025年1月、2030年度までの中期経営計画を策定した（対象期間：2025年4月～2031年3月）。この骨子として、新たに次のパーパスを掲げている。

【美しい味を、未来へ。】

このことについて、植杉氏は次のように説明する。
「“美味しい”と書いて“おいしい”と読みます。当社は四十数年にわたっておいしい料理を提供してきました。それをもたらしてきたのは、料理人や支配人等、当社の“人財”にほかなりません。しかし、今後もこうした人財を確保し、技術を保持していくことに強い危機意識を持っています。そこで、中期経営計画ではパーパスを軸に、当社が培ってきた強みである“業界最高レベルの料理人とサービススタッフの集団”を最大限に活用する人財戦略と事業戦略を打ち出しています」

人財戦略としては、①複線化されたキャリアパスプログラムと職制・評価・報酬制度の再構築、②キャリアアップのための研修・教育制度、③業界最高水準の報酬の3項目、事業戦略としては、①コアブランドのイノベーション、②自社ブランド戦略の再構築の2項目が掲げられている。詳しくは、ぜひアクセスの上確認してほしい。

そんな同社が求める人材像について、植杉氏は次のように期待を寄せる。
「やはり、美味しいものを食べることが好きな方ならば、当社の仕事が楽しめると思います。その上で、自己表現を重視する当社で、レールがなくとも自らなりたい姿に向かっていける方にぜひ加わっていただきたいと願っています！」