株式会社ダナフォーム

株式会社ダナフォームは、遺伝子解析をコアテクノロジーとする“理化学研究所発ベンチャー”である。同社では、ポータブルなPCR検査システム『GenPad』を開発するソフトウェアエンジニアを求めている。

同社のサービスは、『GenPad』や検査試薬の開発・提供と、DNA・RNAの解析受託に大別される。

●『GenPad』
“手のひらサイズのPCR検査室”として、場所を選ばずにウイルス等の感染症をスピーディーに検査できるシステム。検査キット、デバイス、ソフトウェアで構成されている。
使用法としては、ビーズ状の検査試薬が入ったカートリッジに採取した検体を入れ、デバイスにセットするだけ。高感度で検体内のウイルスの遺伝子を検出する。

2025年10月現在、国内では医療機器承認申請準備中であるが、ヨーロッパでは先行して承認を取得しており、GBS等の検査に利用されている。
GBS（B群溶血性連鎖球菌）とは常在菌の一種で、非常に弱い細菌である上に、大半の人は抗体を持っているので感染する恐れは低い。しかしながら、まれに抗体を持っていない母親が、抗体が移行していない赤ちゃんを分娩する場合がある。赤ちゃんが感染すると、生後まもなく命を脅かされたり、重篤な後遺症に罹ったりするリスクがある。そこで、分娩前に検査を行う必要があるのだ。
GBSはごく一部の例であるが、記憶に新しい新型コロナのようなウイルスによる感染をスピーディーに検査し、感染拡大を防ぐことが期待されている。ポータブルな形状で充電すればどこでも使うことができるのも大きな特長だ。また、同時に96台を繋げてクラスターの発生を調べることも可能だ。

●遺伝子解析受託
大学や研究機関、製薬会社等から持ち込まれる、人間や動物、植物等あらゆる生物の検体（バイオサンプル）のRNAやDNAをシーケンサーやコンピュータで解析。一定の条件下における遺伝子の配列を解析することで、様々な研究や新薬等の開発に有効なデータを提供する。
遺伝子解析においては様々な手法が開発されているが、同社は唯一、「CAGE」（Cap Analysis of Gene Expression）と呼ばれる理化学研究所発の技術を用いる“次世代シーケンス解析”が特長だ。「CAGE」は従来の手法よりも高い感度でDNA転写物を検出できる。つまり、より高精度の結果を提供できるという強みがあると言える。

同社は1998年9月、国立研究開発法人理化学研究所（理研）のオミックス基盤研究領域センター長として、ゲノムプロジェクトのディレクターを務めていた林崎良英氏が設立した。理研で開発された新技術を社会に普及させることを基本精神として制定された「理研ベンチャー制度」第1号である。

なお、林崎氏は2000年に「国際FANTOMプロジェクト」という、理研のマウスゲノム百科事典プロジェクトで収集された完全長cDNAのアノテーション（機能注釈）を行う国際研究コンソーシアムを結成、主導する等、我が国における分子生物学やバイオテクノロジーの第一人者である。
同社の使命は、「国際FANTOMプロジェクト」の中核技術である次世代最先端核酸技術を社会に還元すること。そして、“Human Health Careの充実”“病院の最先端化”“未来都市医療への貢献”を実現すべく、高性能な最先端製品の開発と社会実装を目指している。

林崎氏が理研で開発した、「CAGE」による次世代シーケンス解析等の遺伝子解析受託からスタートした同社が『GenPad』を開発した契機は、新型コロナだ。2020年2月、横浜港に着岸した大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客に新型コロナウイルス感染者が発生。感染者を上陸させるわけにはいかず、3,500名の乗客や乗組員は2週間、船内に閉じ込められることに。
この事態に、神奈川県知事の黒岩祐治氏が横浜市に本社を構える同社に新型コロナウイルスの診断キット開発を要請する。
「それまでやっていた業務を全て停止し、突貫工事で対応しました。研究スタッフはみんな泊まり込みで、もう戦争みたいでした。しかしながら、係留期間の 2 週間には間に合わなかったのです。ものすごく悔しかったですが、間に合わなかったことでいろんなことを学びました」と林崎氏は述懐する。

その学びの成果として、携帯型の上、現場の医療従事者がすぐに扱えるよう操作が簡便で、検査結果が迅速に出せること。そして、ウイルスの変異が1ステップで検出できる高感度であること。こうした条件を全て満たすプロダクトとして『GenPad』を開発したのだ。
「残念ながら、新たな感染症は必ず発生します。さらに『GenPad』の改良を重ねるとともに、国内でも医療機器としての承認を取り、社会の隅々まで広めて感染症拡大抑止に備えていただきたいと願っています」と開発を担当するバイオインフォマティクス部部長の関口暁氏は力を込める。

加えて、防衛装備庁による生物兵器対策として、病原体の高反応検出試薬を迅速に開発する研究を採択されるといった国家的なプロジェクトにも関わる。
「社会の要請に応えることが当社の根幹にあり、所期のミッションに引き続き取り組んでいきます」と管理部部長の高橋秀幸氏は話す。

同社単体で約60名（グループでは75名）の社員の多くは、バイオインフォマティクスや分子生物学、データサイエンス、薬学といった領域のスペシャリストが集まる。そのほか、林崎氏の繋がりとして、理研でスーパーコンピュータを用いてゲノム解析を手掛けていたような研究者等が顧問的な立場で関わり、研究開発を進めている。

その風土の特徴について、高橋氏は次のように説明する。
「当社は研究機関ではなく事業会社なので、しっかりとプロダクトを開発し、収益に繋げることが重要です。その点において、林崎というスーパーな研究者が経営トップということもあるので、トップダウン型の事業運営が特徴的です」

事業部ごとのテーマは個人ごとのタスクにブレイクダウンして進捗管理されるが、「トップと現場の間は管理職が調整しているので、現場のメンバーは伸び伸び自分のミッションを追求できる環境がある」と高橋氏は話す。
また、チーム単位でプロジェクトに取り組むので、メンバーが問題に直面した時等は適宜議論しながら進めていける環境もある。

研究開発型の企業として必要な、新たな知見を得る環境としては、国内最高峰の研究機関である理研をはじめとする林崎氏のネットワークや、国際的なプロジェクトへの参加機会等、充実していると言えるだろう。
一方、遺伝子解析等の現場は超クリーンな環境が必要であり、同社のオフィスや製造拠点は4段階の汚染レベルでゾーニングされ、出入りが厳しく管理されている。この点が社員同士のリアルなコミュニケーションを行いにくくしているが、その分はチャットやグループウェア等のツールを活用してカバーしている。

そんな同社が求める人材像として、高橋氏は次のように話す。
「最先端の研究開発に関わるベンチャーとして、周辺や当社の状況は常に変化しており、方針の朝令暮改はよくあります。そんな状況を理解し、次に進められる柔軟性がある方が好ましいですね」

新型コロナウイルスによるパンデミックは記憶に新しい。そして、いつまたこうした事態が起こらないとも限らない。そんな時に大いに貢献する同社での仕事ほど、やりがいを感じられるものもないだろう。