デジタルグリッド株式会社

デジタルグリッド株式会社は、国内の多数の大企業から出資を受ける電力スタートアップだ。発電家と需要家が直接取引可能な電力プラットフォーム『デジタルグリッドプラットフォーム（DGP）』を運営する。独自のAI技術を駆使した唯一無二のプラットフォームで、日本の電力調達の在り方を変革するものだ。特に、従来の仕組みでは流通しにくい再生可能エネルギーを売買しやすくした点が特徴で、日本国内には3社しかない、国際NGOのCDPが認定する「CDP認定再生可能エネルギープロバイダー」でもある。元は東京大学の産学連携の研究からスタートした会社で、三菱商事、東京ガス、ソニー等名だたる大企業が事業パートナーとして株主に名を連ねる。その数は約60社。国家レベルのエネルギー問題に挑戦する会社として、大きな期待を寄せられていることが分かる。

創業は2017年10月。代表取締役社長の豊田祐介氏は、学生時代に研究室に所属し、外資系投資銀行を経て創業メンバーの一人となった。「再生可能エネルギーは、化石燃料の数十倍のポテンシャルがあります。その量は、毎年、世界で消費するエネルギーの約200倍。しかも化石燃料のエネルギーと違って、その量が毎年生まれる。再生可能エネルギーを増やし、エネルギーがじゃぶじゃぶとあふれる世の中になれば、電力に革命が起きると学生時代に思いました」と、事業に込める思いを語る。

ただし、学生当時は時期尚早でもあったため、卒業後はいったん外資系投資銀行に就職した。就職後も研究室とコンタクトを取っていたところ、ある時、東大発ベンチャーとして創業すると聞く。いつか携わりたいと思っていた事業。豊田氏は計画書を見て、その場で「自分もやる」と言っていた。「計画書を見ると、夢はあるけれどキャッシュフローや事業モデルはない。先生、大丈夫かなと思いました。僕はずっと金融の仕事をしていたので、技術は道半ばだったけれども、経営や事業を動かすことは手伝えると思ったのです」

電力自由化、再生可能エネルギーの普及、FIT制度の段階的廃止。大学を離れている間に電力を巡る状況は目まぐるしく変わった。電力を自由に売買できる場、とりわけ再生可能エネルギーを売買できる場の需要は高まっていた。元々やりたかったことをやるチャンスを前に、豊田氏に迷いはなかった。デジタルグリッド側にすれば、経営者として豊田氏ほど適任の人材はいないだろう。こうして、同社の歩みが始まった。

具体的に『DGP』がやっていることは何か。なぜ必要なのか。

従来の仕組みでは、需要家は小売電気事業者を介して「電気」を調達する。「電気」が火力発電によるものなのか、再生可能エネルギーによるものなのかはわからない。もちろん指定もできない。色分けされていない電気を、言われるままに買う形だ。一方、『DGP』は一般電気事業者（全国10の既存大手電力）、新電力会社、全国に散らばっている自家発電設備や再生可能エネルギー事業者等、あらゆる発電家を需要家と直接繋げ、色分けした状態の電気を調達できる仕組みを実現した。長期の電源構成を決めることも、固定料金か変動料金かを決めて契約・調達することもできる。『DGP』を介して需要家は自在にエネルギーを調達し、発電家は機会損失することなく電気の供給先を得ることができるのだ。

実際、直近では『DGP』が需要家の駆け込み寺になっているという。資源価格の高騰等を背景に新電力会社の撤退が相次ぐなか、電力の調達に苦労している大口の需要家は多い。皮肉なことに、電力自由化以降、大手メーカー等を中心に企業努力により調達先を工夫し、コスト削減に努めた会社ほど苦境に陥っている。いわゆる電力難民だ。発電家サイドでは、太陽光発電を中心に国策で増やした再生可能エネルギーが、FITの段階的廃止により、電気の売り先に困る状況に陥っている。売りたいけど売れない発電家、再生可能エネルギーが欲しい需要家を繋ぐ『DGP』の存在感は増すばかりだ。

この唯一無二の仕組みである『DGP』を支えるのが、AI等の最先端のテクノロジーだ。というのも電気をめぐる仕組みやルールは極めて独特かつ複雑で、システム化・自動化するのは容易でないからだ。「例えば、プラットフォーム上で再生可能エネルギーと需要家を結び付けると、その後に電気を『送る』行為が必要です。既存の送電線を使うのですが、これは事前予約制。30分単位で発電を予測して計画を提出しなくてはいけません」と豊田氏は一例を挙げる。予測が外れた場合はペナルティ（※インバランス＝一般電気事業者に対価を払って補填してもらうこと）が発生する。『DGP』は精度高く予測するためにAIを駆使し、計画提出までを自動で行う。送電線の使用料も電力エリアごと・電圧区分ごとに異なる。また、需要家に対しては色を付けて電気を売るため、請求業務も極めて複雑になる。

「送電線については、200～300ページに及ぶ約款があって、それが9エリア分。そういうのを愚直に、自前でシステム化しています。電気の売り方も無限にパターンがあります」こう話すのはCTOの黒川達也氏だ。黒川氏は大手インターネット関連企業や、人工知能技術の研究開発等を行う企業で最先端のAI技術に携わってきた経歴を持つ。黒川氏のようなプロフェッショナルが集い、喧々諤々議論しながら、最後は力技で、この複雑な電力の世界をシステムに落とし込んでいる。

「電気は100年以上前からある制度が、継ぎ足しされながら今に続いているもので、びっくりするようなことも多いです。それをどうソフトウェアに落とすか。言語化できないことを抽象化、コード化する世界で、皆で壁打ちしながら形にするおもしろさがあります」と黒川氏。ビジネス的にも広がりがあり、また、蓄電池の制御等ハード系にも染み出していく。それを少数精鋭で、一人で何役もこなしながら実現するのが同社のエンジニア陣だ。

「今後は、パフォーマンス面もますますシビアになるでしょうし、大量のデータに耐えられるものを作る必要もあり、技術的なチャレンジはまだまだ続きます。自分はソフトウェアやメディアをたくさんつくってきましたが、振り返ると、結局、ユーザーのリクエストに返すだけだったと思います。その点、ここはどこまでも広がり、自分で何でもやらなければいけないことがおもしろい。ウチにくれば、ほとんどの人がストレッチすると思います」（黒川氏）。

事業はどんどん広がっていく。発電家、需要家ともに『DGP』参加者を増やし、安定的な成長を狙うと同時に、より多くのユーザーに対して幅広い選択肢を提示したい考えだ。『DGP』を進化させることで、同社が掲げるミッション「エネルギーの民主化を実現する」、ビジョン「エネルギー制約から解放された世界を創る」を実現できるはずだ。

再生可能エネルギーのポテンシャル＝年間エネルギー使用量の200倍は、現在の感触として「そのポテンシャルは間違いなく顕在化しています」と豊田氏は言う。発電家と需要家を適切に繋いで無駄をなくすと共に、余った電力の貯蔵技術を進化させることで、エネルギーをじゃぶじゃぶ使える世界が現実味を帯びてくる。「そこまでの道中が楽しみです」と豊田氏。インターネットが出現したときのような大変革を、電力の世界で起こすつもりだ。

そんな夢を共有して集まる仲間たちは、優秀であることはもちろん、未来への希望を胸に目を輝かせている人ばかり。社風はフラットかつオープンで議論も盛んだ。疑問や課題をどんどん挙げ、解決していく。リモートワークが定着しており、出社率は1～2割。その分、意識してコミュニケーションの機会を設けている。新メンバー歓迎のランチ会、月一のオフィス飲み会、定期的なチームディナーに登山、スキー、麻雀等のイベントも。

今いるメンバーは30代が中心だ。他所でしっかり鍛えられ、成果を出してきた人たちが、次の挑戦の場として同社を選んだ。挑戦のしがいは間違いなくある、大きなテーマだ。技術サイドもビジネスサイドも、全方位的に仲間を得てさらなる飛躍を目指す。