株式会社キンライサー

株式会社キンライサーは、日本全国で住宅・エネルギーに関連するサービスを幅広く展開している企業だ。

同社の主力事業は、ガス給湯器・エコジョーズおよび電気給湯器「エコキュート」の交換工事関連サービス。給湯器の故障や寿命によってお湯が出ずに困っている家庭に対し、①スピード、②品質、③低価格にこだわった交換を行うという、社会貢献度の高いサービスだ。

①スピード：自社物流センターに豊富な在庫を備蓄すると共に、全国14カ所の営業所にも在庫を用意し、最短当日に交換工事を実施する体制を整えている。
②品質：工事を担当する技術者は全員、当該資格を所有。商品・工事のW保証を10年間という長期で無償提供。工事の顧客満足度は「非常に良い」「良い」が計97%を誇る（自社調べ）。
③低価格：工事実績は累計20万件以上、年間4万件以上で年々増加中であり、給湯器メーカーに対しバイイングパワーを発揮して商品を調達。大手ガス会社よりも30%程度安い価格を実現している。

そのほか、浴室やキッチンといった給湯・エネルギーに関わる領域を主体とする住宅設備・リフォーム事業や電気、マンション一括交換事業も手掛けている。

給湯器の市場は、大手ガス会社が多くのシェアを占めており、同社のシェアはまだ3～4%。同社の成長戦略は、前述の三つの強みを武器に、シェアを獲得していくことが基本だ。そのためにも、マス広告やWebマーケティング等を通じて同社の認知度や理解度を高めていくことを重要視している。
「一般的に、給湯器のスイッチを入れれば、いつでもお湯が出る暮らしが当たり前になっているので、日頃給湯器を意識している生活者はほとんどいないと思います。ところが、いざ故障等でお湯が出ないと非常に困ることになるでしょう。『そんな時にはキンライサー』と思い出していただくことが非常に重要な戦略の柱であると考えています」と上席執行役員CMOマーケティング部長の大川真樹氏は説明する。

同社の強みや認知度向上の取り組みが奏功し、売上高は毎年右肩上がりの成長を続けている。2020年度からの3年間は、149.3%、128.2%、119.8%とハイペースで伸びているところだ。2023年度は、いよいよ売上高100億円を目指すステージにある。

同社は、1998年、代表取締役社長CEOの森崇伸氏が給湯器専門工事を手掛ける個人事業の「近畿ライフサービス」として創業した（1999年に法人設立、2018年に現社名に変更）。
創業25年で100億円規模まで成長できたのは、大きく三つのイノベーションが起点となっている。

一つ目は、Webマーケティングの導入。それまでの利幅の薄い給湯器メーカーの下請け仕事から、利益率の高い一般ユーザーへの直売に完全に切り替えた2003年の当時、普及し始めていたインターネットに着目する。まだホームページを開設している同業者は見当たらなかった。そこで、自社ホームページをつくり、インターネット検索サイトの広告を出すと、見積もり依頼の問い合わせが舞い込むようになる。ここから森氏はWebマーケティングに開眼し、利益を投じて拡大再生産を続けるサイクルに入った。

二つ目は、問い合わせ客に故障給湯器の写真を撮って送ってもらい、電話で状況をヒアリングする方法を取り入れたこと。それまでは担当者が現地に足を運んで状況確認し、見積もりを作成していたが、それをリモートで行うようにしたのだ。これで業務時間やコストを大幅に削減し、サービスの提供スピードを上げながら販売価格を安く設定することが可能となった。「2010年の当時、スマートフォンで写真を撮ることが一般化してきたことに着眼しての施策。今のDXの先駆けと言えるのではないでしょうか」と大川氏は話す。

三つ目は、テレビCMの実施。2015年、年商12億円の当時に1.5億円を投じて「安くてごめんねキンライサー」というCMを打つ。2019年には「ダチョウ倶楽部」をアンバサダーに起用し、認知度向上に繋げている。

こうして100億円企業という足場を築いた同社は、IPOを視野に入れているところだ。

同社が掲げるVISION、MISSION、VALUEは次のとおりだ。
●VISION：ニッポンを沸かすリーディングカンパニーへ。
●MISSION：近未来の住環境で、エネルギー社会をアップデートする。
●VALUE：高品質　即対応　最大価値

「VISIONは、お湯を絶やさず、当たり前のように使える豊かな暮らしを守る日本の代表者となること。MISSIONとしては、ガス料金の80%、光熱費全体でも30％を占める給湯を担う立場として、省エネルギーへの責任を果たしていきます。具体的には、太陽光発電等も含む“ゼロエネルギー住宅”へのアプローチも視野に入れています」と大川氏は説明する。

同社の社員数は約150名。その行動規範として、次の4項目のCREDOを制定している。

・群を抜く：お客さまが快適で、エコロジーな暮らしを実現するため、分野の圧倒的な一番を追求する
・誇りを持つ：プロフェッショナルを信条とし、自らの行動に妥協せずお客さまの想像を超える満足を提供する
・家族を愛する：支えてくれる家族の幸せを願い、その実現のために自ら行動する時間と余裕をもつ
・すべてに感謝する：お客さま、パートナー、同僚と関わるすべての人への感謝を行動の基盤とする

このCREDOは、毎日の朝礼での確認や研修の機会を利用して、浸透・促進を図っている。同社には社員教育の専門部署を設け、教育研修制度の充実に向けて取り組んでいるところだ。

同社での働き方は、マーケティングやシステム等のスタッフ部門は、東京本社および大阪本店のオフィスとリモートワークのハイブリッド体制だ。
「マーケティング部門の場合は、一人でクリエイティブを考える際にリモート、みんなで議論する場合にオフィスと、業務内容によって自由に使い分けられるようにしています」（大川氏）。

また、同部門では週1回、両拠点を繋いでのオンライン会議を開き、全体的な案件の状況確認やアイデア出しのディスカッション等を行っている。

仕事の範囲やスタイルは部門によって異なるが、マーケティング部門の場合はかなり柔軟だ。同部門では、CM制作等、専門性の強い業務以外、Webサイトやバナー、LP等の制作や広告の入札・配信等、あらゆる業務は基本的に内製体制で行っている。2023年2月現在の陣容は6名で、あるメンバーはデザインだけ、あるメンバーはマーケティング企画+コーディング、あるメンバーはデザイン+コーディング+SNS広告+動画制作とマルチにこなしている。
「本人の能力や適性、希望に応じてやりたいこと、やれることをやってもらうようにしています。まだ少数なので、あえてカオスな状態にして、全員でやれることをやっていくという感じですね」（大川氏）。

同社には、「まずはやってみる」というカルチャーが色濃くあるからだ。まさしく森氏が「まずはやってみる」という精神でイノベーションを起こし、同社をここまで成長させてきた。
「成長していくためには、まずはやってみるというチャレンジが不可欠です。実際の現場ではオペレーションを回すことで一杯になりがちですが、メンバー一人ひとりがこの精神を発揮することこそ、次のステージに当社を上げていくパワーになるという思いがあります」と大川氏は話す。

なお、森氏から社員の誕生日にはギフトカード付きのバースデーカードが渡され、クリスマスにはケーキが振る舞われている。そんな社員思いの一面も見逃せない。

同社が求める、好奇心旺盛で自らに枠をはめずにいろいろとチャレンジしたい人材にとって、やりがいのある企業と言えるだろう。