ATC株式会社

業務を遂行する上で、私達は様々なデータを取り扱う。それらを管理するために、データを紙からデジタルに置き換える、業務ごとに所定のフォーマットに統一する、加工する、チェックする。そのような業務が発生することが往々にしてある。それらの一つひとつは、小さな作業かもしれない。しかし、“塵も積もれば山となる”。企業全体、業界全体、ひいては日本の産業全体まで視野を広げると、そこに膨大な人力と時間、コストがかかっている。そこに、Master Data Management（MDM：統合マスタ管理）技術で切り込んできたのが、ATC株式会社である。AIやIoTを駆使し、APIによるマスターデータ管理のサービスを網羅的に提供している。

メインとなる事業は三つある。『Omni-channel Commerce ソリューション』は、MDMやビッグデータに対応したデータマネジメント技術を基盤に、統合的に販売機会を創出する。同社は、親会社の株式会社アルファパーチェスから、コンサルティング・エンジニア事業が分社化して設立された経緯がある。それを引き継いだのが、この事業である。約3,000社のエンドユーザーに対し、フルセットで総合マスタ管理のサービスを提供。あらゆる業界にサービスを提供しており、例えば製造業では数千万品目にも及ぶ膨大な製品情報の管理、流通業ではメーカーやサプライヤーから入手した情報の加工や管理等に役立てられている。

『Omni-channel Commerce 支援クラウドサービス』も、アルファパーチェスから引き継いだ事業で、決済サービスや物流サービス、カスタマーサポートも含めてオールインワンでシステム運用を支援するサービスとなっている。

この2事業を通じて、同社には親会社で事業がスタートした2000年以降、間接材の購買管理に関するノウハウが継続して蓄積されている。それを基にサービス展開している事業が、『間接費削減コンサルテーション』である。購買プロセスを見直したいというクライアントに対し、どんな文脈でコストダウンのメリットを提供できるか、分析やアドバイスを提供している。

同社の事業の特徴は、統合マスタ管理というクライアントのビジネスの根幹に関わるサービスのため、継続的な利用が期待される点にある。統合マスタ管理のコアテクノロジーはIBM社の提供によるもので、国内で正規のエンジニア集団を有するのは、2023年現在、ATCのみとなっている。そのIBM社提供のテクノロジーを基に、ビジネスニーズにマッチしたAPIを、同社では20年以上にもわたってつくり続けている。同社が主に関わってきた間接商材は、元々は使い古されたアナログ管理が主流だった。代表取締役社長の田辺孝夫氏は「そのドロドロした状況を、デジタル空間に移行してきた20年でした」と語る。

そして今、デジタル化したマスターデータをさらに活用すべく、同社が目指しているのはメタバース革命である。「せっかくデジタル空間に情報を持っていったのだから、そのデジタル化した情報とこれまでのビジネス知見を基に、創意工夫することで新たなサービスを提供したいです」と田辺氏は意気込む。既に、取引先を推奨するサービスをリリースし、特許も取得している。今後生み出す新たなサービスでも、順次、特許を取得していきたい考えだ。「私達が対象としているのは、誤解を恐れずに言えば“人目に付かない業務”。しかし、そこにかかる膨大な労力を、多くの企業が人力で賄っている状況です。それらの効率化に真面目に取り組んでいきます。今後も統合マスタ管理のAPIが必要とされるのは、目に見えています」と田辺氏。

同社のサービスがスタンダードとして浸透すれば、従業員は“人目に付かない業務”から完全に解放される。その完成形態の一つがメタバースだというのが、田辺氏の考えである。「データとダイレクトに直結しているメタバースは、人の手によるデータ化やデータ管理が一切必要ない世界。“不要な仕事をなくしたい”という当社の目指すところに近く、その発展に大いに期待しています」と田辺氏は語る。

今後は、APIの開発を加速させるため、エンジニア人材を増強していく方針。メタバースによる革命を、現実のものにすべく、共にチャレンジする仲間を求めている。

同社は、ITテクノロジーを強みとしているが、社風としては、人に優しい環境を目指している。「思いやりを持って人と接することができるか、相手の立場を理解できるか。そこを重視してほしいです」と田辺氏。このような「人」としての部分は、評価項目に設定されているわけではない。業務上の評価は、スキル・経験を基にした本人の市場価値が基準となっている。それでも田辺氏は、あえて「人」として成長してほしいと、メッセージを発信している。それは、メタバース革命が成し遂げられた後を見据えているからだ。

「メタバースの世界では、今まで人が取り組んできた仕事はガサッとなくなるでしょう。その時、リアルワールドの私達に問われるのは、“人として、どのように周囲の人と繋がり、相手に貢献していくのか”に尽きます」と田辺氏。例えば、エッセンシャルワーカーの方が、ポジティブに活動できるよう、“寄り添って考える”等、人でしかできない仕事が主になっていくためである。「それができなければ、私達は社会に存在できなくなる恐れがあります。相手を思いやる心は、今後私達が生き抜くために、非常に重要なスキルの一つです」と田辺氏は示唆する。

その一方で、「人がいるから、技術がある」とも田辺氏は語っている。人を思いやり、ほかの人の悩みや困りごとに気付く人がいて、解決するために技術が生まれる。人としての成長がなければ、技術の進化も生まれないというわけだ。いずれにしても、社員達には将来も活躍し続けてほしい。そんな切なる思いが、田辺氏の言葉には溢れている。

もし、同社に挑戦したいという方は、同社の仕事の進め方のスタイルも要チェックである。それは、某ドラマの決め台詞「私、失敗しないので」だという。これは、失敗してもそのたびに考えが揺れ動くことなく、成功を目指して貫き通すことを求めている。というのも、同社では目先の成果よりも、ロングタームでの目標を重視しているからだ。「人生は有限。その限られた期間に、技術者として何を成し遂げられるか、目標を分解して設定し、挑戦し続ける人を求めています」と田辺氏。同社は、統合マスタ管理という現場で課題を感じつつ、誰も手を付けなかった部分に切り込んだ。それは、まさに「必ず世の中に必要となる」という信念を貫いた結果だった。そんな同社の次世代の体現者が現れることを、田辺氏は願っている。