意のままにロボット等を動かす自在化技術。最先端の研究を社会実装へ
株式会社ジザイエは、産官学の連携により数々の最先端技術の研究・開発、および社会実装に向けた取り組みを進めている会社だ。現在、注力しているのが「自在化」技術。この領域で世界をリードしている東京大学先端科学技術研究センター教授の稲見昌彦氏が、ERATO(科学技術振興機構による、基礎研究を推進する研究支援活動)に採択されて進めている「自在化身体プロジェクト」に、ジザイエも参画。可能性調査やオープンイノベーションの推進、事業化等、社会実装の部分を担っている。
この聞き慣れない「自在化」とは何か。人間がロボットやAIと「人機一体」となり、自己主体感を保持したまま行動することを支援する技術開発のことだ。かみ砕いて言うと、自分の思い通りに、ロボットを動かすこと。ドクターの手の動きに合わせてロボットアームが手術する「手術ロボ」等が、イメージしやすいだろう。「自在化身体プロジェクト」は、モーションキャプチャーで計測する等して、身体や行動をシステム的に理解した上で、VR・ヒューマンアシスティブロボット・ウェアラブルコンピューティング・脳情報デコーディング・機械学習等の多彩な技術や手法を用いて、「人機一体」を実現しようというもの。その技術開発をしているプロジェクトだ。
ジザイエは、なぜこのようなユニークな技術に関わり、産官学を繋ぐ独自の立ち位置にある会社なのか。それは、代表取締役社長の中川純希氏の歩みと関わる。中川氏はロボット工学を学部、大学院、留学先のアメリカの大学で学んだ人物だ。だが、技術と社会実装の間のギャップを感じ、それを埋めるために自ら起業や事業立ち上げを学ぶべく、新卒時はHR・販促事業等を手掛ける会社に入社した。希望が叶い、新規事業の立ち上げの部署に配属。アプリ事業を立ち上げ、UXデザインからマーケティング、データ分析等、事業を離陸させるための一通りのプロセスを経験し、プロダクトも年商3億円程度に成長させる等の実績を積んだ。つまり、元々技術に精通し、社会実装を会社で実践した、技術と社会を取り持つのに最適な人物なのだ。
法人としてのジザイエは、ロボット研究の産業化で有名な石黒周氏が2016年8月に立ち上げた会社だ(当時の社名はSケアデザイン研究所)。中川氏は、学生時代から石黒氏と懇意にしていた縁で創業時から副業で手伝い、その後、2020年にフルコミットして代表を務めることになった。そして、稲見氏がERATOでプロジェクトを立ち上げるに当たり、研究者だけでなく、実装に長けた人物も探す中で、石黒氏が中川氏を推薦。中川氏の学生時代からの様々な活動が繋がり、点と点が線や面になるように、ジザイエと「自在化」が繋がったという経緯だ。
未来への最初の一歩。実証を兼ねたオンラインパーソナルトレーニングが好調
このようにユニークなジザイエだが、現在、同社が自社サービスとして展開しているのは、オンラインパーソナルトレーニングサービス『ZENNA』だ。累計2,000人を指導してきたプロトレーナーが、Zoomを使ってマンツーマンでトレーニングを行うサービスで、一見、近未来的な「自在化身体」とは随分と遠い。
が、実はこれは、「自在化身体」の社会実装に向けた実証実験でもあるのだ。「自在化身体」のアウトプットは、例えば手術や介護、危険と隣り合わせの建設機械の操作等を遠隔で安全に行えるようにすること。ジザイエは、ミッション「すべての人が時空を超えて働ける世界へ」の通り、「時空を超えた」働き方を、現在、リモートワークの恩恵を受けていないエッセンシャルワーカーやブルーカラーワーカーと呼ばれる人達にも実現することを目指している。その「エッセンシャルワーカーやブルーカラーワーカーがオンラインで働くこと」の実証で、取っ掛かりとして挑戦してみたのが『ZENNA』というわけだ。実証しつつ、ジザイエが会社として成り立つための収益を生み出しているサービスでもある。
このアイデアは中川氏自身が、ジムのパーソナルトレーニングに通う中で生まれた。「元々、オンラインでマッチングできたらいいのにねと、トレーナーさんと話していました。するとある時、トレーナーさんから、海外に長期出張中のユーザーさんに遠隔でトレーニングをし始めたという話を聞きました。確かに、筋肉に触れることはできないけれども、パーソナルトレーニングで大事なのは会話等のコミュニケーション。オンラインで十分に成り立つと思いました」と中川氏。その話に可能性を感じ、2019年、Zoomを使った『ZENNA』をスタートした。
当初は、海外駐在員の奥様等が主な顧客層だったそうだが、ほどなくコロナ禍に突入。DXが一気に進む中で『ZENNA』も受け入れられ、成長軌道に乗った。トレーナー側にもニーズがあった。トレーナー、ユーザーともに国内外どこに住んでいても指導が可能なことから、マッチング機会が爆発的に増え、トレーナーの就業機会が一気に増えた。
「このような世界を広げることが、ジザイエの目標です。例えば看護師さんは、オンラインでは注射ができないので、最初からリモートワークを諦めています。片やホワイトカラーワーカーは、パソコン一つに仕事道具が全て収まり、コロナ禍を機に時空を超えて仕事できるようになりました。エッセンシャルワーカーにとってのパソコンのような、それがあれば時空を超えて働けるというツールをつくることを、目指しています」(中川氏)。
優秀なメンバーが集結。世界展開を視野に数々の企業との共同研究も進行中
オンラインパーソナルトレーニングは一つの実証実験で、「今後、メインとなるのはより先端的なもの」と中川氏は言う。『ZENNA』のさらなる成長を狙いつつ、技術や知財を源泉に収益を生むビジネスにより注力していく構想だ。今も、自在化技術等に関心を持つ多くの企業から引き合いがあり、数々の共同研究も進めている。オンラインで看護ができたり、介護ができたり、建機を動かせたり、手術ができたり――夢のような未来図の実現は容易ではないが、だからこそブルーオーシャンであり、挑戦のしがいもある。
中川氏は言う。「自在化と似て非なるものが自動化。ただ、私は完全自動化には懐疑的です。機械に置き換わるのでなく、人がやりがいをもって働き続けるために、そのような仕事に特化するためにあるのが自在化技術。私達は『自在化身体』で新しい世界を創りたいと考えています」
この技術に関心を持つ企業は、国内外を問わず多数。ERATOのプロジェクト自体は時限的なものだが、今後も稲見氏との連携は続き、いわば研究室の別動隊のような立場で実装を担っていく。当然、市場は世界だ。「最初から、日本国内だけとは考えていません。世界同時に展開するつもりです」と中川氏。
そんなジザイエには、中川氏がHR・販促事業等を手掛ける会社に在籍していた時の仲間を中心に、技術や新しい世界に関心を持つメンバーが集結。例えばVPoEの松本峻氏。HR・販促事業等を手掛ける会社の同期で、配属は中川氏と同じ新規事業部門だった。6年間その会社で修業した後、ジザイエのすごい技術に魅せられ、先頃ジョインした。取締役COOの太田知孝氏も元はHR・販促事業等を手掛ける会社のエンジニア(その後、ベンチャー立ち上げ等、多方面で活躍)。また、インターン時代の仲間で、その後、大手電機メーカーでIoT等のハード寄りの経験と知見を得て参画してきたメンバーも。
VR、AI、IoT、アプリ、インフラ等、実装に当たって必要となる技術や知見は幅広い。メンバーはいずれも元々の自分の強みを核に、事業を通じて守備範囲を広げながら活躍している。これから入る人も同様だ。世の中にないものをつくるので、当然、同業の経験者はいない。何らかのスペシャリティがあり、好奇心旺盛であれば、活躍のチャンスは十分にあるだろう。
社内は和やかで、足を踏み入れると「いい人オーラ」のようなものが漂ってくる。誰もが夢の実現を目指すピュアな心を持ち、しかもチームプレーで成し遂げることから、このような空気が生まれるのだろう。誕生日を祝ったり、みんなでBBQをしたり、日常的な交流も盛んだ。誰もが時空を超えて働く世界をつくるために、現在のジザイエは全方位的に人が足りない状況だ。自負できる強みを持ち、この世界観に共感する人は志願するといい。思い描いたものを形にし、世界が変わるのを目の当たりにする。そんな喜びを味わえる会社だ。