株式会社文創社

株式会社文創社は、1995年の創業以来約30年間、名古屋市を拠点に、医療分野のメディア制作に特化した事業を展開し続けてきた会社だ。2000年代以降は、医療分野に特化したメディアコンサルティング会社として、医療および医学領域で活動する機関・組織の情報発信を総合的にサポートしている。

医療・医学に特化しているとはいえ、同社がサポートする対象は幅が広い。クライアントは、地元の東海地方を中心とした地域の開業医や市中病院から、全国各地の大学病院や研究機関、さらに医師会・学会など多岐にわたる。そういった各団体から受託を受けてWEBサイトや広報誌、会報誌、動画といった広報・宣伝物を制作することが文創社の主な業務だ。

強みは、WEBから動画、プリントメディアまでワンストップで対応できる制作体制。従業員は約20名と少数ながら、プランナー、WEBデザイナー、コーダー、グラフィックデザイナー、エディター、マーケッターなど、メディア制作に必要なスキルを持った人材を一通り揃える。取材やライティングはもとより、イラスト制作、動画の撮影や編集・音入れなども全て内製で行っている。

単なる媒体制作に留まらず、広報活動そのものの施策策定や、ブランディング、病院のスタッフの教育までも提案。新規開業医院へのサポートでは、開業エリアのマーケティングリサーチから、院名やロゴ、看板などのCI、診察券をはじめとするツール類のデザイン、さらに内覧会のノベルティグッズ制作までトータルにプロデュースしている。

創業者の左藤氏は大学を卒業した後、東京の国際広告の会社に就職。その後、大手広告代理店の中部支社を経て、名古屋で出版社の立ち上げに参画。タウン誌の編集長、発行人を務めた後に独立し、38歳の時に“健康文化を創る”という志を掲げて文創社を創業した。

一貫して広告やメディアの領域でキャリアを積んできた左藤氏だが、そのキャリアの中で、健康または医療の領域に軸足を置いた事業に身を投じたのは、大手広告代理店時代に翻訳関係の仕事をする中で出会ったドクターたちの影響が強い。華やかな広告業界とは対照的に、ドクターたちは純粋に医療や学問を追究していたのだという。

「“一生涯を貫く仕事をした方が良い”。そう言われてはっと気づきました。人間は生まれた瞬間から死に向かって生きて行きます。私は派手な生活もしたいし、地位も名誉も欲しいと思っていた時期があります。しかし、先生たちはそんなことも考えずに、世の中の役に立とうと信念を貫いていらっしゃる。そういう方々の姿を見て、自分が選ぶ道もこちらだと思いました」（左藤氏）

原体験として、幼少期に父親を病気で亡くしていたこと、子供を授かった時に生命について深く考える機会があったことなどもあった。それまでに物を書いたり表現したりしてきたバックボーンを活かせば、医療や健康といった領域で貢献できるし、それこそ一生涯貫ける仕事になる。そう考え、懇意にしていたドクターたちの支援を受けて文創社を立ち上げたというわけだ。

創業から10数年にわたって手がけたのは、健康情報をテーマとするフリーペーパーの発行である。医療情報のみで構成される年4回発行の季刊誌だ。客観性、中立性が保てなくなることから純広告は取らず、薬局による買い取り代金と記事広告の制作費で収益を確保、日本全国の薬局で配布し、ピーク時の発行部数は35万部に達するなど、ビジネス的にも成功を収めた。

ターニングポイントはインターネットが発達した2000年代半ば。社会全体で紙からWebへのシフトチェンジが進む中、同社もインターネットを活用した新しいビジネスモデルを模索。医療機関のみならず、大学医学部のニーズも増える中、現在の医療メディアコンサルティング事業を確立していき、メインビジネスへと発展させた。

「あまり大風呂敷を広げるようなことは言えませんが、目の前にあるニーズにはしっかり応えなければいけません。コロナ禍で既存事業のニーズが拡大し新規顧客が増え、運用サポートの件数が増えたことで、社内リソースが不足しはじめています。デザイナー、コーダー、編集・ライターなどの制作スタッフを増員し、体制を整えたいと考えています」（左藤氏）

文創社は単に“クライアントワーク”としてWEB制作を受託している制作会社ではない。

『クリエイティブのノウハウを活かして医療や健康文化の発展に貢献する』という志を持ち、案件ごとに、組織の理念や強み、事業の特徴、その事業に取り組む人々の思いを反映して制作を行う。華飾虚飾とは無縁の本質的なクリエイティブを体現できる環境がここにはある。

また、広告やSEOでアクセスを集めて売り上げのみを増やすことを目的としたWEBマーケティングではなく、メディア制作に本当に必要なマーケティングスキルも身に付く。それはこれからの業界で生きていくクリエイターにとって大きな財産となるはずだ。

「私の哲学で言えば、仕事とは“志す事”です。その志がなければ、甘い誘惑に惑わされていつまで経っても地に足のついた仕事はできません。色々な会社を見てきた銀行や会計事務所からも“社長は約30年間全くぶれていない”とよく言われます。創業時に掲げた健康文化の創造という理念は、弊社が登録されたSDGsの憲章にも含まれています。健康文化を一緒に創るという志を共有できる方と出会いたい」（左藤氏）

もちろん志を貫徹することは容易なことではない。職種に応じた専門スキルはもちろんのこと、医療や健康にまつわる時事問題や法律・制度などに関する知識が必要となる。また、制作に取り組む際には、職種を問わず、ドクターをはじめとする医療従事者とコミュニケーションを取る。その時に会話ができる程度の専門知識は必須要件だ。

そのため社員の自己研鑽を後押しする施策は数々行ってきた。現在も、時事問題のテストを実施して、その結果の積み重ねを給与の査定に反映する他、専門技能に関連する資格取得やオンライン講座受講の補助などを行っている。

「常に学び続けないと、知ったかぶりで終わってしまいます。学習したことは、実際の仕事で応用しなければいけません。だから終わりというものはありません。私もマーケティングはかなり勉強しましたし、常に新たなテーマを見つけて学び続けています」（左藤氏）

現在、同社が求めているのは、3年から5年ぐらいの期間、1つの会社に留まって頑張った経験を持ち、今まさに新しい目標に向けて動きだそうとしている若い人材だ。そういった若い人材とともに、当面の目標である“医学部の全国制覇”を目指したい考えだ。

「不確実性の時代にあっても、ともに汗をかき、ともに考えることをやめない、泥臭い経営が着実に伸びていくと信じています。組織作りに関しても同様です。コツコツと信じる道を歩いていて、振り返ったらみんなが着いてきてくれている。そしてゴールにたどり着いた時に、みんなで『良かったね』と言える。そんな組織でありたいです」（左藤氏）