AUDER株式会社を設立するまでのキャリアは?
大学では開発経済学を専攻していました。途上国の経済課題を分析し、貧困・教育・健康・環境といった社会問題の解決策を探る分野です。私はその中でも「飢餓と飽食」をテーマに、食品の流通構造や技術移転について研究していました。途上国では飢餓が発生している一方で、日本のような飽食社会も存在します。しかし、人類全体で見れば、地球上の食料総量は全人口を賄えるだけの量があるとされています。では、なぜ飢餓が起きるのか。その答えを「流通構造の最適化」という視点から探るのが私の研究テーマでした。 新卒で入社した大手シンクタンク企業では、創発戦略センターに配属となりました。新規事業の創出を専門とする部署で、これまで数多くのベンチャーを立ち上げ、新しい市場づくりや社会改革に貢献してきた組織です。私は農学部出身というバックグラウンドもあり、食料関連のプロジェクトを担当しました。大手総合商社による農薬メジャーの買収案件に携わる等、スケールの大きな仕事も経験しました。
AUDERを設立した背景は?
大手シンクタンク企業の創発戦略センターでは、クライアントワークだけでなく、自分達が主導してコンセプトをつくり、事業を創造していく仕事にも携わっていました。複数の企業を巻き込み、コンソーシアムを組成し、新規事業を立ち上げる。その過程で、必要に応じてベンチャーを立ち上げることもありました。 私はその中で、自立型農業ロボットを開発するプロジェクトのリーダーを3年間務めました。仲間と共に事業を立ち上げ、グロースさせていく経験は非常に刺激的で、大きなやりがいを感じていました。 プロジェクトは順調に進み、2.5億円の資金調達も完了。いよいよ事業を本格的にドライブさせる段階に入ったタイミングで、私は次のインキュベーション案件を探す役割に回ることになりました。多くのステークホルダーと協力し、ゼロから積み上げてきたプロジェクトを離れることになり、「もっと長く事業の成長に関わりたい」という思いが強く芽生えました。 次こそは、泥臭いことも含めて、事業がしっかりスケールするところまで携わりたい。自分が主人公として責任を持ち、最後までやり切りたい。そのためには起業することが最適解だと考え、独立を決意しました。
AUDERのサービスが解消しようとしている課題は?
食品流通は、産地・メーカー・卸売・小売・物流といった多様なプレイヤーの連携によって成り立っています。しかし、その構造の複雑さ故に、現場には依然としてアナログ作業が多く残り、入力ミスや業務の重複といった非効率が日常的に発生しています。 特に深刻なのが、物流現場における「二重作業」の常態化です。物流には、モノの流れと情報の流れが存在します。本来であれば両者が同期して動くべきですが、現実には情報がモノの移動に追い付かないケースが頻発しています。物流データは請求処理にも関わるため、各社の基幹システム間でデータ連携が行われますが、連携にはコストがかかり、通信タイミングも限定的。その結果、次の物流拠点では検品をゼロからやり直す必要が生じ、非効率が構造的に発生しています。 そしてこの問題は、食品流通に関わる企業がそれぞれ独立した経済主体として個別に意思決定を行っている以上、単独の努力では解消が難しいという本質的な課題を抱えています。私達が開発した『AUDER』は、まさにこの「プレイヤー間の隙間」にこそ、本質的な非効率が潜んでいると捉えています。だからこそ、「流通のデジタルインフラの共創」をビジョンに掲げ、異なる立場の企業同士を繋ぐインターフェースとなることを目指しています。 産地やメーカーでデジタル化された物流データが、モノの移動と同時に伝達される世界が実現すれば、検品レス・納品伝票レスが可能になります。個社最適をフックに、業界全体の最適化を実現するための“共通デジタルインフラ”をつくる。それが当社の使命です。
AUDERのサービス開発をする上でポイントにしたのは?
エンジニアとのコミュニケーションです。私は非エンジニアなので、エンジニアの考え方・価値観・行動規範を理解しながら、自分の伝え方やスタンスをアジャストしてきました。前職でもエンジニアと一緒に働く機会はありましたが、基本的にはシステム要件を渡し、それを実装してもらう“一方通行”の関係でした。しかし当社の開発では、エンジニアが「自分達が主役だ」と感じられる環境をつくりたいと考えました。そのために、彼らの思考や知見を積極的に吸収し、テック企業としての土台を一緒に固めてきました。 そんな中で、西さんをCTOとして迎えられたことは、当社にとって大きなターニングポイントでした。技術レベルが非常に高く、『AUDER』の開発を数段階引き上げてくれました。AIに精通しており、AI駆動型開発を当社に持ち込んでくれたのも西さんです。さらに、ビジネスサイドへの理解も深く、技術的に難しい内容を非エンジニアである私達にも分かる言葉で説明してくれます。技術的な落としどころを全て考え、エンジニア組織の運営も含めてテック領域を全面的に任せられる存在です。
仕事をする上で、大切にしていることは?
先日、経営陣でバリュー策定のディスカッションを行い、五つの行動規範を定めました。単に“掲げるだけのバリュー”にはしたくないという思いは全員に共通しており、自分達が心の底から信じ、日々の行動に落とし込めるものだけを選び抜きました。 その中の一つが「ラストワンマイルオーナーシップ」です。オーナーシップを掲げる企業は多いですが、私達はそこに“最後まで責任を持ち切る”という意味を込めて「ラストワンマイル」を加えました。 食品業界のステークホルダーからは、『AUDER』への期待を強く感じています。ポストシードの資金調達では、食品流通企業3社が資本参加してくれました。『AUDER』はクライアントの現場で働く方々と一緒につくり上げてきたプロダクトであり、その思いはプロダクトの細部にまで宿っています。 とはいえ、まだ改善の余地は無数にあります。サービス拡大に伴い、安定稼働やセキュリティ強化等、エンジニアが力を発揮すべき局面はこれからさらに増えていきます。『AUDER』が広く浸透し、食品業界全体の流通が最適化される未来を実現するために、ぜひ一緒に走り切ってほしいと願っています。