HoloLensの開発パートナーとして認定され、様々な事例を開発、提供。
ゲーム業界出身のメンバー達とWeb業界出身のメンバー達が、それぞれの得意ジャンルを持ち寄り、多くの人が楽しめる仕組みやコンテンツを生み出すテクノロジー集団、それが株式会社ハニカムラボである。特に、xR (VR / AR / MR) コンテンツ、デジタルサイネージ等のインタラクティブコンテンツや、スマートフォンアプリの開発を得意とし、様々な企業のデジタルプロモーションやイベント、商業施設の常設展示コンテンツ等の企画・開発を担当、国内外の広告賞等も数多く受賞履歴がある。
同社の事業を牽引するデバイスの一つがMicrosoft HoloLens(以下、HoloLens)だ。これはMicrosoft Corporationによる世界で先駆けて開発した自己完結型ホログラフィックコンピュータである。現実世界に表示されるホログラムとのインタラクションを可能にする、新しいヘッドマウント型デバイスだ。2017年1月から、日本マイクロソフト株式会社が国内の法人と開発者向けに提供を開始している。
本国のMicrosoft Corporationでは、ワールドワイドで展開するパートナーのトレーニング及び認定のためのプログラム“Mixed Reality Partner Program(MRPP)”を実施。同社は2017年11月に開発パートナーとして認定され、HoloLensを用いた様々な事例を開発、提供している。
例えば、NHK(日本放送協会)の番組“天才てれびくんYOU”の特別生放送では、出演者が装着するHoloLens3台、HoloLensを接続したテレビカメラ3台、固定カメラ1台で見えるキャラクターを同期。それぞれの出演者やカメラから見えるキャラクターが、現実世界の空間内で全く同じように表示させる仕組みを構築した。2019年度は全4回の特別生放送が予定されているが、第1回(6月)、第2回(10月)、第3回(12月)共に好評を博した。
同じく2019年の実績としては、実店舗とVR空間上のバーチャル店舗を連結する施策を実現させた“バーチャルマーケット3”が挙げられる。
同社は、VR法人HIKKYが主催するVR空間の展示即売会“バーチャルマーケット3”内の会場のひとつ、ネオ渋谷“Night”にて、SHIBUYA109のWEGO実店舗とVR空間上の仮想店舗を、xR技術を使って連結する取り組みに全面的に技術協力。WEGO実店舗に来た客が、HoloLensやタブレット端末を通じてVR空間の仮装店舗を訪れている客の姿が現実空間内に見え、逆にVR空間の仮想店舗にも現実空間の店舗にいる客がアバターとなって現れ、双方向でコミュニケーションができる仕組みを実現。リアルからもバーチャルからもアクセス可能なパラリアル店舗を構築した。
このように同社は、ゲーム開発技術による表現力とインターネット技術を融合させ、一見不可能と思われるような様々なアイディアを実現している。
細部まで決められた仕様書、今までの経験…という枠を、飛び越えられるかどうか。
経験豊富なエンジニア達が真面目に遊びを追求し、ワクワクする楽しいものを作り出す。それが同社のビジョンである。
MRPPで認定を受ける開発パートナーは徐々に増えているが、大手SIerや建設会社と組むシステム開発会社等が多い。上記のようなビジョンを掲げ、16名の社員でHoloLensを用いた開発を行っているベンチャー企業は数少ない。そのためか、MRPPパートナーの中でも、同社は独自の役割を担っている。一言で言えば、“なんか面白そうなプロジェクト”は、同社に依頼が来ることが多いそうだ。
その結果が、前項で挙げたようなプロジェクトだ。そのほかにも、セガサミーホールディングス株式会社からの依頼で、セガサミーグループ新社屋の総合受付向けにオフィスコンセプトを案内するレセプションアプリの開発・提供を行った。また、株式会社竹中工務店とは、建築現場の施工をアシストするHoloLensアプリを共同開発。株式会社竹中工務店とメルセデス・ベンツ日本株式会社がコラボレーションした体験施設“EQ House”の建築現場において活用されている。
なお、“なんか面白そうなプロジェクト”はHoloLens関連にとどまらない。例えばGatebox株式会社のバーチャルホームロボット『Gatebox』。これはユーザーがボックス内に呼び出したキャラクターとコミュニケーションをとれるデバイスで、同社はプラットフォームシステムの開発やプリインストールアプリケーションの開発等に対して技術提供。今後はビジネスシーンへの横展開を協力して進めるためのアライアンスを結んだことをベースとし、BtoC向けのキャラクターサービスを様々なクライアントと共同開発することも視野に入れている。
また、VAIO株式会社が有人宇宙システム株式会社(JAMSS)と開発した、宇宙飛行士訓練の理論と実践が融合した新しい教育プログラム“VAIOミライ塾”では、VRコンテンツの開発で技術提供を行った。が、それだけではない。プログラムで使われる探査ローバーまで、同社は3Dプリンターを活用して作り上げてしまったのだ。「とうとうリアルなモノづくりまで手掛けてしまいました」と代表取締役CEOの河原田清和氏は笑う。
「根底にあるのは、相手の期待を1ミリでも上回るものを作り、喜んでもらいたいという思いです。施工現場、キャラクター、探査ローバー等に詳しいエンジニアなんて、社内には一人もいません。みんな“実現するには、もっとこうすれば” “ここまで自分達でやってしまえば、完成するんじゃない?”という思いから、楽しみながら守備範囲外のことを学び、プロダクトに落とし込んでいるのです」(河原田氏)。
細部まで決められた仕様書をもとに、自分の経験の範囲内で開発をする。そんな枠を飛び越えて面白いものを作りたいというエンジニアが、楽しめる環境と言えるだろう。
同社では、様々な企業のデジタルプロモーションやイベント、商業施設の常設展示コンテンツ等の企画・開発を担当し、国内外の広告賞等も数多く受賞履歴がある。
面白いことをやりたいという情熱があれば、その思いを叶えるチャンスが誰にでもある。
同社で活躍しているのは、ゲーム業界またはWeb業界で経験を積んできたメンバーばかりではない。中途採用・新卒採用を問わず、未経験のメンバーにも活躍のチャンスがあることが同社の特徴だ。
例えば、最初に紹介したNHKの番組“天才てれびくんYOU“には、2019年にゲームの専門学校から新卒入社したメンバーと、同タイミングで映画の大道具の世界から転職してきたメンバーが参加している。また、CEATEC2019で大成建設株式会社が設けたブースで、西新宿の模型にタブレットをかざすと様々な情報が表示されるARコンテンツ『デジタル西新宿』を提供しているが、メインで開発を行ったのもゲームの専門学校から新卒入社したメンバーだ。
同社の育成方針は“まずは何でもやってみること”。社内では沢山のプロジェクトが動いているが、いずれも期間は平均3ヶ月とサイクルが早い。経験を積むにはちょうどよい期間と言える。一方で、同社を志望する人は何らかの知識を持っている場合が多いので、入社後に課題を与えて力量を把握。あとは先輩と共に何らかのプロジェクトにジョインし、経験を積む。先輩がコードレビューをしっかり行い、進捗が思わしくなければ先輩が巻き取る。失敗もまた経験、と同社は考えているという。
取締役 CFOの緒方麻里絵氏は、『デジタル西新宿』を手掛けた新卒メンバーの成長を例に挙げてこう語る。
「元々、各種のデータが入っていて重たいので、スムーズに動かすのが難しいARコンテンツでした。実はCEATECの後、大成建設さんからプレゼン用にアップデートしてほしいという依頼をいただいたのです。新卒メンバーは自分なりに試行錯誤したりいろいろな工夫を足したりして、格段に動かしやすくなっていました。ガチガチに決められた仕様書等は存在しない状況で、本当によく頑張ったと思います」。
同社には来年以降も新卒が入って来る予定だ。代表取締役CEOの河原田氏は最近、高校・専門学校・大学等からの声がけで、学生との接点が増えているという。その接点を通して感じるのは、“面白いことをやりたい”と考えている学生は少なくない、ということだ。
「当社の技術力や実績を知ってもらえれば、沢山の人が集まってくれると思います。中にはイベントに参加したときに、“ハニカムラボの方ですか?”と目を輝かせながら話しかけてきてくれる人もいます。本当はみんな、面白いことをやりたいと考えているのではないでしょうか。
当社はすごいプロダクトを社会に提供している、という自負はあります。でもそれは、ゲームやWebのスペシャリストでなければできない、という意味ではありません。面白いことをやりたいという情熱があれば、その思いを叶えるチャンスが誰にでもある。それが当社です」(河原田氏)。