描きたいとおりに描いた絵を、動かしたいように動かす”世界初の画期的な製品”
アニメやゲームなどのクリエイター向けに、2Dの“絵”を立体的に表現するツール「Live2D」シリーズを開発し、その提供とともに同製品を用いてのモデリングやアニメーションの受託制作も手がけている、株式会社Live2D。
「『Live2D』は、これまで3D以外に手段がないと思われていた本格的な立体表現を、完全に2Dで行うことを目指して開発した技術です。いわば、“描きたいとおりに描いた絵を、動かしたいように動かす”ことを可能とした、世界初の画期的な製品です」と代表取締役の中城哲也氏は胸を張る。
「トイストーリー」や「アナと雪の女王」などの3D技術を活用したアニメーション作品が大ヒットし、3Dはすっかりお馴染みの表現技術となった。しかし、そんな3Dでは困難な表現がある。例えば「ミッキーマウス」の耳。3Dアニメの場合、ミッキーが横を向けば耳も横を向くのが自然だ。ディズニーアニメでは、ミッキーマウスが横を向いても耳は正面を向いているように描かれる。そのほうが“ミッキーらしさ”を表現できるからだ。
「3Dはどちらかというと現実の世界を再現することに適しています。しかし、“絵”はまさに非現実。あり得ない世界の立体化に3Dは適さないのです。そういった“絵”を立体的に動かすことができるところが、『Live2D』の画期的な機能なんです」(中城氏)
現在までに、『ガールフレンド(仮)きみと過ごす夏休み』(バンダイナムコエンターテインメント)、『ファイアーエムブレムif』(任天堂)、『ケイオスドラゴン』(セガゲームス)、『悪魔と恋する10日間』(LINE)、『MF文庫J 夏の学園祭2015』(KADOKAWA)、『バトルガール ハイスクール』(コロプラ)など数々のヒットゲームタイトルの制作に活用されるという、華々しい実績を挙げている。
現状の製品は、「Cubism Editor」というモデリング・アニメーションソフトウェア、およびミドルウェアの「Cubism SDK」。そして目下、原画を動かすのに一定の範囲がある「Cubism Editor」の機能をさらに進化させるとともに、3D技術も融合した「Euclid」という新バージョンを開発している。「Euclid」は、正面、左面、右面、背後、上面などの原画をもとに、それらの間をシームレスに繋いで360度自然に回転させることができる機能を備えている。
「『Euclid』により、2Dアニメの表現の幅が格段に広がります。アニメやゲーム界からさらに高く評価していただけると確信しています」と中城氏は力を込める。
世界をあっと驚かせるオリジナルのソフトウェアをつくり出す会社を目指す
幼少の頃から絵を描くことが好きだった中城氏。工学部で情報工学を専攻していた大学2年の夏休みに、神戸のグラフィックソフトの会社でインターンとして働き、大学を中退してそのまま働き続けた。25歳の頃、「Live2D」のコンセプトを着想、独自に企画開発を始める。以前から独立指向があったこともあり、「片手間ではいいものができない」と30歳で独立し、2006年7月、同社を創業した。
「会社といっても自分一人。海のモノとも山のモノともわからないので、まずはカタチにしてどんな市場性があるのかを探ることが先決と考えました」
幸いなことに、国の*「未踏事業」に応募して認められ、1年分ほどの活動資金を得ることができた。そして、2007年に「Live2D」を一応完成させ、“フラッシュアニメ”が流行っていた当時、趣味のツールとして最初のバージョンを一般向けにリリースする。
「最初はちょっと売れましたが、結果的にマーケットを見出すことができませんでした。売れない日々が続き、借り入れや友人知人への出資を仰ぎながら開発や営業活動を続けましたが、破産寸前まで追い込まれました」と中城氏は打ち明ける。
一般向けには市場がないと断念、ターゲットをゲームやアニメ制作のプロに切り替えて営業活動を開始。すると、2010年に、バンダイおよび同社から『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。』というコミックのアプリ開発を受託していた制作会社が「面白そうだから使ってみたい」と採用を決めてくれた。このアプリが、なんと「App Store」で総合1位に輝く。
「これでこのアプリが一気に知れ渡り、業界関係者から『この絵の動きはなんだ!?』と話題を巻き起こしたのです。問い合わせが相次ぎ、ユーザーが徐々に増えて“作品が作品を呼ぶ”的な感じでブレイクしました」(中城氏)
そして、大手ゲーム会社および委託制作会社が軒並み「Live2D」を採用し、前述のとおり、本製品による作品が次々に生み出される状況になっている。また、韓国や中国のゲーム会社にも顧客は広がり始めている。
中城氏が目指すのは、“セロテープ”や“宅急便”のように、“Live2D”という商品・サービス名称が一般名詞のように使われる世界。
「グローバルに活用されている日本発のソフトウェアサービスは、『LINE』などごくわずか。日本のソフトウェア産業はその力があるのに、悔しいですね。ソフトウェアは資源不要で巨大なビジネスに発展させることができる一大産業分野です。まずは『Live2D』を日本から全世界に輸出できる製品にし、今後はオリジナルで世界をあっと驚かせるソフトウェアをつくり出す会社であり続けたいと思っています」と中城氏は意気込む。
*未踏事業:情報処理推進機構が主催する、ITを駆使してイノベーションを創出することのできる独創的なアイディアと技術を有するとともに、これらを活用する優れた能力を持つ、突出した若い人材を発掘・育成することを目的とした公募事業
“ものづくり大好き人間集団”の企業風土
2017年10月時点で、社員数は約46名。「急速に拡大してきた」と中城氏は言う。その中心は、製品を開発するプログラマーと、製品開発に関わりながらグラフィックやアニメーションの受託制作を手がけるデザイナーである。製品にほれ込んだ外国人も目立ち始めている。今後は、マーケティングや営業スタッフも拡充し体制を整えていく。
その企業風土を一言でいえば、“ものづくり大好き人間集団”。中城氏は次のように説明する。
「当社がつくるのは、世界を驚かせる製品でなければ意味はないとまで考えています。そんな製品をつくるためには、“ものづくりが好きで好きでたまらない”といった気持ちを大いに受け止められる環境づくりが不可欠。そこに力を入れていきたいですね」
そのために、毎月1万円、自分の成長に繫がることならば使途自由の手当を支給。
「本とか楽器とか、何でも構いません。ちなみに、私も木材やノコギリなどの材料や工具を買って、いろいろ試すことに使わせてもらっています(笑)」と中城氏。また、毎日1時間“自由研究”の時間を設けている。
コミュニケーションを深めるためにも、オフィスでカジュアルに立食パーティーを開くこともしばしば。さらに、月1回「パワーランチ」を開いて経営状況や業界動向を共有している。
「あまり緩くするつもりもありません。時間厳守やあいさつはきちんとするなど、当たり前のことではありますが、凄い製品をつくる会社がグダグダであってはならないと思っています。昔ながらの勤勉で礼儀正しい日本企業という側面も大切にしたいですね」(中城氏)
これから採用する人材も、“ものづくり”や“絵を描く”ことが好きな人に重点を置く。
「スゴい製品をつくって勝負したい、といった意欲のある人は大歓迎です。ぜひ一緒に世界を目指しましょう」と中城氏は呼びかける。