なぜ今、監査法人としてDX・ITアドバイザリーに力を入れているのでしょうか?また、当該業務を手掛けるDigital Advisory事業部のミッションについてお教えください。
公江氏:監査法人は、監査を通じて企業の“信頼”を守る存在です。しかし、その役割は今、“信頼”の担保から“未来の共創”へと大きく進化を遂げるフェーズにあるといえます。 監査法人としては、対象企業の不正を見逃さず厳密に監査を行うことが本領であり、社会からの期待でもあります。ところが、過去、監査法人に対してその品質が疑われ、監査以外の業務に力を入れる余裕がない時期がありました。あずさ監査法人では監査品質の向上に注力してきたわけですが、監査におけるIT監査の重要性がますます高まるなかで、ITに関する能力・知見も、同時に相当蓄積してきました。 一方、日本経済においてはDXが大きな課題となっており、成長の足かせとなっています。監査品質の向上は終わりのない取組みですが、一定の成果も出てきたこともあり、社会やクライアントの期待に応えるためのアドバイザリー業務を我々の本業の1つととらえなおしました。ITやDXに関して、監査で蓄積した能力・知見と、監査法人の独立性・中立性をアドバイザリー業務に生かすことで、日本企業の変革に貢献できると考えるに至っています。このため、2023年度より4年計画でIT・DX領域のアドバイザリー業務を拡大すべく投資を行っており、この『Green』での募集はその一環です。 島田氏:Digital Advisory事業部のミッションとしては、対外的なものと対内的なものの2軸があります。 対外的には、クライアント(監査先以外)のカウンターパートであるCIOやCDOに伴走し、その課題解決の支援を行うことです。この方々は、DX推進という攻めの部分だけでなく、セキュリティといった守りの部分や、莫大なIT予算の適正な管理といった数多くの課題のなかで悩みを抱えています。これに対してあずさ監査法人は、監査業務で培ったデータ活用の知見やIT領域における数多くのスペシャリストを擁し、中立的な立場で、クライアントに徹底的に伴走して課題解決のご支援をしていきます。また、そのために、スペシャリストが集まってプロジェクトチームを組み、多様な知見を出し合いながら推進していける体制を構築しています。 対内的には、以上のような全方位的なサポートを行っていくために、数百名に及ぶスペシャリスト集団をサステナブルな組織にすることがミッションです。
公江さんはあずさ監査法人のアドバイザリー部門を立ち上げられた方ですが、このDX・ITアドバイザリーの拡大は法人のビジネスにとってどういった意味があるとお考えですか? また、島田さんが管轄されている現場では、実際にどんな相談が増えているのでしょうか?
公江氏:あずさ監査法人では、財務会計、金融、リスクマネジメント、内部統制等、監査で必須となる専門能力を高めつつ、その能力をアドバイザリーという監査以外の業務に拡張させてきました。監査業務とアドバイザリー業務を同じクライアントに提供することは、監査の独立性を保つ観点から禁止されており、我々もこれは厳格に順守していますが、監査法人内部で監査とアドバイザリーが情報共有、人材交流、切磋琢磨などをすることに制約はなく、従来から我々は監査で培われたスキルやノウハウをアドバイザリーに活用しています。 ITも監査に必要な専門性の1つであり、社会・クライアントから期待される形でアドバイザリーに活用していくことは必然と考えています。あずさ監査法人は上場企業等約700社の監査におけるデータ分析の実績を有しています。この知見をアドバイザリーに活用できるメリットもあります。 島田氏:クライアントからのご相談としては、最近ではやはり生成AIの活用が多いですね。生成AIは導入が容易であり、問いかけると即座に回答してくれるなどメリットが多い反面、セキュリティのリスクや回答の妥当性に疑問がある場合が少なくないことなどが、利用の足かせになっているという実情があります。当部門にはAIエンジニアやデータサイエンティスト等が揃い、豊富なデータ分析の実績を生かして的確なサポートが行えていると自負しています。
ほかの大手監査法人やコンサルティングファームとの違いとしては、どういったことがあるのでしょうか?
公江氏:あずさ監査法人が属するKPMGジャパンは、KPMGインターナショナルの日本におけるメンバーファームの総称です。監査や税務、アドバイザリーの3領域で10のプロフェッショナルファームを擁していますが、KPMG税理士法人とKPMG社会保険労務士法人を除き、親会社はあずさ監査法人です。これは我々が、監査法人が立脚している“信頼性”を重視していることの現れです。こうした構造はほかにない特色であり、大きな差別化要素になると考えています。 日本のITコンサルティングではよく見られることですが、システム構築のチームを抱えることで、上流フェーズのコンサルタントはこれを稼働させるために仕事を獲得する誘因が働いてしまいます。また、自社が得意とする特定のITソリューションの導入へ誘導する構想提案となるケースも多くなると思います。しかし、これは、必ずしもクライアントのためになるとはいえない戦略・構想を立て、とにかく大規模なシステムを導入するといった、いわば“焼け太り”のプロジェクトを走らせることにもつながりかねません。日本企業はDXが遅れており、IT投資がビジネス変革や生産性向上に使われていないといわれていますが、コンサルが課題解決の足を引っ張ることにもなりかねない構図と思います。 この点、当法人のDX・ITアドバイザリーはシステム構築のチームを持っておらず、クライアントにとって真に必要なDXを構想しご提案できる。また、あらゆるITソリューションに対して中立的な立場であることも、当法人の大きな強みであると捉えています。 島田氏:DXやITの専門性の高さもほかとの大きな違いだと自負しています。当事業部には約100名、KPMGジャパンのIT領域のプロフェッショナルファームには約250名、計350名のAIエンジニアやデータサイエンティスト、デザイン思考等のスペシャリストが在籍しています。そして、当事業部ではアドバイザリー業務に割く時間のうち30%をR&Dに充当することが可能です。こうした最先端テクノロジーの知見により、大きな付加価値が提供できていると思います。
あずさ監査法人のDX・ITアドバイザリー領域で働くことで、現在SIerやERPベンダー等に在籍している人材にとってどういったキャリアアップが図れるとお考えですか?
公江氏:前述のとおり、我々はシステム構築を行わないので、クライアントのDXの最上流(戦略・構想)と実運用による成果の創出という最下流の工程のいずれか、またはその双方を支援することがメインになります。そのため、経営視点やさまざまな業務の知見、そこで必要とされる経営意思決定・経営管理や財務・会計の専門性など、真に実効性のあるデリバリーのノウハウを得ることができるでしょう。なお、中流工程のシステム構築は今後、AIによって代替されていくと思います。経営視点であるべき業務要件を考えるコンサルティング、ユーザがシステムやデータを使って価値を創出することを支援するコンサルティングのいずれかに早くシフトすることが、今後のキャリアデザインを考えれば自らのためになることは明らかではないかと思っています。 島田氏:先ほどR&Dについて触れましたが、そのテーマとしてはAIやデータサイエンス、ERP、プロセスマイニング、人材育成等多彩で、兼務も可能です。テーマ自体もスクラップ&ビルドがよく生じています。また、30%というR&Dに割く比率も目安に過ぎず、アドバイザリーに100%集中した後、少し現場を離れて、自分の時間が取りやすいR&D業務に集中するといったように、ライフステージによって比率を変えるといったことも柔軟に対応しています。 そして、先ほど約350名のスペシャリストが在籍しているとお話ししましたが、全員が1つのフロアに集積して自在にコミュニケーションし、アイデアを創発し合えるような職場環境をつくっています。こうした刺激的な環境があるため、DX・IT人材として知見を広げ、スキルアップしていくことが十二分にできます。
最後に、監査の知見とDX・ITアドバイザリーの専門性を融合させることでどんな新しいサービスや価値創造を目指しているのかといったビジョンや、求職者へのメッセージをお願いします。
公江氏:AIやデータの活用で、ビジネスモデルだけでなく産業の在り方も変わっていくと思います。その過程では、消滅したり全く形を変えたりする産業、人間の役割の変化、責任所在が不明瞭かつ許容できないリスクへの対処、公益に対するコスト負担など、さまざまな課題が発生します。我々監査法人は経済社会のインフラであり、こうした国家・産業レベルの課題解決にも力を発揮していければと思っています。AIの開発・利用に対するガバナンスに関するアドバイザリーはその1つです。 また、監査で利用するAIエージェントを発展させて、“バーチャル会計士”をSaaSとして企業へ提供するようなことも考えています。 島田氏:いくらDXといっても、これから大きなシステムを開発するということにはならず、既存のパッケージを組み合わせ、環境変化に応じて機動的にアップデートしていくという考え方が主流になるでしょう。そこで、レガシーなシステム構築に関わった経験を生かし、中立的な立場から価値のあるアドバイスを行える人材こそが求められるようになると思います。求職者の方には、あずさ監査法人で、そんな人材へのキャリアチェンジを果たしていただきたいです。 AIが進化して、多くの仕事が奪われるのではないかと心配する人が多いと思います。経営者もしかりですが、多くの経営者は、テクノロジーがどこまで進化しても社員が生きがいを持って働き続けられる会社にしたいと考えていると思います。したがって、我々の部門としても、テクノロジーの進化に振り回されることなく、そんなクライアントの思いを大切に受け止め、最適なテクノロジーの活用を考え、語れる人材を育成したいと思っています。