新卒で入社されたのは、学生時代から会社を継ぐ意志がおありだったのですか。
いいえ。入社した理由は、生まれ育った環境の影響が大きかったと思います。正直なところ、入社するまでは、弊社が手掛けているような仕事が世の中に存在することすら、ほとんど意識したことがありませんでした。 私が「経営を継ぐ」ということを明確に意識し始めたのは、2009年のリーマンショックがきっかけです。弊社の事業は社会インフラを支えるエッセンシャル事業であったため、幸い赤字に転落することはありませんでした。しかし、創業以来黒字経営を続けてきた会社が、損益分岐点に迫るほど大きな影響を受けました。 その時、初めて「いつか自分がこの会社を経営する」ということを、現実の問題として捉えるようになりました。同時に、大きな危機感も覚えました。 それまでの私は、目の前の業務をこなすことには一生懸命でしたが、「経営」という視点では、ほとんど何も考えずに仕事をしていたのだと思います。 なぜ売上が減るのか。なぜ利益が減るのか。その背景には、どのような社会や市場の変化があるのか。そして、同じような危機が再び起きた時、会社を守るために何を準備しておかなければならないのか。考えれば考えるほど、自分には経営に必要な知識が圧倒的に不足していることに気付きました。 マクロやミクロ経済、市場分析、財務分析、経営戦略の策定、そして、それを実際の組織や業務へ落とし込む方法――。当時の私は、そのほとんどを体系的に理解していませんでした。 そこで、「経営を学ぶのであれば、実際に会社を経営している人に直接聞こう」と考えました。全国の経営者を訪ね、1年間で約100人の方にお会いし、「何を見て経営判断をしているのか」「どのように会社をつくってきたのか」を直接伺いました。 この経験が、私にとって経営を本格的に考える原点になりました。 そこで気付いたのは、会社は単に目の前の仕事を積み重ねるだけでは成長しないということです。市場を読み、自社の存在意義を定め、ビジネスモデルを設計し、それを実行できる組織と仕組みをつくらなければならない。 そこから約5年間をかけ、30歳頃までに、自分なりの会社の将来像と経営の方向性を固めていきました。 そして、そのビジョンを起点としてリブランディングを行い、経営戦略や事業方針だけでなく、それを実行するための組織体制、現場のオペレーションに至るまで、一つひとつ見直してきました。 人事評価制度、キャリアパス、育成制度、給与体系、そして従業員のエンゲージメントを高める仕組みも、その延長線上で少しずつ構築してきたものです。 振り返れば、リーマンショックは会社にとって大きな危機でした。しかし私自身にとっては、「仕事をする側」から「会社そのものを考える側」へと視点が変わった、大きな転換点でもありました。 あの時初めて、経営とは目の前の数字を追うことではなく、社会や市場の変化を観察し、その先を考え、人と組織と事業の仕組みをつくりながら、会社の未来を設計していくことなのだと考えるようになりました。
ビジネスモデルの構築も、1年間で100名以上の経営者の方々から学ばれたのですか。
その時に学ばせていただいたのは、ビジネスモデルのつくり方というよりも、経営者としての「経営哲学」や「物事の捉え方」だったと思います。マーケットの見定め方や事業戦略そのものを教わったわけではありません。 現在の弊社のビジネスモデルは、自社が培ってきた強みを生かしながら、事業の原理原則に則り、適正な利益を確保すると同時に、いかに社会をより良くしていけるか。その両立を考えながら構築してきたものです。 弊社はもともと、地域の方々に寄り添い、その困りごとを解決することを目的として創業した会社です。 私は、一つひとつの「困りごと」の中に、未来へ事業の種(シーズ)があると考えています。目の前で困っている人がいる。その原因を考え、自分たちの知識や技術で解決する。その結果として対価をいただき、そこで得た利益を、さらに次の課題を解決するための人材や技術へ再投資する。その積み重ねが、今日までの会社の成長につながってきたのだと実感しています。 ですから、これからも創業以来の理念を引き継ぎ、足元にある課題と一つひとつ向き合いながら、着実に成長していきたいと考えています。 私は、「リーディングカンパニーになること」自体を経営の目的にする必要はないと思っています。 事業とは、社会に存在する課題に向き合い、人の役に立つ価値を提供し、その価値を認めていただいた結果として対価を得るものです。その積み重ねの過程で、結果として同じ市場の中で他社より一歩先を走ることはあるかもしれません。しかし、社会も市場も技術も常に変化していますから、未来永劫、一つの企業が先頭を走り続けるということは現実的ではありません。 大切なのは、「何番になるか」が目的ではなく、「社会に対して、どのような価値を生み出し続けられるか」だと思っています。 だからこそ、地に足の着かない理想を掲げるのではなく、社会や市場、そして目の前の現場をよく観察し、確かな根拠に基づいて未来を描く。その上で、困っている人が抱える問題や社会課題に対して、科学的かつ合理的な解決策をつくり出していく。 そして、そのために自分たちが持つ人材、知識、技術、資本といった限られたリソースを、最も意味のある場所へ配分していく。 それが、私の考える経営です。
社内の雰囲気造りで目指してきたことはございますか。
あまりビジネスライクにはならないよう、自然にコミュニケーションが取れる環境造りを心掛けています。オフィスを新築した際にも空間造りを工夫をしました。人との距離が近過ぎると物理的に摩擦が生じるので、社員同士の適度な距離を保ち、ストレスが溜まらないように、天井を高くして、ゆとりのある空間を造りました。 また、社員それぞれのライフスタイルも尊重し、それぞれの価値観に合致した生活が送れるように支援しています。例えば、あるパッカー車の運転手は、奥さんが岡崎市内でアンティーク家具店を経営していますので、弊社の仕事が終わると手伝いに行っています。パッカー車の運転業務は、12時には終わります。その部分でしっかり役目を果たしてもらえれば、会社としては問題ありません。その運転手にとっては、弊社の仕事は生活の足しにしていただくための会社で良いと思っています。 しっかり目的が達成されれば、あとはプライベートのことなので、我々が干渉したり阻害したりすることはできません。目的を達成していただければ、制服も不要ですし、リモートでも構わないと思っています。あくまで仕事の結果に応じて給与を支払う。弊社の評価制度もそのような考え方で設計しています。 目的が持てればモチベーションにも繋がります。私自身もそうですが、会社はあくまで生活の一部です。社員一人ひとりが事業を通して人生を豊かにしていただきたいと考えています。
採用方針をお聞かせください。
弊社が求めているのは、“言われたからやる”イエスマンではなく、自発的に発言しアクティブに動けるプロフェッショナルです。 私自身、経営者としてカリスマ的な存在になろうとは考えていません。主役はあくまでも会社です。お客様は会社にご依頼されるので、その御期待に応えるためにも、品質の平準化に取り組む必要があります。従って、カリスマに付いてくるその他大勢という組織にしてはいけないと思っています。カリスマが辞めた途端に終わる会社には未来はありませんし、持続的な発展は得られません。 従って、これから新規で採用するSEの方にもご自身の専門領域で、何をすべきかを見極めてしっかりスキルを活かしていただける方を求めています。我々の事業に賛同していただいた上で、単なる総務屋さんとしてではなく、世の中を良くしていくために専門知識を活かして活躍いただきたいと考えています。
将来、ITの活用領域をどのように広げていくお考えですか。
私たちがITをどのように活用していくのかを考える時、まず人間と自然との関係が、これまでどのように変化してきたのかを考える必要があります。 約1万年前、人類は狩猟や採集を行い、自然を観察し、その変化に適応しながら暮らしていました。その後、農耕と定住化が進み、産業革命による機械化、さらに化学肥料の普及などによって農業生産性は飛躍的に向上しました。私たちは人口を増やし、豊かで便利な社会を築く一方、自然を観察し、自然とともに生きる力を少しずつ手放してきたのではないかと思います。 そして今、その反作用ともいえる問題が顕在化しています。 日本では人口減少と少子高齢化が進み、中山間地域では里山の管理が行き届かなくなり、農林業従事者や狩猟者も減少・高齢化しています。人間社会と野生動物との緩衝地帯が弱まり、イノシシ、シカ、クマなどが生活圏へ出没する機会が増えています。また、人と野生動物との接触機会が変化する中、SFTSのような野生動物やマダニが関係する感染症にも注意を払わなければなりません。 かつて身近で心地よい存在だった自然が、いつしか「恐怖」や「厄介なもの」として認識され始めている。私は、この変化を大きな社会課題だと捉えています。 だからこそ、私たちの仕事は、単に害虫を駆除したり、野生動物を捕獲したりすることではありません。 迫りくる自然と人間社会との間に、適切な境界線を引き直すこと。 そこに私たちの存在意義があります。 そのためには、まず自然や現場をよく観察する必要があります。起きている現象は化学的な問題なのか、物理的、生物学的な問題なのか。あるいは建築構造や土地利用、お客様の業務プロセスに原因があるのか。科学的に因果を捉え、必要であれば業務プロセスそのものの変更まで提案します。 そして、ここにITや工学が必要となります。 今後の人口動態や生産年齢人口の減少を考えれば、人の経験や熟練だけに依存したサービスには限界があります。ソリューションを提供するだけでなく、現実世界に直接作用する「フィジカル」なプロダクトまで考えなければなりません。そのため、AI、RPA、IoT、ロボティクスは、単なる業務効率化ではなく、将来の社会インフラを維持するために必要な技術だと考えています。 例えば野生動物管理も、熟練した狩猟者だけに依存するのではなく、「誤射を起こさない」「危険な場所へ人が行かない」「特別な熟練を必要としない」「誰でも安全に運用できる」という方向へ進化させなければなりません。そう考えれば、センサー、通信、画像認識、制御、機械設計など、工学との融合は必然です。 海外では、動物の警戒行動を利用したレーザーなど、農業とテクノロジーを融合した野生鳥獣管理も進んでいます。こうした考え方は農業だけでなく、自動車のテストコース、工場、物流施設、公共施設など、人間の経済活動と自然が接する様々な場所へ応用できるはずです。 私たちもITや機械工学など異なる専門性を持つ企業と連携し、IoT捕獲機をはじめ、新しいプロダクトや管理手法の開発を進めています。 私たちは、単にITを導入して会社を効率化したいわけではありません。 科学によって自然を観察し、テクノロジーによって人と自然との境界線を適切に設計し直す。そして、人手が減少しても社会に必要な機能を維持できる仕組みをつくり、それを持続可能な「事業」として社会に実装する。 5年後、10年後を見据え、「誰かがやってくれる」のではなく、私たち自身が当事者として必要な仕組みをつくっていく。それが、IT・テクノロジーの活用領域を広げていく上での基本的な考え方です。