ハードとソフトを組み合わせたソリューションに、大きな可能性を感じて創業
電池を使用する電化製品をIoT化するコネクティッドバッテリー『MaBeee(マビー)』の開発・製造を手掛けるノバルス株式会社。2015年設立の同社は、クラウドファンディングの実施を経て『MaBeee』の一般発売を開始し、大手家電量販店での店頭販売も実現させながら、製品の出荷数を伸ばしている。その実績をもとに、2017年からはBtoBでの販路拡大を目指す施策も積極的に推進。携帯キャリアや住宅設備機器メーカーとのサービスの共同開発や、電力会社・電気機器メーカーとの資本業務提携を行う等、ベンチャー企業として飛躍的な成長を続けているのが同社の特徴だ。
代表取締役である岡部顕宏氏は、前職で国内の大手時計メーカーに在籍し、携帯電話と時計をBluetoothで接続するスマートウォッチの企画開発という業務を経験している。当時の思いを、岡部氏は次のように語る。
「ソフトウェアだけではなく、ハードウェアを含めた開発を行うことで、本当にダイナミックなことができると実感していました。スマートウォッチのプロジェクトは途中で断念しましたが、その成功はグローバルな規模で大きなトレンドになる可能性が大きかったはずです。そこからハードとソフトを組み合わせ、世の中に巨大なインパクトを与えられるもの、より多くの人を繋ぐモノは何か、ということを考えるようになりました」
数々の新規事業を手掛けながらも、世界を変えるような“巨大な波”となるものになかなかめぐり合うことができなかった岡部氏だが、その模索の日々の中で行き当たったのがコネクティッドバッテリーだった。電池に通信機能を搭載することで、玩具や電化製品の制御を可能にする。そのソリューションの実現は、スマートウォッチの登場をも凌駕するインパクトを世の中に与えると確信した岡部氏は、『MaBeee』の開発を実現するために起業し、同社の事業をスタートさせた。
電池の出力を制御することで、玩具をコントロールするサービス『MaBeeeトイコントロールモデル』に加え、最近は家庭内のテレビや照明のリモコンに『MaBeee』の技術を搭載したモニタリングソリューションをスタートさせた同社。『MaBeee』の可能性について、岡部氏は次のように語る。
「乾電池に限らず、コイン電池や産業用電池等、いわゆるバッテリーと呼ばれるもの全てに適用できるソリューションを目指しています。『MaBeee』によって、あらゆるバッテリーをコネクティッドにできると考えているので、これからの私達の事業分野は、より広がっていくはずです」
幅広い業界、多様な企業から注目される、電池によるスピーディなIoT化の実現
同社のコネクティッドバッテリーは、単4電池を入れるハードウェア(単3電池サイズ)に通信機能を実装することによって、電池を使用する機器を制御するという仕組みになっている。『MaBeeeコントロールモデル』は、アプリをインストールしたスマートフォンの操作で、玩具や教材の動きをコントロールすることや、ライトの点灯・消灯等の演出が可能になる製品。また、モニタリングモデル『MaBeeeみまもり電池』では、『MaBeee』を搭載したリモコンの使用状況を、クラウド上で確認することができる。テレビや照明等の機器に特別なデバイスを付与することなく、乾電池のアタッチメントだけでスピーディにIoTを実現できるのが、このソリューションの最大の魅力である。
「スマートフォンのアプリでコントロールする、というアクションに加え、これからはクラウド接続によるモニタリングや機器の遠隔操作に関する開発を行っていきます。その取り組みの中では、IoTに関するデバイス、ネットワーク、クラウド、アプリといった全ての要素をカバーしなければなりません。当社の強みは、デバイスの担当も含め、開発者が揃っている社内でディスカッションしながら、一気通貫でスピーディに開発を進められる部分にあると思います」と、岡部氏は自社の体制を説明する。
画期的な製品の開発を、小さな所帯ながらも密に連携して進めている同社。その開発環境では、ソフトウェアエンジニアがハードウェアの知識を深める、あるいはネットワークやクラウドの開発スキルを身に付ける等、技術者達の垣根を越えた成長も可能になる。また、これまでにない製品をゼロから生み出している企業ゆえ、新しいテクノロジーの導入に関する抵抗もなく、良いものは積極的に取り入れていくという開発スタイルがここにはある。
そして、『MaBeee』を活用した製品・サービスの拡充に関しても、その可能性は制限なく広がっている。例えば、製造業の企業がIoTのサービスを開拓したい場合、またサービス企業がハードウェア開発を含めた新たな展開を行いたい場合、コネクティッドバッテリーを使うことで、実現に向けた取り組みは加速するはずだ。その点について、岡部氏は「ベースの部分を私達がつくり上げ、様々な分野の事業会社様と連携しながら、幅広い業界の課題解決に寄与していきたいというのが当社の考えです」と、自社の事業構想を語ってくれた。
“とにかくやってみる”の姿勢で「通信×電池」が当たり前の世の中をつくる
現在の同社には、岡部氏を含め12名が在籍。その約半数は、通信モジュールの開発経験を生かしながら『MaBeee』のデバイス開発業務を行っている。ソフトウェア開発の担当には、大手機器メーカーや通信企業のエンジニア、ITベンチャー企業のソフトウェア開発担当等、様々な経歴を持つメンバーが揃っている。そのメンバー達が自由闊達に意見を交わしながら、世の中を変えるためのチャレンジを続けているのが同社の姿だ。
同社の社風としてあるのが“とにかくやってみよう”という姿勢だ。その理由について、岡部氏は自社の事業の特殊性との関連を踏まえて説明した。「これまで誰もつくらなかった製品をつくり、ゼロからイチを生み出すのが当社の事業です。今後についても、コネクティッドバッテリーと連携させたAIや、無線給電システムの開発等、誰も知識を持っていないフィールドにもチャレンジしていきたいと思っています。だからこそ、何もなくてもどんどん取り組む、持っていないものがあれば貪欲に取りにいくという姿勢が、当社の社風としてあるのだと思います」
誰も開拓していない分野を開拓し、巨大なインパクトのあるソリューションをゼロから生み出す。そんな事業コンセプトを持つ同社の目標は、『MaBeee』の製品群としてのバリエーションを広げることだという。乾電池に取り付ける形のデバイスともいえる現在の形から、様々な形状やサイズの“一体型電池”へと改良することで、より幅広い機器への搭載が可能になる。そして、メーカーの製品と一緒に出荷されるような「入っていて当たり前」の製品になるのが、『MaBeee』の理想形なのだ。今は多くの人が普通に使っているスマートウォッチも、数年前までは一般的ではなかった。同じように、今は物珍しい存在であるコネクティッドバッテリーも、10年後には「当たり前の存在」になっていると岡部氏は予想している。
「通信機能や遠隔制御機能、無線給電ができる電池が広く販売され、私達の身近な存在になっている。そんな理想像に共感し、その社会に貢献するための取り組みに邁進できる方と一緒に、未来に向けて進んでいきたいです」と岡部氏。小規模の体制でチャレンジを開始した企業にとって、到達を目指すのは広く大きな世界だが、そこにある困難を楽しみながら乗り越えていきたい。自社の事業の発展性に自信をのぞかせつつ、岡部氏はそんな思いを語ってくれた。