常務取締役 荒木 哲也氏 穏やかなサラリーマン生活から一転して企業経営の論理に翻弄されたビジネスパーソン。1987年に大学卒業後、大手化学メーカーに新卒入社。会計人材として30年にわたりキャリアを積むも、会社がM&Aで買収され、居心地が悪くなり、55歳で転職。2度の失敗を経て、外資系の会社で活躍の場を得るも、そこも人間関係で悩み、再び転職。エーシーエスの常務取締役として、経営改革に挑むことになる。

エーシーエスに入るまでのキャリアは？

新卒で化学メーカーに入社し、経理畑を歩んできました。管理会計を学び、海外でも通用する会計人材として会社に育ててもらい、海外留学やアメリカ・中国での駐在も経験。順調にキャリアを積んでいましたが、50歳を過ぎた頃に会社が大手企業に買収され、主要ポジションに親会社から人材が送り込まれるようになり、マネージャー職だった私は孤立していきました。 当時の会社は「55歳で役職定年」という制度があり、それまでに執行役員に就けなければ昇格の道は閉ざされる仕組み。私はそのラインに届かず、転職を決意しました。 しかし55歳での初めての転職活動は難しく、入社後にミスマッチに気付いたケースもあり、4社目でようやく落ち着きました。外資系企業で3年勤めたものの、スカウト人材が続々入社するようになり、人間関係から働き続けることが難しくなって退職。60歳を過ぎ、キャリアに終止符を打たざるを得ないかと感じたその時、当社のグループ会社・両毛丸善株式会社からスカウトメールが届きました。

エーシーエスで、どんな役割を期待されていますか？

当初は「ガソリンスタンドを運営する会社の経理部長になるのか」と思って受けた面接でしたが、グループ会社のエーシーエスで中期経営計画の策定と経営再建を担ってほしいと打診を受けました。私は両毛丸善の社員として採用され、現在も籍は両毛丸善にありますが、実際に働いているのはエーシーエス。入社初日に隣のビルのエーシーエスに案内され、そのまま経営改革に着手することになりました。 前職の外資系企業や化学メーカーでは、親会社から出向した人材による組織改革の中で、自分が居づらくなった経験があります。今回は立場が逆で、自分が“外から来た人間”として改革を進める側に立っています。そのことに少し皮肉めいたものを感じつつも、改革の裏で既存社員が感じる戸惑いや不安を、私は身をもって理解しています。だからこそ、「彼らの居場所を奪うのではなく、一緒に変わっていける道をつくる」ことを、私の責務だと考えています。

エーシーエスに経営改革が必要だと感じる理由は？

私が当社に入ってまず感じたのは、企業ガバナンスの脆弱さでした。事業毎に縦割りの組織構造が進行し、それぞれの事業部が自分達の都合で動いている「連邦国家」のような状態になっていたのです。本来、会社は全体方針に従って、各部署がそれぞれの領域で力を発揮するのが健全な形です。しかし当社にはトップダウンの統治モデルが存在せず、方針が曖昧なまま各部署が個別最適を目指す構図に陥っていました。私の役割は、この中途半端な事業部制を脱却し、全体最適を志向する組織づくりを進めることです。各部署が横断的に連携し、エーシーエス全体としてのバリューを最大化できる体制に変えていきます。 さらに、足利市および周辺地域の企業DXを担うには、組織の体質改善が不可欠です。そのためには、トップダウンではなく、部署の垣根を越えてアイデアと意見が飛び交う、健全なボトムアップ型の組織文化が必要です。もちろん、私がいくら理想を語っても、既存社員から見れば「本気かどうか分からない」という不安があるはず。だからこそ、私は中途採用の人材にブレイクスルーを担ってもらいたいと考えています。新しく入った仲間が思い切って動き、成果を出す姿を見れば、既存社員もきっと「そこまでやっていいんだ」と気付いてくれるはずです。

仕事をする上で大切にしていることは？

私が大切にしてきたのは、「正直さを貫く姿勢」です。人に信頼されるためには、正直なコミュニケーションが不可欠だと考えています。大手化学メーカーで働いていた頃、工場の売却の話が持ち上がりましたが、売却の条件について相手との交渉が膠着したことがありました。打開のため上司からの指名で、私は単身で相手企業に赴くことに。先方には以前から❝正直な人❞と思われていたため、「荒木が行けば本音で話せる」と判断されたのです。 私は、現在の会社の状況や社内各部・キーパーソンの立場や面子を、可能な範囲で飾らず率直に伝えました。すると、先方の担当者全員が一度席を外し、10分後には「妥協案」を提示してくれました。その案を持ち帰り、社内での説得にも成功し、工場の売却を円満にまとめることができました。 30年以上のキャリアの中で、正直であったことが功を奏した経験は他にもいくつかあります。もちろん、計算高く立ち回っていればもっと出世できたかもしれないと思うこともありますが、はかりごとをせず、嘘をつかないという信念は今も揺らぎません。当社においても、この信念を土台に、誠実に組織改革に取り組んでいきたいと考えています。

新しくエーシーエスに入社する人達にメッセージをどうぞ！

正直に言えば、年齢から言っても私は当社に自分の未来を託すつもりも、誰かを見返すために出世を目指す必要もありません。これまでのキャリアで得た経験を生かし、当社では最後の“御奉公”のつもりで活躍したい。そんな気持ちで日々、経営改革に向き合っています。 当社は、これまで地域社会にとって重要な役割を果たしてきました。しかし、これからの未来もそうあり続けるためには、次の世代が活躍できる会社に変わっていく必要があります。組織を支えてきた管理職の方々にとって、私は外から来た“異物”に映るかもしれません。けれど、だからこそ、これまで積み上げてきた実績や誇りを守る意味でも、中堅や若手が力を発揮できる環境づくりが大切だと思っています。 もし、あと5歳若ければ、既存社員とぶつかっていたかもしれません。でも、今の私は還暦を超えて、組織や人に対して中立的な視点を持てるようになりました。中堅以下の皆さんには、私の存在を“世代の橋渡し役”として活用してもらえたら嬉しいです。会社の未来をつくるのは、社員自身です。遠慮のいらない意見やアイデア、そして行動を歓迎しています。その思いを、私は誠意を持って管理職に伝えていきます。 当社は、これまでも立派な実績を築いてきました。そしてこれからも、地域にとってなくてはならない存在であり続けられるよう、全員で“次のエーシーエス”をつくっていきましょう！