株式会社シンシアー

かつて、腕時計のベルトといえば、購入したときについていたものを使い続けるのが普通であり、その色も黒か茶など、あまり主張しない地味なものがほとんどだった。しかし、ヨーロッパでは時計ベルトもファッションの一部であり、持ち主の思い入れやこだわりに応じて着替えるのが一般的。そのため、ビビットな色など豊富なカラーバリエーションがそろい、気分やシーンに合わせて最適な時計ベルトを選びながら楽しむ文化が根づいている。
そのことを知った先代社長が、「日本にも時計バンドを着替える楽しさを広めたい」と、『モレラート』時計ベルトの輸入を開始。その後、事業を引き継いだ現代表の山西氏が2002年に株式会社シンシアーを設立。また同時期に『モレラート』日本総代理店となり、一気に知名度と影響力を広げた。

「大切な人からの贈り物など、たくさんの思い出が詰まった時計は長く使いたいものです。そんなとき時計ベルトを着替えれば、見慣れた時計が違った表情を見せてくれ、新鮮な気持ちで使い続けることができます。また、時計そのものの魅力や楽しさを一層引き出してもくれます。時計ベルトを着替える楽しさを知るということは、時計そのものを大切にし、末永く愛用することにもつながるのだと考えています」（代表取締役社長・山西興一氏）

モレラートとは、1930年に誕生した歴史のある時計ベルトメーカーであり、優れた革の加工技術や抜群の色使い、高いデザイン性によってイタリアでシェア約50％を、ヨーロッパでもトップシェアを誇るブランドである。シンシアーは、その商品ラインナップの中から日本人の感性や好みに適したもの、同社の思いに合致したものを厳選して、グレードの高いものを中心に取り扱っている。理由は、「良い品だからこそ、伝わるもの、心に響くものがある」からだという。同社が、百貨店や大手時計チェーンなど、販売員が丁寧に接客しながら販売できるチャネルを選んで卸しているのも、その良さをしっかり伝えていきたいというこだわりが根底にあるためだ。

同社のこういったこだわりは着実に成果を上げており、モレラートの他、自社ブランド『カシス』、AppleWatch専用ベルトブランド『クロカラント』など、取扱品を増やしながら事業を拡大。現在では、売上約６億５千万円、業界でも急成長している。

シンシアーが着実に成長を続けている背景には、確かなブランド戦略がある。その一つが、ヨーロッパでもトップシェアを誇るブランドのモレラート。優れた革の加工技術や抜群の色使い、高いデザイン性によってヨーロッパでもトップシェアを誇るブランドで、その商品ラインナップの中から日本人の感性や好みに適したもの、同社の思いに合致したものを厳選して、グレードの高いものを中心に取り扱っている。
また、有名ブランドに遜色のない商品力を備え、かつカバーしきれない顧客ニーズに応える受け皿として誕生した自社ブランド『カシス』やAppleWatch専用ベルトブランド『クロカラント』も、立ち上げから順調に売上が伸び、通販市場の活況も後押しとなって業績も安定しています。

また、販売チャネル強化のために立ち上げたECサイトにおいても、Webデザイナーを中心にブランドイメージを維持しながら、対面販売に近い訴求力を再現するため試行錯誤を繰り返してきた。その甲斐あって、時計ベルトの通販領域において、圧倒的シェアを獲得しているという。
しかし、「ECサイトには、まだまだ白地があり、そこを埋めることが課題になっている」と山西氏は続ける。
「私たちは時計ベルトのプロではあっても、ECサイトについては知識も経験も不足しています。アートディレクターが、ブランドイメージや時計ベルトを着替える楽しさを伝えるのに適したデザインコンセプトを構築しても、それをECサイト上に落とし込む技術を持っていないのです。また、SEO対策やコンバージョン率の向上など、Webマーケティングについても力不足は否めません。現状、自社サイトのコンバージョン率は1.5％ほどですが、これを３％以上に高めて、大手ECサイトなどと肩を並べられるくらいのポジションに育てていきたいと考えています。そのキープレイヤーとして活躍してもらえる人材を求めています」

圧倒的な商品力を十二分に販売へと結び付けられていないというもどかしさを解消し、自分好みの時計ベルトを求めているお客様の元へ最適な商品を確実に届ける“流通の最適化”を実現する。それによって、売上高10億円を達成するというのが、同社の直近の目標となっている。

シンシアーは、顧客だけでなく社員の満足実現にもこだわりを持っているため、働く環境の整備に積極的だ。その現れの一つが、年間休日120日以上、残業月平均10時間以内を達成していることだろう。
「人は働き続けることなどできません。一定以上の仕事のクオリティを求めるならば、１日８時間が限界だと思うのです。それに、残業ありきで仕事の段取りを組むと、ダラダラとした時間が長くなり、質だけでなく効率まで悪くなります。仕事は、人生の中でもっとも多くの時間を費やすものなので、その中身は濃いにこしたことはありません。人生の時間を無駄にしないためにも、１日８時間に仕事をおさめることは大切だと考えます」（山西氏）

また、社員の積極性を重視し、ある程度の裁量を与えて仕事に取り組んでもらう風土がある。これも「良い仕事をするには、担当者の責任感が重要だ」という山西氏の考えに根ざしている。仕事を任されることで生まれる責任感と当事者意識が、深い思考へと結びつき、良い結果へと導くというのだ。
「担当業務のことをもっとも理解しているのは、現場の人間です。そのため、現場から声が上がってこないと進歩は難しい。しかし、当事者意識や責任感に欠けていては、目の前の仕事をより良くするために何が必要か、考えを深めていくことなどできないでしょう。だから、当社では仕事を任せるし、現場から出てくる意見を大切にしています」

その一方で、社員同士の交流にも気を配っている。売上達成会や社内での軽食パーティなどを開催し、定期的にコミュニケーションをとる機会を設けている。また、従業員の８割が女性ということもあり、結婚や出産などライフイベントを経験しても働き続けられるよう、「出来る範囲で会社側が譲歩し、女性社員も持てる力を最大限に発揮できるように努めたい」と語る。

高い商品力と堅実なブランド戦略によって時計ベルト業界で成長を続ける同社が、伸びしろの多いECサイト領域の改善に取り組み、次なるステージへの一歩を踏み出そうとしている。そこに加わる醍醐味は、想像以上に大きなものに違いない。