東静工業株式会社は、1968年創業のコイル専業メーカーだ。コイルというと理科の時間に電線を巻いて磁石を作った記憶があるかもしれないが、電源を必要とするあらゆる製品に使われている電子部品である。同社の製品も、自動車車載製品とカーオーディオを中心に幅広い分野の製品に採用され、特にアモルファス材を使用したコイルではトップシェアクラス。
現在、同社が特に力を入れているのが、車に関連した分野である。カーナビやカーオーディオといった音響製品に採用されているのはもちろん、パワーステアリング、HIDヘッドライト、ABSなど車載製品用のコイルで、国内主要自動車メーカーおよび音響主要メーカーと直接取引している実績は信頼関係の証。
特に最近は、ハイブリッドカーに代表されるエコカーの需要増大によって、これまで以上に車に電子部品が必要となっているため、ますますコイルの需要が高まっている。このタイミングを逃さず、同社も全社を挙げて車載分野への売り込みに力を入れているところだ。
同社の強みは、顧客との信頼関係と密なコミュニケーションが可能にするニーズを汲み取った提案力と、レスポンスの早さ、そして技術力だ。これらを可能にしているのが、本社内で営業と技術、品質管理のスタッフが一体となって情報を共有する風通しの良さと、関連工場(中国)の存在である。
同社は、日本国内に本社と群馬に工場を持っているが、社員数は四十数名の規模である。しかし東静工業グループとしては、1991年に上海に進出して以降、生産拠点を中国へ移し競争力を高めている。1994年には、上海に合弁会社を設立。その後、上海と深圳に独立資本の工場を建設し、2006年には景徳鎮に工場を建設している。すべての工場を合わせると、1,000人近い人員を擁するまでになった。
生産のフローは、本社内において営業がキャッチした情報を元に、技術部が設計と試作品の製造を行う。品質管理部の評価を経て、顧客との間でフィードバックを繰り返し、仕様が決定したところで、中国工場での生産がスタートする。群馬工場は一部の製品の製造と、中国工場で製造した製品の出荷検査を担うという体制だ。
少数精鋭の本社スタッフを中心に、カーオーディオやカーナビの分野では、日本国内の主要メーカーと取引するに至っている。
代表取締役社長の福島氏は、同社の成功の要因を次のように分析している。
「競合する企業はたくさんあります。中には誰もが知っているような大きな企業もある。そんな中で我々にできることは、お客様のニーズを正確に汲み取って、いかに求めているものを提案するかにつきます」
これからも、この姿勢は変わらない。