株式会社安信

株式会社安信は、中小企業を対象とするコンサルティング事業を中心に、多角的な事業を展開する神戸市の企業だ。2016年の創業以来、一貫して業績を拡大し続けている。

中小企業向けコンサルティング事業では、創業時から行っているリスクマネジメントのサポートに加え、創業支援や事業計画作成、金融・財務、人材雇用育成、事業承継・M&Aと、多岐にわたる支援を行っている。近畿経済産業局（経済産業省）から、“税務、金融及び企業財務に関する専門的知識や支援に係る実務経験が一定レベル以上”と認定された認定支援機関でもあり、複数名が商工会議所に専門家登録し、数多くの実績がある。2020年には関連団体として社会保険労務士事務所を立ち上げ、補助金・助成金申請、給与計算等の支援も行う。コロナ禍以前からオンラインのミーティングツールを導入し、顧客との打ち合わせをリモート化してきたこともあり、支援先の企業は、関西エリアにとどまらず日本全国に及ぶ。長期化する景気停滞からの出口が見えづらい経済状況の中、相談件数は増加する一方だ。

同社は、中小企業へのコンサルティング以外にも、複数の事業を自社で立ち上げている。例えば地元地域で運営する企業主導型保育園だ。企業主導型保育園は、内閣府所管の企業主導型保育事業にて設置される保育園だ。株式会社などの法人が、自社の社員の子供を預かることができる保育施設だ。同社は自社の福利厚生として運営するだけではなく、企業間契約を締結している企業に向けた共同利用枠と、周辺地域住民に向けた個人利用枠を設け、広く園児を迎え入れている。認可保育園と同程度の助成を国から受けるとともに、業務委託せず自社で運営することで、一般的な企業主導型保育園の3分の1程度という保育料を実現している。

企業主導型保育園の運営を通して得たノウハウは、企業向けコンサルティング事業にも活かされる。同社のアドバイスや指導を受けて保育園を開業し、成功している支援先も多数存在している。

また、コンサルティング事業の顧客とのコミュニケーションの中からも、幾つかの事業が立ち上がっている。例えば最近では、別会社を設立し、接骨院や太陽光発電の販売事業をスタートさせている。コンサルティングの中では、長期的なビジョンとして新しい事業に取り組みたいといった相談を受けることがある。可能性があると判断できた場合は、まずは自社で取り組み、実証しながらノウハウを獲得し、成果を支援に活かしていく。

多角的な事業展開を行うのは、自社で経営のノウハウを獲得する以外に、もう1つ大きな理由がある。それはリスクヘッジだ。不安定な社会情勢の中、安定的な企業運営を行うために、多数の事業を展開し、リスクを分散させているのだ。上記以外にも、例えば東京では広告事業を行う会社を立ち上げたり、海外事業もある。日本には、自然災害に加え、将来的な軍事的リスクが考えられる。そこで、タイに焼き鳥店やクラブ等、2業態を開業。現地で営業する日本企業の従業員などに向けたサービスを開始している。

現在、正式リリースを目指して準備を進めているのが、オンラインサロン事業である。10歳から40歳までの未来ある若者を対象に、資産形成を含め、人生を生き抜いていくために必要な知識や考え方を伝授するサービスだ。教える内容のベースとなるのは、同社を創業したオーナーの経験である。現在は事業の第一線から身を引いているが、同氏の指導を受けた同社の社員が講師を務め、伝えていく。

同社のオーナーは中学校を卒業後、40社もの転職を経験。ただ、自身に会う勤め先を見つけることができず25歳の時に独立し、起業家として様々な経験をしてきた。会社を潰すなど、紆余曲折はあったが、基本的に商才があり、フルコミッション制で不動産営業をすれば、最低でも年収2,000万、多い時では5,000万という収入を得るような暮らしを送っていた。

だがある時、大病を患い、半年間、家族とすら交流ができないという療養生活を送ることに。それがきっかけとなり、世の中に役立つこと、人に喜んでもらえる仕事がしたいと考えるようになり、それまでとは全く方向性の違う仕事で再スタートを切ったのである。

療養明けにまず着手したのが、企業向けのリスクマネジメントサポートと防災事業だ。リスクマネジメントサポートは順調だったが、防災事業は予想外の障壁があり、全力で取り組んではみたものの、最終的には事業を売却。残ったリスクマネジメントサポートを発展させる形で業容を拡大し、現在へと至っている。現在、同社のグループが行う事業では、あくまでも投資家という立場で関わるだけで、一切、表に立たず給与もとらないという姿勢を貫いている。

そのオーナーが50代に入り、自身が蓄積した有形無形の財産を、次世代に引き継ぐために体系化したものが、オンラインサロンで提供する研修内容のベースとなっている。

その中身は、無料セミナーだけでも役に立つものだが、それ以上に学びたい人には全6回の有料セミナーを用意。料金は5万円と、新卒のサラリーマンでも受講しやすい料金設定になっている。さらに学びたい人には、サブスクリプションの会員サービスも用意している。

世界的に見れば、お金や職業に関する教育を、義務教育の段階で行う国もあるが、日本では長らく行ってこなかった。やっと、2023年度から、高校の家庭科で資産形成の授業が始まったところで課題も少なくない。同社のサービスは現在、プレサービスとして同社の関係者を対象に提供され、受講者からは好評を得ている。

正式リリースに向けた課題は、無料セミナーへの集客を担う社内体制の整備である。オンラインサロン事業に限らず、企業主導型保育園事業、タイの飲食店事業、接骨院事業、太陽光発電事業等の既存事業を拡大していく上でも、Webマーケティングは重要度を増してくる。2023年度には、さらに2つの新規事業を立ち上げる計画もある。そこで同社は、グループが手掛ける全事業の広報を担うマーケティング部門を新設するため、経験者の採用に注力しているところだ。

現在、同社のWebマーケティングを担当しているのは、接骨院事業を行う株式会社庵心で代表取締役を務める加藤綾香氏だ。同社のコンサルティング事業では経営アドバイザーも務めている。

「グループの中でも集客が重要な役割を担う事業が増えています。SNSマーケティングやリスティング広告、Webサイト等、様々な手法を使い、データを取ってPDCAを回しながら効果を上げて行ってほしいです。集客がうまくいけば利益はどんどん上がっていきます。そして当社では、上がった分だけ給与に還元される仕組みがあります。2年目で年収1200万円も夢ではありません」（加藤氏）。

それを可能とするのは、同社の人事評価制度だ。人材教育や人事評価を専門とする上場企業の指導を受けながら、制度構築を行い、常に見直しを図って改善し続ける。その評価制度をもとに、毎月評価することで社員の成長を促す仕組みだ。実際、前職時代は工場勤務で年収300万円に満たなかった人材が、同社に入社して4年後には年収800万円を超え、上場企業からヘッドハンティングされるまでに成長したという事例もある。この人事評価制度の構築と改善に関しては、オーナー自らが心血を注いで取り組んでいる。

「終身雇用の時代は終わり、サラリーマンはいつでも路頭に迷うリスクを抱えています。オーナーが、内部留保金よりも、このような制度作りにお金を掛けるのは、社員に色々な会社から誘いがくるぐらいの力を持った人材に育ってもらうためです」（加藤氏）。

その一方では、保育園運営の他、従業員の健康のために自社ジムを整備するなど、福利厚生にも力を入れる。どんな事業でも人が携わらなければ成り立たないという思いが根底にはある。さらに利益を新たな事業創出に回すことで、社員が活躍できる場を増やしている。こういった取り組みが背景にあるため､定着率は高く、入社3か月を超えた社員で、退職するケースはほぼ見られない。ヘッドハンティングを受けた社員も、最終的には同社に留まってきた。

同社が社員に求める要素は、“素直さ”、“成長意欲”、“行動力”の3つだ。これまでの実務的なスキルや経験は最優先事項ではない。Webが好きで、個人的にSNSマーケティングの勉強をしていたようなレベルからのチャレンジも歓迎している。

「目標とする数字はありますが、初めから到達できるとは考えていません。計画を立てて、ABテストを繰り返しながら、成果を上げていくというストーリーを描いています。ただし、本人の勉強は大切です。言われたことだけをやっていれば給料をもらえるとは思ってほしくありません。“これだけ稼ぎたい”という意思表示があれば、並行してWeb以外の領域にチャレンジする道も用意できます。何事にも前向きに取り組める方をお待ちしています」（加藤氏）。