シーエヌシー株式会社

1994年に設立されたシーエヌシー株式会社は、情報システムの「あるべき姿」を提案するコンサルティング業務から、ハードウェアの選定やソフトウェア開発、そして運用まで、一貫したサービスを提供するシステム開発会社。

社員30名前後の規模だが、取引先には誰もが知るような外資系大手企業の名前がずらりと並ぶ。しかも、同社で受注している仕事の大半が「直取引」であり、システム開発の上流工程のさらに上、超上流工程ともいうべきポジションで活躍できる。エンドユーザーに近いポジションで仕事がしたいSE（システムエンジニア）には魅力的な会社といえるが、なぜ、同社のような規模のシステム開発会社で、大手との「直取引」が可能なのだろうか。その鍵は、同社の成り立ちと長い期間をかけて積み上げた“信頼”にある。

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代表取締役・宮田ひとみ氏は、日本人女性として始めてCISA（公認情報システム監査人）を取得した人物。同社は設立時から情報システムの有効活用を提案するコンサルティングに強みを発揮し、現在でもクライアント企業の情報システム部と二人三脚でシステム全体の基本設計から携わっている。

「当社の仕事は、システム開発というよりも『情報システム部のアウトソーシング』に近いかもしれません。クライアント企業の情報システム部に半分足を突っ込んでいるようなイメージです。派遣先もエンドユーザーの情報システム部がほとんど。クライアント企業の情報システム部の一員として、大手ベンダーと折衝を重ねて開発にあたることもあります」（代表取締役・宮田氏）

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エンドユーザーに近いコンサルティングの立場から、クライアントにとって最適なソリューションを提案するのが同社の業務。コンピュータを使わなくてもシステムが構築できるようなら、正直に「コンピュータを導入する必要はない」と伝えるという。もちろん仕事の受注にはつながらない。それでも、真摯な態度でクライアントと向き合うことで、次の受注へつながり、ほかの会社の仕事も紹介してもらえるのだ。

「人に紹介されてビジネスの輪を広めてきた会社だけに、信頼を裏切るような仕事はできません。相手の立場になって考え、コストをある程度犠牲にしてでも、常にもう一手間かけることでクライアントにとって最適なソリューションとなるように行動します。義理をつなげるようなイメージで仕事をしていると、信頼が得られて何かあれば真っ先に相談してくれます」（市川氏）

システム開発の世界は、建設業界と似た業界構造を持つことから、批判の意味も込めてしばしば“ITゼネコン”と呼ばれる。孫請けクラスのシステム開発会社に仕事が回ってくるころには、上流の決定に従って黙々とプログラミングを進め、テストを繰り返してチェックするだけといったケースも少なくない。リスクを分散しながら短期間で社会にとって有益な情報システムを作り上げるには、欠かせない構造かもしれない。しかし、下流へいけばいくほど作業が単純化し、自ら考える必要がないため創造性に欠ける仕事しかできないなど、問題点も指摘される。

「下請け、孫請けの開発会社で、3カ月、半年単位のプロジェクトを転々としているSEは、スキルシートに細かい実績がたくさん並びます。開発の経験値は稼げますが、重みのあるキャリアが築けません。ある程度の年齢になったとき、上流から下流まで開発のあらゆる工程を経験していないと、クライアントは信頼して大きな仕事を任せられないと判断します。そうなると、キャリアがないからキャリアを作れないという負のスパイラルに陥り、多くの現場を経験したから技術力はあるのに活躍の場がなくなってしまいます」（市川氏）

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シーエヌシーは、経験を積んだSEが、上流工程の仕事を目指す登竜門となれる会社だ。1999年から付き合いがある外資系自動車メーカーを筆頭に、多くのクライアントとの間に、長年の信頼を土台とした太いパイプでつながっている。そのため、エンドユーザーのビジネスに直結した一貫性のあるキャリアが構築でき、エンジニアとして仕事の幅を広げることができるのだ。

「当社でキャリアを積んで、大手のSIerやベンダー、あるいはクライアント企業の情報システム部に転職した人間もたくさんいます。エンドユーザーと仕事をしているうちにキャリアチェンジして、マーケティング会社や、相手の業界に移った人もいます。当社に残ってくれるのがベストなのでしょうが、その人にとって最良の選択なら会社としても応援しています。転職先の企業から仕事を依頼されることもあり、人材が巣立っていくのは、当社にとってデメリットだけでもありません」（市川氏）

また、同社では、IT業界未経験者も積極的に採用している。要件定義から運用・保守まで、情報システムに関する全工程を請け負っているから、各エンジニアの技術力に合わせた仕事を担当させることができ、未経験者に経験を積ませることのできる仕事もある。

シーエヌシーは長年、利益追求よりもクライアントからの信頼獲得を優先し、リスクも大きい大型の案件を元請けとして受注するのではなく、クライアントと一緒に発注者側に回ってきた。競争が激しいIT業界で、20年以上会社を守り続けてきた宮田氏は、クライアントから長期にわたって信頼される理由を、“うちだけの提案”にこだわり続けたからだと考えている。

「長く多くのクライアントに信頼されてきたのは、他社とは違う提案ができるからだと思っています。それができるのは、異色のバックグラウンドを持った人材が多いからかもしれません。私は元オペラ歌手ですし、取締役の市川は元ツアーコンダクターです。他社のSEが経験していないことをきっかけに、クライアントが抱える課題にアプローチすれば、新しい提案につながります。小さなことでもいいので、当社に頼まないとできないことを示す必要があります」（宮田氏）

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そして、異色のバックグランドを持った人材が多い同社では、エンジニアの個性を重視している。学歴にも、性別にも、国籍にもこだわらない。適正があると判断すれば、これまでのキャリアも問わない。文系出身でもOK。むしろ違う世界で生きてきた人の方が面白いとさえ、同社では考えている。いろんな人材を受け入れ、利益だけを追い求めるのではなく、義理堅くビジネスを続けている同社の姿勢は、社員に居心地の良さを与えるのか、離職率が低いのも同社の特徴だ。

「20年以上事業を継続していますから、その間に多くの人間が巣立って行きました。ですが、大半はより待遇がいい会社へステップアップした人たち。IT業界が嫌になって辞めた人はほとんどいないと思います。直近3年間、社員はひとりも辞めていませんし、創業期を支えた15人のメンバーのうち、6人が今も社に残っています」（市川氏）

15分の6。激しく人材が動くIT業界において、創業から20年以上を経て、この数字は価値がある。仕事にやりがいを見出し、アットホームな環境のなかで、人とのつながりを重視して働き続けられるからこそ、人材が育つだけでなく長く会社を支えてくれるのだ。