インクレイズテクノロジー株式会社

インクレイズテクノロジー株式会社は、宿泊業の現場に点在する予約や会計、顧客の声といった情報をテクノロジーで一元管理・分析する仕組みを提供する企業である。経営者や働く人々が煩雑な作業に時間を奪われるのではなく、経営判断やお客様への対応に集中できる環境をつくっている。

創業者でありCEOの池添弘規氏は、理系大学院を修了後、大手の人材・情報サービス企業に入社し、旅行事業の営業を担当した。全国の宿泊施設と接するなかで感じたのは、地域の旅館がITやオンライン販路に精通した人材を確保する難しさだった。
池添氏は理系のバックグラウンドを生かし、宿泊施設の予約データを整理・分析して営業先に提示した。経営者が熱心に耳を傾けてくれたことで、自社データを生かす仕組みの必要性を強く感じた。その後、本社勤務でBIツールを扱い、情報を整理すれば経営判断に直結することを改めて実感する一方、裏側の基盤は複雑で専門知識がなければ扱えない現実にも直面する。資本に余裕のある大手はともかく、地場の旅館が自力で導入するのは困難だった。
「経営者がやりたいのは数字と格闘することではありません。本来の価値であるお客様へのおもてなしに心を尽くすこと。その時間を奪われているのは大きな損失だと思いました」と池添氏は語る。こうした課題感から、自分なら宿泊施設を支える仕組みをつくれるのではないか──その想いが起業の原点となった。

背景には、徳島で育った池添氏の原体験もある。地方では人材が都市部に流出し、特にITに精通した人材は圧倒的に不足している。そして旅館は観光客を迎えるだけでなく、地元食材の活用による地産地消、雇用や税収を通じて地域社会と深く結びついている。池添氏は「旅館は地域社会にとって欠かせない存在です。だからこそ、経営者やスタッフには本来のおもてなしに集中してほしい。集客や煩雑な事務作業に追われるのではなく、お客様に心を尽くせる環境を整えることが大切だと思いました」と強調する。
宿泊業は地域の経済的・文化的基盤であり、その持続可能性を高めることは日本社会全体の未来に直結すると池添氏は考えている。
その想いを象徴するのが、社名「インクレイズテクノロジー」だ。テクノロジーで、やりたいことに“夢中になれる（in crazy）”時間をつくり、その時間を“増加（increase）”させたいという意味が込められている。

同社の主力サービスは、宿泊業向けのBIツール『ヤドレポ』だ。ホテルや旅館が日々利用するPMS（Property Management System）をはじめ、顧客アンケートなどの分散した情報を一元化し、経営に生かせる形で可視化する。PMSとは宿泊業における台帳管理システムであり、宿泊者名簿や予約情報、会計データなどを扱う基幹システムのことだ。
最大の特徴は、このPMSデータを活用できる点にある。国内には100種類以上のPMSが存在し、仕様もバラバラで、従来は外部IT事業者が取り込むことが難しかった。しかし同社は技術的な知見と現場に寄り添う姿勢によって、PMSデータをDB化し、活用できる形に変換する仕組みを構築した。

ヤドレポでは、予約の時期や顧客属性、リピーター比率、将来の予約状況等を直感的に把握できる。従来はエクセルにまとめる作業に膨大な時間を要していたが、「作業時間が大幅に削減できた」「予約管理が属人的でなくなった」といった声が導入施設から寄せられている。
さらにCRM機能を備え、地域や年代、訪問客層ごとに適切な内容をメール配信し、開封率や遷移状況、予約成約までの効果測定が可能になった。これにより、従来は曖昧だった施策も、確かな改善サイクルとしてまわせるようになった。
導入先は、小規模な旅館から中堅ホテルまで幅広い。導入効果は業務効率化にとどまらず、組織的な数字管理や若手スタッフの教育等、経営や人材育成にも役立っている。

ビジネスモデルは、初期構築費用と月額課金によるサブスクリプションの組み合わせだ。月額で利用が続く理由について、池添氏は「数字に追われるのではなく、数字を生かせるようになること。それを実感していただけるからこそ継続利用に繋がっています」と語る。

池添氏は今後の展望について次のように語る。
「集客の観点で、施設が必要とするすべての情報を可視化していきたいと考えています。リピート客に長く訪れてもらえるような共生の仕組みを整えるにはITの力が不可欠ですし、その課題を解決できれば、次は館内オペレーションのDX化にも取り組んでいきたい。例えば、客室係がアレルギー情報を手書きで調理場に伝えている現状を改善し、業務負荷を下げることで、 人にしかできない価値提供に集中できる環境をつくりたいのです」
ITの力で現場の負担を軽減し、“おもてなし”で旅館の価値を高める。そんな共生の仕組みづくりこそ、同社が描く未来である。

プロジェクトは要件定義から約2か月で初期リリースし、その後は運用の中で顧客の声を反映して改修を重ねる。開発はバックエンドとフロントエンドに分かれ、フロントではノーコードを活用するため経験の浅いエンジニアも参画しやすい。早くから顧客課題に触れ、事業の最前線で経験を積めるのも大きな魅力であり、感謝の声を受け「役に立っている」実感を得られるのもやりがいだ。

ほかにも、同社で働く魅力として自由度の高さがある。100％オーナー企業で外部資本による制約がなく、意思決定が速い。メンバーには裁量が与えられ、手を挙げれば新しいプロジェクトにも挑戦できる。さらに、データベースやBIの知見は、長期的に価値のあるスキルとなる。加えて、今は初期フェーズゆえリーダーやマネジメントを担うチャンスも大きい。

カルチャー面では、温かさとフラットさが感じられる。「日常の会話は半分以上が冗談交じりです」と池添氏は笑う。雰囲気は和やかだが、オンとオフを切り替え、仕事では真剣。リモートを取り入れつつ定期的に対面で会話し、人柄を感じられる関わりを大切にしている。そうした文化は、同社が大切にする顧客への向き合い方にも繋がっている。
「われわれはテック企業以上に、サービス業という感覚があります」と池添氏は語る。システムを提供するだけでなく、経営者の困りごとに耳を傾け、最適な解決策を一緒に探る。その姿勢はまさにサービス業に近い。AI時代だからこそ、ユーモアや思いやりといった“人間味”の価値が高いと考えているのだ。

そのため、そうした価値観を共有できる仲間を求めている。仲間や顧客と積極的にコミュニケーションを取り、自由度の高い環境で自ら考え、決め、動ける人にマッチする職場だ。ただしその自由は責任と表裏一体。意見に耳を傾け、フィードバックを受け止められる「素直さ」も大切にしている。

こうした姿勢があるからこそ、池添氏自身も現場の経営者のすばらしさに気づけたという。旅行業界に携わった当初を振り返り、「夜遅く宿泊先でお会いしたとき、社長自らお湯の温度を確かめ、掃除までされていた。その背中を見て本当に尊敬しました。旅館経営者はお客様との接点すべてに責任を持っている。だからこそ、ITやデータの分野を補い、本来の役割に専念できる環境をつくりたいと思ったのです」と語る。

最後に、池添氏は次のように語った。「働きがいを感じられる要素は3つあると思っています。人と繋がる幸せ、仲間と挑む楽しさ、そして社会的意義です。この3つがそろっているのが当社です。この価値観に共感し、“楽しいメンバー”と一緒に働きたい人にとって、長く夢中で取り組める環境だと思います」
同社が目指すのは、テクノロジーとデータを用いて働く人の「夢中になれる時間」を広げること。その挑戦に加わり、未来を切り開く仲間を求めている。