株式会社やどかり

株式会社やどかりは、スマートフォンやタブレットのアプリ、Webシステム等の開発を手掛けている独立系のエンジニア集団である。

同社のサービス内容は、アプリやWebシステム開発を主軸に、ECサイト構築、LINE公式アカウント開発、IoTアプリ開発、ITコンサルティング、サーバーホスティング等と幅広い。
いずれも、100%受託開発だ（SESは一切行っていない）。

そんな同社の強みとして、「“ワンストップ開発”と“想いをカタチにする”こと、“気軽に飲みに行けるエンジニア”の3点を強調している」と取締役の福森勤氏は話す。

“ワンストップ開発”とは、アプリやWebシステムの開発だけでなく、それを稼働させるサーバーの手配等まで一気通貫でカバーする広範なサービス力を指す。
“想いをカタチにする”は、クライアントのやりたいことが漠然としている状況から相談に応じ、その想いを汲んでプロトタイプをつくり、イメージを具体的なカタチにしていく対応力を指す。
“気軽に飲みに行けるエンジニア”とは、同社のエンジニアがプロジェクトのキックオフ段階から飲みに行く等してコミュニケーションを深め、本音で話し合える関係づくりを行うことを指す。

「ITのプロではないクライアントの意向に対し、プロからすれば別のやり方がいい場合があっても意見が言えないエンジニアが多いと思います。当社では、“しゃべれるエンジニア”が言うべきことがあれば率直に言うことでクライアントの気付きや納得度を深め、結果的に満足いただけるモノをつくることにこだわっています」と福森氏は説明する。

こうしたスタンスと、代表取締役の松澤隆之氏が国内におけるスマホアプリの黎明期から開発を手掛けてきた実績と信頼性を強みとして、数々の大手企業の案件を手掛けている。例えば、有名なスマホ用TVアプリ、世界的ファッションブランドのイベントアプリ、“秋葉原と言えば”の店舗ECサイト構築等々。クライアントには、ビール、食品、携帯キャリア、鉄道、電機、自動車、小売、飲食等のナショナルブランドが顔を揃える。

商流としては広告代理店やデザイン会社経由が70%程度を占めているが、システム面を担うパートナーとして加わる形が多く、同社エンジニアはクライアントと直接やりとりを行い、実質的に直請けと同等の立場でサービスを提供している。スタイルとしても、受託開発として社内チーム体制で取り組めるメリットを発揮しているのが特徴的だ。

同社は、2017年7月、松澤氏と福森氏が共同で設立した。

松澤氏は、システム開発会社でエンジニアとしてC言語やVB等を用いた防災等の公共系システム開発に4年ほど従事の後、30歳の2004年に友人とWeb系の開発会社を起業する。そこではFlashを活用した、世界にも例がない独自のデスクトップアプリケーションを開発し、数多くのプロジェクトをこなす。その会社に福森氏が入社し、松澤氏のメンバーとなった。
しかし、2008年にスマートフォンが日本にも上陸した頃からFlashが下火になったことを機に、2010年にWeb系の開発会社を離れると、前職の先輩に誘われてシステム開発会社の立ち上げに関わる。同社でも当初は公共系のシステム開発を手掛けたが、余力があったので当時普及を始めていたスマートフォン向けのアプリ開発をいち早く手掛けるようになった。
「黎明期の当時、アプリ開発を手掛けるエンジニアが極少だったせいか、1年間で10本ぐらいつくりました。問い合わせも続出し、そのうちアプリ開発が主体となったのです。大手企業ばかりでしたが、この時期に多くを手掛けた実績が財産になりましたね」と松澤氏は振り返る。なお、福森氏も後から松澤氏の下に転職してきた。

ところが、経営者のマネジメントに問題があり、15名いたメンバーのうち10名が1年の間に退職するという事態に。
「会社が順調でなくなると、社内の空気が殺伐となったり、困っている人がいても見て見ぬふりをしたりするといった状況に陥ります。No.2として立て直そうとしてもトップが変わらなければもどかしい状態となります。ならば、いっそのこと自分の理想とする組織風土の会社をつくろうと思い立ちました」（松澤氏）。
「松澤は情に厚く、可愛がっていたメンバーが次々に辞めていくのが忍びなかったと思います。また、松澤は数字回りも得意だったので、自ら経営できる人材でした。そこで私も松澤の起業に合流しようと決めたのです」と福森氏は補足する。

社名を「やどかり」にした由来について、松澤氏は次のように説明する。
「居場所を貸したり借りたりして、仲間がいつも集まって思い切り働き、思い切り遊べる。そんな場所をつくりたいという思いで命名しました」

両名が理想とする組織風土は、次の企業理念に凝縮されている。

【仲間と全力で働き、全力で遊ぶ】

「設立初年度の目標は、“期末に全員で海外旅行に行く”というものでした。みんなが全力で仕事をして稼いだお金で、全力で遊び、絆を深める。そんな会社をつくりたかったのです。ですから、設立以来、コロナの時期を除いて毎年、海外に社員旅行に出掛けています」と福森氏は話す。

今後も、基本的な方針は変わらない。今後のビジョンについて、松澤氏は次のように言う。
「当面は50名、ゆくゆくは100名まで増やしたいと思っていますが、AIの進展等でどうなるか不透明な部分もあると思います。事業としては、独自サービスの開発も視野に入れています。変えるつもりがないのは、企業理念です」

社員数約30名の同社は、2022年に経営陣と社員代表10名ほどで、次の6項目のコアバリューを定めた。

・素直である。
・ユーモアを持ち、チームを笑顔にする。そして自分も楽しく仕事をする。
・誰にでも敬意を持って接する。思いやりを忘れない。
・自分を継続的に改善し、高いプロの基準を守る。
・世界に視野を広げ、一歩踏み出す。
・ポジティブである。なんとかなる！

このコアバリューは、締め会や朝会等の場で取り上げて浸透を図る一方、特に人材採用におけるスクリーニングに活用している。「これに共感し、行動に移せるメンバーを増やすことで、徐々に風土として定着させることを狙っている」と松澤氏。この推進を通じて、“仲間と全力で働き、全力で遊ぶ”組織風土をつくり、結果的にクオリティーの高い仕事に繋げていく思惑があるのだ。

さらに、組織風土づくりの強化策としてのユニークな制度も。
まずは、“バンジージャンプ手当”。バンジージャンプにチャレンジした社員には、上限2万円までその費用を補助している。
「“自ら一歩踏み出す勇気”を称え、習慣化してもらうための制度です。ちなみに、インストラクターが付き添うスカイダイビングは対象外です」（福森氏）。

また、“クリぼっち手当”もある。クリスマスに恋人がいない社員に、寂しくならない夜として過ごしてもらおうという会社の配慮だ。

毎年の社員旅行以外に、BBQやハロウィンのほか、富士登山やホノルルマラソン等も楽しんでいる（参加自由）。
「体力的につらくても、『みんなでやるから楽しい！』という時間にしたいのです。この仲間意識が当社の最大の特長だと思っています」（松澤氏）。

人材育成においては、全社員に社外のコミュニケーション研修を、リーダーとして活躍してもらいたいメンバーに1年間の『リーダー養成塾』を受講させている。

働き方は、オフィスワークが原則。「コロナでリモートに切り替えた時、『こんなことをするためにこの会社をつくったのではない』と強く感じた」と松澤氏は話す。

そんな同社が求める人材像は、前述のとおりコアバリューに共感し、実践できる人。
同社は規模拡大とともにオフィス増床を決め、2026年内には同じ秋葉原地区への転居を計画している。組織風土とともに、より気持ち良く働ける環境は魅力となるだろう。