株式会社サンアドシステム

株式会社サンアドシステムは、大阪市中央区を拠点に、お名前シールなどのネーム付けグッズのEC事業を展開する会社である。同社が運営するECショップは『シールDEネーム』。現在、独自ドメインで運用する本店と楽天市場店の2店舗を展開中だ。
販売する商品は、全て同社の社員が企画開発するオリジナル製品だ。商品のラインナップは幼稚園の入園準備や小学校の入学準備に使われる名前付けグッズが中心で、シール、ワッペン、スタンプ、キーホルダー、タオル、迷子札など、幅広い品揃えが特徴だ。ナンバープレートキーホルダーやマイボールスタンプなど、大人のホビーグッズも一部扱う。
顧客はサイト上で、製品とデザインを選んで、入れたい名前を入力して注文。サンアドシステム社は、そのオーダー内容に沿って、１件ずつ製造して顧客のもとへと発送する。スタンプやワッペンなど大型機械の設置が必要なアイテム以外は、製造もすべて社内で行っている。

同社がネーム付けグッズをインターネットで販売し始めたのは2001年頃。インターネット通販がまだ一般に浸透していない時期にスタートしていることになるので、同分野のEC事業者としてはパイオニア的な位置づけであることは間違いない。だが、近年はスマートフォンの普及によって競合店が激増。これまではなかなかパソコンを利用にくかった子育て中の女性の間でも、インターネットでの買い物が一般的になり、ニーズが増えたことが大きな理由である。

そんな中で同社が最大の武器としているのが、デザイン力だ。サイトの閲覧性や使いやすさ、商品デザインのクォリティや豊富さが、メインターゲットである主婦層からの高い支持を得ている。購入するタイミングが限られるため多くのリピート購入が見込める製品分野ではないが、常に3割以上のリピート率を維持している。楽天市場のレヴューでは、第一子の時に利用して気に入ったので、第二子の時にも利用した、という投稿も見られる。

同社は、もともと広告のクリエイティブ事業からスタートした会社で、現在も企業や自治体から、ポスター、チラシ、看板、WEBサイトなどの制作を受託している。そのため同社の全従業員の半数以上がデザイナーだ。特にEC事業のメンバーは、紙媒体のデザイン制作でスキルを積んだ女性デザイナー中心で構成され、プロダクトおよびサイトのデザインを一貫して行う。メインユーザー層である女性の目線に立ち、どんなデザインが好まれるか、いかにストレスなく購入できるかを考えながら運営していることがユーザーからの評価につながっている。また、印刷などの加工業者などとのネットワークがあり、製品に使う素材の調達ルートが確保できることも、デザイナーの力を活かしたり、品揃えの幅を広げたりする要因の1つだ。

サンアドシステム社が設立されたのは1991年2月。不動産業界に強みを持つ広告クリエイティブの会社としてスタートしている。その同社が、ネーム付けグッズの開発・販売に着手したのは1990年代末のことだ。基本的に代理店経由の仕事は受けず、広告主との直取引を中心に営業する中、安定した収益を確保することを目的として参入した。チラシを撒いて注文を取るところから始まり、ECサイトをオープンしたのは2001年だ。市場的にはまだまだECが認知されていない時期だったので当然ながら経験者は不在。もともと在籍していたデザイナーをはじめとする社員全員でクリエイティブ事業と並行しながら、商品開発からサイトの制作・運営まで兼任して、試行錯誤を繰り返ながらゆっくりと事業のベースを作ってきた。

現在（2016年9月）では売り上げの核を担う存在となったEC事業だが、クリエイティブ事業と売り上げが逆転したのは2009年のことである。きっかけを作ったのは、制作部長 兼EC事業部店長・前川氏だ。2005年に中途採用で入社。前職では不動産広告のデザイン業務に従事していたが、もともとは雑貨や文具などのプロダクトデザイナーを志していた。サンアドシステム社に入社したのも、自社で製品開発をして販売する『シールDEネーム』の事業があったからだ。当時はまだ同社の主事業はクリエイティブ事業であり、前川氏も広告の制作業務を担うデザイナーとして採用された。しかし自分なりにEC事業に対する想いとアイデアを持っていたため、隙間時間を使ってリサーチやアイデアをまとめて提案する作業を積み重ねた。

「入社当時は社内にECの専任担当者はいなかったので、もっとデザインを増やしたら良いのではないか、サイトをこう改善したら良いのではなど、まずは自分が思ったことを自ら社内に発信しました。その中から承認を得たアイデアを実行していくと、売上アップに繋がるなどの実績がついてきて、任される範囲も広がっていきました」（前川氏）

前川氏の積極的な取り組みをきっかけに飛躍的に業績を伸ばし始め、さらに全社員の創意工夫の積み重ねもあり、EC事業はついには同社の中軸事業にまで成長した。その一方では競合他社も増え競争が激化したことから、同社は2013年、運営体制を見直して、前川氏が専任者としてEC事業に集中することとなった。同じ頃、楽天市場店がオープンしたこともあり、さらに業績が上がり続け、現在へと至っている。

今後の戦略として掲げているのはギフト需要への注力だ。季節向けのオリジナルギフト商品などの販売で好評を博している。今後も、社員全員でアイデアを出し合ってさらにラインナップを増やしていく。そして数年後にはEC事業を現在の1.5倍から2倍ぐらいの規模へと成長させたい考えだ。

サンアドシステム社は、広告制作やEC事業を行う会社としては圧倒的な働きやすさを実現している会社だ。何といっても残業がない。それは創業者である代表取締役・山根昭二氏が、クリエイティブ事業のみだった頃から貫いてきた方針だ。代理店の案件を積極的にとってこなかったのは、時間に追われることが最大の理由である。EC事業が伸び始めてからは、繁忙期である1月から4月にかけては残業が発生していた。特に2月、3月は、全社員、連日終電で帰ることもあった。だが、それも年々減少し続けてきた。それを実現したのは、社員が自ら考案したシステムだ。発送伝票の発行や、それまで手動で膨大な時間をかけて行っていた印刷データ作成の工程などを自動化したことで、労働時間を圧倒的に削減することに成功した。しかもこの成果は、売り上げを伸ばし続けた上でのものである。

「このシステムを作ったのは、入社4年目のデザイナーです。自ら提案して改善してくれました。その結果、まず1月と4月の残業がなくなり、次に2月の残業がほぼなくなりました。今年（2016年）は3月も少なくなり、実際に残業食を皆で食べたのは2日だけです」（山根氏）

広告デザインやECといった業種の会社で残業がほとんどないということも珍しいが、残業する日は残業食までつくという手厚い待遇が実現していることはなおさら珍しい。さらに驚くのは、有給休暇の取りやすさだ。繁忙期と受注処理が溜まって忙しいことが分かっている休み明け以外の申請は基本的には受理されるという。それは裏を返せば利益がしっかり確保されているということでもある。

「いつも社員に話しているのは、利益が出たら皆で分配しましょうということです。もちろん残業をすれば残業代は支給します。しかし、残業がなくなればその分経費が減って利益は増える。会社としての最低限の利益は確保した上で、残りは特別ボーナスや社員旅行などで社員に還元しています」（山根氏）

それが実感できるからこそ、社員一人一人が自発的に利益を出す方法や効率化の方法を考えて提案する文化、就業時間内にしっかりと集中して成果を出す文化が育まれてきた。経営者や上司からの指示ではなく、現場で働く社員の声で物事が決まり、そこでしっかりと利益を出して還元されるという環境が同社で働く最大の魅力だろう。

現在の課題は、第一線を支えてきた女性スタッフが結婚・出産の適齢期を迎えているため、いつでも安心して産休に入り、復帰できる環境を作ること。そして、誰かが長期間休んでいても滞りなく利益を出し続ける仕組みを作っていくことである。そのためにも、前川氏らと同じ目線で事業を強力に推進する力を持った人材の採用に注力しているところだ。

「何よりも大事なことは“好き”という気持ちだと考えています。『シールDEネーム』のホームページを見て仲間になりたい、アイデアを出して一緒に盛り上げていきたいと思える方をぜひお待ちしております」（前川氏）

続いて山根氏からのメッセージ。

「EC事業を維持成長させるには、しっかりしたノウハウが必要です。デザイン力、センスも必要だし、コーディングもしなければいけない。弊社は自社商品を販売しているので商品開発の力も求められます。弊社が求める条件を満たす方はなかなか見つからないかも知れませんが、能力に見合う報酬は保証します」（山根氏）

経営者自らがそう言い切るだけの条件がサンアドシステム社には揃う。EC事業が本格化してからの離職率は極めて低い。条件面や人間関係を理由に退職した例は1件もない。仕事もプライベートもともに充実させることができる。性別に関係なく、長く働き続けることができる。サンアドシステム社は、クリエイティブ業界の常識を覆す働き方を実現している会社だ。