株式会社メロンブックス

コミックや同人誌、音楽、ゲーム、キャラクターグッズを販売している株式会社メロンブックス。コミック・同人誌サイト『メロンブックス』『フロマージュブックス』のほか、実店舗を全国に36店舗（2024年10月時点）運営し、業界トップクラスの売上を誇っている。「あなたの『欲しい』がきっとある！」をコンセプトに、数多くの作家やクリエイターとそのファンを繋ぐプラットフォームとしてサブカルチャーを支えている企業だ。

1998年、北海道札幌市に1号店をオープンすると、同年には仙台、翌年には横浜、名古屋、大阪と店舗を拡大し、創業わずか4年で10店舗を達成。ハイペースで店舗を拡大できた理由は、当時既にアニメ専門店として知名度の高かったアニメイトに隣接する形で出店できたこと。「提携していないにもかかわらず、隣に店舗を出すことをアニメイトさんが許容してくれたことが大きかった」とは、取締役の山瀬大氏。そのため、現在もアニメイトと隣接している店舗が多いことが特徴だ。

そんな同社のターニングポイントは、2002年の東京・秋葉原店のオープンだ。
「私達の業界は、秋葉原にお店があるかどうかで全く印象が変わるんです。当時は会社の組織体制が変わった変革期で、地方で店舗運営が上手くいっている中で勝負を賭けることになりました」（山瀬氏）。
秋葉原に出店すると、実際に戦況は大きく変わる。作家やクリエイター、出版社の反応も変わり、仕入れ数も増大。店舗がユーザーの店舗巡りの導線に入る好立地だったこともあり、認知も早かったそうだ。

また、一般向けの同人誌を積極的に取り扱っているのも多くのファンを獲得している理由の一つ。作品を世の中に出したいという思いを実現するために、あえて選定はしていない。

「当社に作品を卸していただけることがありがたい。作家さんやクリエイターさんにとってチャンスの時に少しでもご利用いただいて、その協力ができればという思いはずっと変わらないです」と山瀬氏は語る。作家とはできるだけ直接会って話すことを大事にしており、代表取締役の松井大祐氏も自ら全国各地のイベントに足を運んでいるそうだ。同社の登録サークルは8万以上（2024年10月時点）、仕入れ数はイベント時で月間約1万タイトル。作家ファースト・お客様ファーストの姿勢が品揃えの幅広さという差別化に繋がり、カルチャー全体を盛り上げている。

同社では、「ECでモノを買う」がまだ一般的に浸透していない20年前には現在のECサイトの土台ができていたことも、事業成長を後押ししている。ユーザーのニーズから通販は必須と考え、横浜店の社員が手探りでサイトを作成してバックヤードから配送したことから始まっているそうだ。そこからリニューアルとマイナーチェンジを重ねながら現在に至るが、ECサイトのデザイン性や質を高めていくことが今後の課題。コンテンツクリエイト部の責任者も兼任している山瀬氏は、「クリエイターが描いたイラストを使いますが、配置や背景色一つでも反響や売上が本当に変わるんです。惹き付けるデザイン、分かりやすいデザイン等、質の高いデザインができる人を増やしたいと思っています」と語る。

また、販売管理や在庫管理といった基幹システムにおいては独自性が高い。これは同人誌が一般的に流通しているものではないことから、多くのカスタムが必要だからだ。独自のRPAを開発しているためその仕組みづくりができることは、エンジニアにとって大きな魅力だろう。

今後の事業展望においては、新しい挑戦に取り組み中だ。直近では、2024年4月に埼玉県熊谷市に無人型24時間営業形態の店舗を新規出店。お客様の生活導線の中でもっと気軽に立ち寄れる、便利に使える書店を目指してつくられたという。実験店舗ではあるものの、治安の良い日本ということもあってトラブルもなく、来店数も少しずつ増えているそうで店内にイートインスペースもあるとのこと。既存店とは異なり、車で気軽に立ち寄れるロードサイドに出店したことで、例えば休日しか街に出られない層や今まで同人誌にあまり触れていなかった層等、新規顧客の獲得にも期待を寄せている。順調に需要が増えていけば店舗数拡大に繋がるため、今後の展開が楽しみだ。

同社は、2023年12月に本社を東京都文京区湯島に移転している。木のぬくもりを感じられるエントランスから入るとフロア中央にソファが並ぶラウンジがあり、集中して作業できる個室も設置。イチから設計したというデザインオフィスはスタイリッシュでありつつ、温かみも感じられる空間だ。

社員数は約160名、アルバイトスタッフや業務委託を含めると約600名。サブカルが好きな社員だけではなく、近年は多様性が広がっているとのこと。女性も3～4割に増え、産休の取得実績もある。部署や職種に関係なく交流しているほか、部署を横断したプロジェクトチームも複数。社内の派閥もなく、役員と社員が気軽に食事に行く等、フランクにコミュニケーションしやすいことも、風通しの良さに繋がっているのだろう。

また、インドアなイメージを持たれがちだが、活気があり明るい雰囲気の職場だ。チームで取り組む業務が多いことから、効率性やスピード面でのメリットを踏まえて出社がベース。残業は申請制で上司の許可が出なければできない。有休も個人の裁量で取れる等、オンオフの切り替えがしやすいのも魅力だ。

「好きなことを仕事にしたい人が集まっていますが、やりたいことを何でも自由にできるというわけではありません。でも、好きなことだからこそ自由にやりたい。だから目指す会社像としては、“自由と社会性を両立できる会社”を掲げています」（管理部　土方寿成氏）。

「お客様に娯楽を販売している会社なので、この会社は面白いな、このお店は楽しいなというものをつくっていくことに喜びを感じられる方に向いていると思います。日頃から、これがあったらお客様が喜びそう、この方が絶対買ってくれる、というような話をよくしていますが、『この企画だと先生が描いてくれないのでは』といった指摘も出ます。そんな風に考えられる感覚を持っている人とぜひ一緒に働きたいですね」（山瀬氏）。

“オタク文化”は今や世の中に大きな需要のある市場と言える。常にお客様目線と作家の思いを大切にしてきた同社でなら、仕事に夢中になれる楽しさを味わいながら挑戦できることも広がるはずだ。