ピクオス株式会社

「真の豊かさを追求する」。ピクオス株式会社の経営理念を聞いたとき、やや抽象的に感じる人もいるかもしれない。しかし同社の事業を深掘りしていくと、この言葉が単なるスローガンではなく、ソフトウェア開発や地域事業に根付いた指針であることがわかる。

同社が掲げる2つの柱は、「時間を創造する事業」と「健康向上事業」だ。ソフトウェア開発では、業務効率化を支援することで人々に新たな時間を創り出す。そしてもう一方では、地元鹿児島で経営するイタリアンレストランを通じて、食文化を発信しながら「食を通じた健康づくり」にも力を注いでいる。まさに、生活を豊かにする異なるアプローチを事業として体現しているのだ。

代表的なプロダクトのひとつが、歯科業界向けクラウド型レセコンシステム「Julea（ジュレア）」である。歯科医院で必須となる診療報酬請求（レセプト）業務を支援するシステムで、全国のクリニックで導入が広がっている。リーズナブルな価格設定、クラウドならではの利便性、そして法改正や診療報酬改定への迅速な対応が高く評価されている。取材の中で担当者はこう語った。

「歯科クリニックの多くは中小規模です。だからこそ、コスト面でも運用面でも負担にならない仕組みが必要でした。クラウド型にすることで、インターネット環境さえあればどこからでも利用できますし、アップデートも当社側で完結します。お客様は常に最新のバージョンを利用でき、法改正のタイミングでも安心して業務を継続いただけます」（濱田氏）。

さらにJuleaには、予約システム「デンタマッププラス」が標準搭載されている。新患獲得やキャンセル防止といったクリニック経営に直結する機能も兼ね備えており、レントゲン機器や自動精算機との連携も可能だ。単なるレセコンではなく、歯科業界に特化したクラウド基盤として進化を続けている。

同社の事業は歯科領域にとどまらない。リハビリ業界向けに展開しているクラウドサービス「リハメイト」、「リハメイト Cloud Type」は、リハビリ施設や病院での業務効率化を支援する。こちらも「時間を創造する事業」を体現するプロダクトであり、現場スタッフの負担を減らし、より多くの患者に質の高いサービスを届けることを可能にしている。

「私たちが開発しているのは、単なる業務システムではありません。現場で働く人々が、本来の仕事に集中できるようにするための仕組みです。医療・リハビリ業界にとって、これは社会的にも大きな意味があると考えています」（濱田氏）。

社会的意義と事業成長、その両方を兼ね備えている点がピクオスの特徴だ。同社が展開するシステムは、今後さらに全国規模での導入が進むことが予想され、開発体制の強化が急務となっている。Greenでエンジニアや営業職の仲間を募集している背景には、こうした事業拡大の現状がある。

また同社のもう一つの強みは「働きやすさ」だ。フレックスタイム制やリモートワークの導入実績があり、ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が可能。さらにユニークなのは、会社が経営するイタリアンレストランから、従業員向けに地元鹿児島の食材を使った特別メニューが提供されるという福利厚生だ。地域に根ざした企業らしい取り組みといえるだろう。

取材を終えて感じたのは、ピクオスが「真の豊かさ」という理念を本気で追求しているということだ。自社開発にこだわり、医療や法務といった社会的に重要な分野を支え、社員が安心して成長できる環境を整える。エンジニアや営業にとって、社会貢献と自己成長の両方を実感できる稀有な環境がここにはある。

1984年に創業した同社。設立当初は受託開発を中心に事業を展開していたが、1992年頃にはストック型のビジネスモデルへと転換し、自社パッケージ製品の開発に注力するようになった。司法書士業務支援システム『司法くん』や、リハビリ管理支援システム『リハメイト』など、特定業界に特化した製品を次々にリリースし、市場に浸透させてきた。

「当時の経営判断として、社員の生活の安定と将来性のある収益モデルを両立するため、受託開発から自社製品の開発に大きく舵を切ったと聞いています。収益性が読みにくい受託型の事業から、利益を積み上げやすい自社開発へと転換したのです。その決断により、当時は複数の社員が退職する事態にも直面しましたが、現在の当社の基盤を築く大きな一歩だったと感じています」（濱田氏）。

歯科レセコンシステム『Julea』と並び、同社が提供するもう一つのクラウド型SaaSが、動物診療支援システム『ペトレルプラス』だ。2022年にリリースした商品で、予約管理から会計決済、電子カルテの記録まで、動物病院の診療プロセスを一気通貫で支えるクラウドサービス。紙での業務管理から解放し、日常業務の効率化を実現する。

「当社は事業ポートフォリオを意識した経営を重視しています。特定業界に特化した業務支援サービスを提供しつつも、一つの業界に依存しすぎないよう、他業種への展開にも注力しています。特定市場の構造変化によるリスクを分散し、長期的に安定した経営基盤を築くことを目指しています」（濱田氏）。

こうして、既存分野の深耕とともに、他業界への展開にも取り組み、継続的に新製品や新機能を投入することで、さらなる成長と基盤強化を図っている。

「これまで培ってきた技術資産を活かしながら、新たな事業にも積極的にチャレンジしていきたいと考えています。自社エンジニアによる開発体制を維持しつつ、次世代に向けた事業づくりを進めるために、組織体制の見直しやエンジニアチームの強化にも引き続き取り組んでいきます」（濱田氏）。

同社の本社は鹿児島市にあり、東日本支社として東京・品川にもオフィスを構える。同社は、開発機能を鹿児島に、営業機能を東京に配置する形で事業を展開してきたが、現在は東京オフィスでもエンジニア採用を本格化し、開発体制の強化に乗り出している。

「鹿児島から全国、そして世界へ。そんな思いで40年間、事業を展開してきました。これからのさらなる成長や新たな挑戦を見据えたとき、より多様な人材との協働が必要だと考え、東京でも開発体制を整えてきました。幸い、オンライン環境が大きく進化したことで、遠隔地でも円滑なコミュニケーションを取りながら、強固なチームづくりが可能になっています。品川駅直結のビルへの移転により、エンジニア増員に向けた広いオフィス環境も確保しました」（濱田氏）。

企業理念に「真の豊かさを追求する」を掲げる同社では、社員が安心して長く働ける環境づくりにも注力している。完全週休2日制（土日祝休み）、夏季・年末年始休暇を含めた年間休日は125日以上。自社開発が中心のため残業も少なく、柔軟な働き方を可能にするフレックスタイム制を導入。服装も自由で、育児・介護に配慮した短時間勤務や時間単位の有給取得にも対応している。

「社員の生活の充実が最も重要だと考え、私達は『働きやすさ』を追求し、2010年代に時短や在宅勤務、フレックスタイム制を導入しました。業務の多くを自動化して効率化を進めることで、柔軟な労働体制を整え、さらに海外の人材を積極的に採用することで、多様性の中でアイデアや感覚を養う環境づくりにも力をいれています」（濱田氏）。

約50名が在籍する鹿児島本社も、約20名が働く東京オフィスも、穏やかで温厚な人が多く、一般的な“SaaS企業”でイメージされるカルチャーとは違って、堅実で大人しく華美なところがない。落ち着いた社風の下、自社開発に専念できる環境がある。

また、同社はソフトウェア開発企業でありながら、ユニークな取り組みもしている。SDGs推進室を立ち上げた初の取り組みとして、「食」を通じた地域・社会貢献を目的に、イタリアンレストランを運営している。鹿児島市の名店「ピッコロモンド」のシェフ・隈元修二氏を迎え、『オスピタリタ』を開店。地産地消やバリアフリー対応、非接触注文やキャッシュレスといった要素を取り入れた、新しい食の場づくりを進めている。

「鹿児島の美味しい有機野菜や肉、魚介類をふんだんに使って料理を提供するイタリアンレストランです。時代に即した非接触での注文方法・完全キャッシュレス化等、新しい方法を取り入れ、バリアフリー、キッズスペース完備で、誰も置き去りにしない、地域に根差した愛されるレストランを目指しています。社内で食のSDGs理解を促進するため、ランチ営業は一部スペースを社員食堂にして、従業員価格で利用できます。東京オフィスには、月に数回、『オスピタリタ』で作ったお弁当を提供しています。鹿児島の美味しい食材は、東京オフィスのメンバーにも大好評です」（濱田氏）。