採用支援の仕事から、なぜ警備業界で起業しようと思ったのですか?
前職は、Indeed Japanという会社でエンタープライズ企業の採用支援をしていました。いろいろな業界のお客様を担当しましたが、その中でも警備会社は採用にかける金額が大きく、私の担当売上のかなりの割合を占めていました。営業として当然そこへ注力し、採用効率を上げたり、採用単価を下げたりするために試行錯誤しました。 数字だけを見れば、成果は出ていました。年間で何千人という人を採用している会社で、前年より採用効率も良くなり、採用単価も下がった。ただ、年度の最後に確認すると、純増は数十人程度しかありませんでした。採用した人数とほぼ同じだけの人が辞めていたんです。私は、期待した成果を出せていないと感じながら、お客様へ報告に行きましたが、お客様は人数が増えたことを喜んでいた。その温度差に、すごく違和感がありました。 警備業界では、人が辞めること自体が当たり前になっていたんです。会社は辞めてほしいと思っているわけではありませんが、「そういうものだから仕方がない」と受け入れられている。採用を増やすだけでは、警備会社の本質的な事業成長には貢献できない。せっかく採用した人がすぐに辞めてしまう状況を変えなければならないと思いました。誰も解決していないのであれば、自分でやってみよう。それが、警備業界で起業したきっかけです。
警備業界のことを知らない状態から、どうやって課題解決の糸口を見つけたのですか?
警備業界についてほとんど知識がありませんでした。付き合いのあった警備会社を訪問した際、ホワイトボードや黒板を使って警備員の配置を決めている様子を見て、非効率でミスも起こりやすいのではないかと感じたのが最初です。ただ、外から見ただけでは、なぜそのような運用になっているのかまでは分かりませんでした。 そこで、警備会社に協力をお願いし、私自身が警備員として所属して現場で働きました。事務所にも一日滞在し、内勤の担当者が何を確認し、どう判断して業務を進めているのかを観察しました。 退職した警備員に、辞めた理由も聞かせてもらいました。会社には伝えにくかった事情も、退職後なら話してもらえる。理由を聞くと、警備の仕事そのものが嫌になった人ばかりではありませんでした。 週5日の勤務を希望したのに、週3日しか仕事が入らない。近くの現場を希望したのに、遠い場所へ配置される。内勤の担当者に伝えた希望が、社内で上手く共有されていない。小さな行き違いが重なり、別の警備会社へ移る人がいることが判明しました。 こうした行き違いは、仕組みで減らせると私は考えました。内勤の担当者は業務の負担が軽くなり、警備会社は離職を減らせる。警備員も、希望に合った働き方ができる。三者にとってメリットのある形で解決できると考え、『くもかん』の開発に至りました。
警備業界を事業ドメインにするに当たり、どこに魅力を感じていますか?
実際に関わるほど、警備業界は自分自身にも合っていると感じるようになりました。長く向き合っていきたいと思える、魅力のある業界です。経営者も、内勤の担当者も、現場で働く警備員も、真面目に仕事へ向き合い、ひた向きに努力している人が多い。実際に業界へ入ったことで、その印象は強くなりました。 努力しているにもかかわらず、上手くいっていないことがあるのも印象的です。やり方を知らなかったり、必要な知識が十分でなかったりすることで、結果に繋がっていないケースが多々あります。そこに、私はこの業界で仕事をする大きな魅力を感じています。真剣に仕事へ向き合っている人達がいて、その努力が十分に報われていないのであれば、変えられる余地がある。今ある努力がきちんと結果に繋がる状態をつくることに、大きな意味があると考えています。 警備業界には小規模な会社も多く、会社単独では解決しにくい問題もあります。警備会社が連携することで過度な価格競争を減らし、単価を高めることができれば、その利益を福利厚生や労働環境の改善にも繋げられます。個社の業務を改善するだけではなく、業界全体の構造にも変えられる余地が残っている。そこにも、この仕事の面白さと可能性を感じています。
警備業界の先にどのような未来を描いていますか?
『くもかん』と『スマート巡察』を通じて、警備員の定着という課題に取り組んでいますが、解決したいことはそれだけではありません。警備業界には、人材の採用や案件獲得、会社の収益構造等、まだ多くの課題が残っています。警備会社を移っても、それまでの勤務実績や評価を引き継げるようにする「警備員ID」の構想や、警備員が日々の現場で把握している交通量や工事規制等の情報を活用したデータビジネスの可能性も考えています。 勤務実績の活用先は採用だけではないと考えています。継続して働いてきた履歴や、その中で得た評価は、その人が積み上げてきた実績そのものです。将来的には、そうした稼働履歴をFinTechの領域にも活用し、ローン等の金融サービスへ繋げることも構想しています。 さらに先の未来では、警備業界での取り組みを、他のエッセンシャルワークへ広げていくことも考えています。AIやロボットが発達しても、警備や介護、清掃等のエッセンシャルワークが、全てなくなるわけではないと私は思っています。社会に不可欠な仕事でありながら、その価値が十分に評価されていない領域でもあります。働いた実績がきちんと価値として残り、本人の人生にも還元される仕組みをつくる。人が担う仕事そのものの価値を高めていける会社を目指しています。
株式会社strayaが大切にしている「地上戦」とは、どのような考え方なのでしょうか?
警備会社の業務の進め方や、警備員の働き方まで変えていくには、現場を深く理解することが欠かせません。実際に現場へ行き、お客様と同じ目線に立って話を聞き、目の前で起きていることを一つずつ確かめる。そうした泥臭い取り組みを徹底する姿勢を、当社では「地上戦」と呼んでいます。 この「地上戦」を支えているのが、凡事徹底の考え方です。当たり前のことを当たり前にやり続けることが、最も強い。特別な施策によって一度に大きな成果を生み出すのではなく、現場へ足を運ぶ、お客様の話を聞く、得られた情報を検証する。そうした一つひとつの行動を疎かにせず、継続することを大切にしています。 私自身、仕事を通じて、誰かの「負の当たり前」を変えたいという思いがあります。警備業界には、決して望ましい状態ではないにもかかわらず、仕方がないものとして受け入れられてきた過去があります。採用しても多くの人が辞めていく状況も、その一つです。これまで当たり前とされてきたことでも、現場を深く理解し、原因を一つずつ解きほぐしていけば、変えられるものはあると考えています。 人生の最後に振り返った時、どの会社で働いていたかという経歴よりも、誰かの負の当たり前を変えられたことに価値を感じたい。共に取り組んだ人達と、あの時に頑張って良かったと思える仕事を残したい。そのためにも、現場と顧客に向き合い、当たり前のことを徹底して続けていく。それが、私自身の仕事に対する姿勢であり、当社が「地上戦」を大切にする理由でもあります。
