まず、略歴からお教えください。
大学では日本文学を学び、大学院修士課程では少しコンピュータ言語にも関わる言語情報科学を専攻しました。その院生時代の2000年の頃、設立されたばかりの当社で何度かアルバイトをしたのです。修了後、教育関係に進みましたが、一時フリーランスになった時期がありました。その時、当社にアプローチして仕事を受託したりしたのですが、「フリーならうちに入らないか?」と誘われ、社員として入社することにしました。2006年のことです。当時、売上がガッと伸びてとても忙しかったですね。GPSを使った実験や音声認識のデータ作成などが目白押しでした。後で考えれば、スマートフォンに実装する機能のための研究だったと思います。そんな環境で、私は「たくさんやればたくさん学べる」と、手を挙げて仕事を担当させてもらいました。今でも、経営よりそんな現場の仕事の方が好きだったりします(笑)。
渡部さんが社長に指名されたのは、どういった点を評価されてのことだと思っていますか?
二つあると思っています。一つは、人と仕事をすることが好きなところです。社内には、専門的な仕事を一人で内省的に手がけるような人が多かったのですが、私は効率や質の向上を考えて、いい外注先を見つけたり、学生を組織して盛り上げたりといったチームでやるやり方を会社に持ちこんだのです。そういう姿勢が評価されたのかな、と。 もう一つは、私には挫折経験があったことです。実は研究者になりたかったのですが、修士論文が自分でも嫌になるほどダメで、博士課程に進むことを断念したんですね。そして教師にでもなるかと、学習塾で講師を務めたりしていたのです。そして前述のとおりフリーに転身して当社の仕事をするようになったのですが、お客様である研究者と話していると、挫折経験があるだけにとても苦しい仕事であることがよくわかるんですね。もし自分が研究者なら、そんな研究生活で自分の研究に興味を持ってサポートしてくれたり、一緒に悩んでくれる当社のような存在が絶対欲しくなると確信できるんです。つまり、お客様に共感し寄り添うことができる。そんなところも評価してもらえたのだろうと思っています。
会社を一つのチームに例えて、「こんなチームをつくりたい」という思いをお聞かせください。
「みんな私についてこい!」というタイプではないし、そんな大人しいメンバーでもないと思います(笑)。メンバーが「何かあったら渡部さんの言うとおりにしていれば大丈夫」などと思いでもすれば、たちまちこの船は沈没してしまうかもしれません。ですから、私がみんなを引っ張るのではなく、みんなが私を前に押してくれるようなチーム、でしょうか。時にはそんな私を踏みつけて前にいってもらっても構わない(笑)。けれども、私は困っている社員を見捨てるようなことは絶対しません。 それと、当社に明確な営業組織はなく、リーダーの仕事ぶりを見たお客様がリピートオーダーしてくれたり、ほかのお客様を紹介してくれるという構造にあるんです。つまり、口コミが最大の営業ツールなんですね。ですから、リーダーやメンバーをピカピカにしておくことがとても大事。不満のないチームにするのも、社長である私の仕事ですね。
そんな社員への思いをお聞かせください。
自分の生活や家族との時間、趣味の時間などを大事にしてほしいと思います。プライベートが充実していればこそ、仕事にも全力を注ぐことができるからです。 また、そのためにもつまらないことに悩んだりしないでほしい。少なくとも社内には派閥争いや理不尽なルールなどはつくらないようにしています。 そして、仕事においてはこの分野の第一人者になってほしいと思っています。優秀な研究者と仕事できる、恵まれた環境を生かさないのはもったいないことですから。
最後に、渡部さんの仕事観についてお教えください。
自分が楽しめるものです。仕事は楽しくやりたいという思いが強いですね。自分が楽しいと、周りもハッピーになれると思っています。オフタイムには読書や映画鑑賞、現代アートを楽しむこともありますが、仕事が趣味、といってもいいくらいですね(笑)。