INFINITY LABS株式会社を立ち上げるまでの経歴を教えてください。
名古屋の工作機械メーカーの家系で育ちました。父も製造業やロボット関連の仕事に関わっていて、幼い頃から機械やものづくりに触れる環境がありました。ただ、私自身は家業を継ぐつもりはなく、純粋に「なぜ動くのか」「なぜそうなるのか」といった、物理現象そのものへの興味が強かった記憶があります。 9歳からはイギリスの全寮制プライベートスクールへ進学しました。かなり特殊な学校で、海軍系の教育も行っていたため、学生時代は海兵隊の訓練にも参加していました。その後、大学・大学院では物理学を専攻し、博士課程まで進み、ナノマテリアル等の基礎研究に携わっていました。 当時取り組んでいたのは、社会実装まで20年、30年かかるような最先端領域の研究。「優秀な研究者ほど、研究を続けられなくなっている」という現実を目の当たりにしました。資金やキャリアの問題から、多くの有能な研究者が金融業界へ移っていく。私自身も、このまま研究だけを続けるのではなく、“技術を社会へ実装する側”へ回りたいと考えるようになっていきました。 その後は、経営コンサルティング会社でPEファンド向けの分析業務に従事。さらに、姉とイギリスのケンブリッジ大学の評議員が立ち上げたベンチャーキャピタルへ参画し、投資や資産運用の世界へ入っていきます。そこで、「人の投資判断をAIで再現できないか」という構想が生まれ、現在の金融AI事業へ繋がっていきました。
現在の事業は、どのように始まったのでしょうか?
姉とケンブリッジにある大学の教授が立ち上げたベンチャーキャピタルへ参画しましたが、大きな課題に直面します。投資をしても、リターンが返ってくるまでに10年単位の時間がかかるんです。その間、ファンド自体もキャッシュフローを維持し続けなければいけない。そこで考えたのが、株式市場での運用を活用しながら日々のキャッシュフローを作り、利益を長期投資へ回していく仕組みでした。 最初は、資産管理や分析も含めて、ほぼ手作業で行っていました。お客様の資産運用や分析を少人数で回していたので、事業としては成長していた一方、オペレーション負荷も非常に大きかった。私達が目指していたのは、単なる運用会社ではなく、もっと再現性のある仕組みを作ることでした。 そこで着手したのが、投資判断や分析プロセスそのものをAI化する取り組みです。人の経験や判断に依存するのではなく、AIを活用して分析・運用を仕組み化できないか。そこから現在の金融AI開発が始まりました。 開発期間は、気付けば10年近くになっています。その間、既存のお客様には待っていただきながら、スイス側で資産管理や金融アドバイスを継続してきました。ようやく今、実運用フェーズまで来た感覚があります。
AIを使って、どのような世界を実現したいと考えていますか?
AIを活用した金融分析・資産管理システムの開発を進めています。元々は、人力で行っていた投資分析や資産運用のオペレーションを、もっと再現性のある形へ落とし込めないかという問題意識から始まった事業です。 投資判断は、個人の経験や感覚に依存する部分が大きい世界です。属人性も高く、対応できる顧客数にも限界があります。そこで、人が行っている分析プロセスそのものをAIによって支援・強化できないかを、長年研究してきました。 私達はAIを「人を置き換えるもの」とは考えていません。むしろ逆で、人の能力を引き上げるためのツールだと思っています。例えば、ファンドマネージャーが本来やるべきなのは、単純作業ではなく、最終的な意思決定や戦略設計です。AIによって分析や情報整理の効率が上がれば、より本質的な判断へ時間を使えるようになる。そういう使い方を目指しています。 AIは企業ごとに適した形が全く違います。ワークフローも組織文化も違うので、単純にツールを導入すれば解決するわけではない。その会社の業務や意思決定プロセスに合わせて設計していく必要があります。 長年開発してきたシステムが、ようやく実運用フェーズへ入り始めています。金融領域だけではなく、今後は様々な産業に対して「AIをどう人間社会へ実装していくか」というテーマにも向き合っていきたいと考えています。
AIを社会へ実装していく上で、大切にしていることは?
AI業界では、「どれだけ人件費を削減できるか」という文脈でAI導入を進められることが非常に多いと感じています。私はそこに強い危機感を持っています。AIは、人を置き換えるためだけに使うべきではないと思っているからです。 AIによって効率化できる業務は沢山あります。その結果として、人が不要になる世界をつくりたいわけではない。人間が本来やるべき仕事へ集中できる環境をつくることの方が重要だと考えています。 例えば、投資の世界でも、情報整理や分析だけで膨大な時間がかかります。本来、ファンドマネージャーが価値を出すべきなのは、その先の意思決定や戦略設計です。AIによって下準備の部分を支援できれば、人間はもっと高度な判断へ時間を使えるようになる。私達は、そういう形でAIを活用したいと思っています。 AIが社会へ与える影響は非常に大きいと感じています。開発スピードに対して、人間側の準備が追い付いていない危うさも感じています。実際、国際機関レベルでも、AIガバナンスや安全性に関する議論が急速に進んでおり、私もオブザーバーのような役割で関わっています。 だからこそ、単に「便利だから導入する」ではなく、「そのAIが社会へどんな影響を与えるのか」まで含めて考えなければいけない。技術だけ先に進めばいい時代ではないと思っています。
なぜ「ホワイトな組織」をつくりたいと考えているのでしょうか?
経営コンサルティング会社にいた頃、かなりハードな環境で働いていました。PEファンド向けの分析業務を担当していて、仕事そのものは本当に面白かったんです。企業分析や投資判断等、私がやりたかった領域にも近かった。けれど、働き方としてはかなり極端で、最終的には体調を崩してしまいました。 その経験は、自分の中でかなり大きかったですね。もちろん、スタートアップや研究開発の世界も楽ではありません。特に私達のような事業は、長期的な研究や試行錯誤も多く、結果もスピードも求められるのも事実。とはいえ、「大変だから、誰かが無理をし続ける」という形にはしたくなかったんです。 だから、当社でも単純な労働集約型の組織にはしたくありません。一人ひとりが思考し、技術を深掘りできる環境をつくりたい。少人数であっても、無理や消耗を前提にするのではなく、長期的に価値を出し続けられる組織を目指しています。 私自身、研究者や技術者が、環境や資金の問題で力を発揮できなくなる場面を沢山見てきました。だからこそ、優秀な人達が、ちゃんと挑戦を続けられる環境をつくりたい。それは、この会社を経営している理由の一つでもあります。