代表取締役・土井 大信氏

起業を志したのはいつ頃ですか。

私が起業を意識したのは、Windows95が発売された頃です。大学の受験勉強をしていた時期ですが、インターネットに触れホームページ制作を始めました。ITベンチャーブームに乗って起業家が話題となることが増えていた時期で、すごく輝いて見えました。「合資会社、合同会社で会社を作るには？」といった本やWEBの記事も沢山読みましたし、当時創刊された『WIRED』にも感化されました。そういった影響を受けて漠然と会社を作りたいと思い始めました。 ただ、何をしたいのか、何のために起業するのかということは何も考えていませんでした。実際に会社を作ることになったきっかけは、父親の病死です。大学教員を務めていた父は、自分の手伝いをさせるつもりで、どこかの出版社に丁稚奉公に行かせる手はずを整えていたようですが、病気で亡くなってしまって、その話自体がなくなりました。そこで、学生在学中に立ち上げたのが当社を設立する前の会社です。 当初は電子出版サービスの構想を練っていましたが、実際に立ち上げたのは縦書きブログのASPサービスです。大学の知人を4名ぐらい集めてスタートしたのですが、サービス自体は上手くいきませんでした。ただ、大学ベンチャーですので、所属していた大学の広報部と繋がって、それをきっかけにWEB制作に事業転換することができました。私はプログラミングもサーバーサイドもできますし、他にもプログラマーがいました。また、社内にはデザイナーもいましたので、その技術を生かしてアクセシビリティに配慮したWEB制作ができる。そう考えてスタートしたところ、大学を中心に仕事が増えて、少しずつ規模も拡大していきました。 以前の会社には、現在当社で取締役を務めている者も在籍していました。彼は学生時代、ラーニングアシスタント（LA）というアルバイト組織で一緒に活動していた仲間で、卒業後はタイに渡り、ダイビングインストラクターとして働いていました。しかし、タイで大津波が起きたことをきっかけに帰国し、私の仕事を手伝いながら、市内の大学院に通ってMBAを取得しました。その繋がりで大学関係の仕事が増えていきました。現在は、公共・文教・医療機関向けの広報支援事業で事業責任者を務めています。

上部社は、その会社が母体となって設立されたのですね。

私の会社と、当社の取締役を務めている松井が経営していた会社が合併して生まれたのが当社です。 松井も学生時代に学内のビジネスモデルコンテストで優勝した経験を持つ学生起業家でした。大学卒業後は仲間と一緒に会社を立ち上げ、日本初の音楽CD交換サイトを立ち上げて話題となりました。ただ、外部からの働きかけがあって、サービスを継続できなくなり、受託開発等をやっていました。その時に仕事を融通し合うような関係になっていきましたので、せっかくだから一緒にやろうということになり、新しく当社を設立しました。 設立に当たっては、松井の他に、私の会社で一緒に働きながらMBAを取得したメンバーと、もう一人、LAの仲間で、卒業後は大手SIerでプログラミングからサーバーサイド、ネットワーク構築までフルスタックエンジニアとして経験を積んでいたメンバーを取締役に迎えました。そのエンジニアは、Windowsを中心に、Linux、VB、マクロ、サーバーまで幅広い技術を武器に、ITサポート事業の責任者を務めています。 当社設立時に考えたことは、取締役四人で均等に権限を分け合うことです。 理由は、まず、息の長いロックバンドは、権限も報酬も均等割りだという話を聞いたことです。フロントマンを務めるメンバーがギャラの半分以上を取って、残りをメンバーで分け合うようなところもありますが、そういうバンドは長続きしません。会社を作る上でも、その均等割りの考え方は大事だと思いました。 また、私の父は大学の教員をしていたのですが、なかなか人に任せられない質の人でした。全部自分でやらないと気が済まないのですね。そばで見ていて、それでは大変そうですし、いろいろと不具合も起きそうだなと思っていました。会社の経営は、良い時が毎年続くとは限りません。良い時も悪い時も対等に力を合わせられれば良い方向にいくのではないかと考えました。 さらに、権限を等分にしておくことは社員にとっても都合が良いのです。例えば当社では、四人の取締役のうち、誰かと話がついていれば大丈夫というルールを採用しています。社長の好き嫌いで全てが決まることはありません。採用に関しても取締役の合議制で決めています。ワンマン経営者の話はよく聞きますが、私も好き嫌いが激しい方ですので、取締役全員が同等の権限を持った合議制を採用することで、バランスが取れるようにしているのです。

今後、事業拡大に当たって、エンジニアの採用を強化したいとのこと。どのような技術者を求めておられますか。

当社の場合、WEBサイト制作では、WordPressや商用CMSを使い分けています。その際、全ての案件で裏側のちょっとした開発が入ります。高度なCMSになると、プラグインを作るまではいきませんが、ある程度は理解した上で操作する必要があります。ただ、そんなにゴリゴリ開発できる人を希望しているわけではありません。応募要件もPHPを必須にしているぐらいです。ベースとなる経験やスキルがある人なら、入っていただければ、私をはじめ、教えられるプログラマーはいますので、安心してご入社いただきたいと思います。 一方では、プログラミングや開発に興味を持って取り組める方と一緒に仕事をしたい気持ちはあります。私自身、技術者としては「好き」だという思いが根底にあります。職業技術者でも良いですが、それならばそれなりのスキルが求められます。好きな気持ちさえあれば、多少は目をつぶれる部分もあるかなと思います。まずは好きだという気持ちが大切です。 私はこれまで“きっちり仕事を納める会社”にしたいという思いで仕事をしてきました。これからもお客様にとって、安心感のある制作をしたいと考えています。そのためには、社員もそれぞれ一定以上の知識を持って、お客様に何か聞かれた時に答えに窮することがないようになってほしいです。各自がきちんと勉強をして、必要な知識はしっかり身に付けている。そのようにして安心していただける制作会社になれなければ、存続し続けることは不可能だと考えています。

エンジニアに向け、お伝えしたい魅力をお話しください。

働きやすい環境です。例えば、求める環境は全て会社が用意します。パソコンはもちろん、キーボードやマウス、ディスプレイ等、「これが良い」といった要望には全て応えます。リモートワークに関しても、数カ月間は出社していただく必要がありますが、スキルや状況によって柔軟に対応していくつもりです。必ずオフィスに出社しなければいけないという制限を設けるつもりはありません。 また、「この技術は挑戦すべき」とか、難しすぎる案件は極力やらないようにしています。特に「これはやりがいがある仕事だ」という表現は使わないようにしています。「やりがい」と言われても、社員にとっては関係ないことだと思うのです。私も当社を立ち上げる前は、最前線に立って、最先端技術を積極的に使った開発をしていました。ただ、それは上手くいくケースもあれば、いかないケースもあります。上手くいかない時は、ビジネス自体も上手くいきませんし、社員も疲弊するばかりで、良いことはありませんでした。 それよりも大事なことは、安定して業務を遂行できる環境を作り、お客様にはきちんと納期を守り、適切なものを納めてお金を頂くことです。そこにエンジニアのチャレンジを持ち込むことは、誰の幸せにも繋がりません。 そういう意味で当社は、社員に自分の実力以上のチャレンジをさせることはありません。難しい案件に取り組む必要がある時は、基本的には、そのスキルを持った外部パートナーと協業するスタンスを取っています。自分達だけでやり切る必要はありません。

社内の雰囲気をお話しください。

基本はおとなしい社風だと思います。人を攻撃するような人はいません。 私が子供時代から、親に褒められてきたことで一番強く記憶に残っているのは、私は「大ちゃん」と呼ばれているのですけれど、「大ちゃんが連れてくる子はみんな感じの良い子が多いね」と言われたことです。私自身もそれは意識していました。昔から友達作りには、一定の基準を設けて選んでいました。 それは会社を作ってからも変わりません。技術も大事ですが、それよりも人柄を見て採用してきました。在籍するメンバーの雰囲気から極端に外れない、価値観も共有できる人物を採用してきました。 ただキャラクターはバラバラだと思います。意識して異なるタイプを揃えてきたつもりです。別に濃密な人間関係を作る必要はありませんし、何か主張したいことがあれば、それを隠す必要もありません。全員と協調できる必要もありません。誰か合う人がいればそれで良いと思っています。今後はリアルな飲み会等も増やしていくつもりですが、行きたくないという人もいるでしょう。同じような人ばかりでは、進歩はありません。それぞれの個性は認め合っていきたいと考えています。