株式会社カンディハウス

国内有数の家具産地である北海道・旭川を拠点に、国産材にこだわった家具を製造・販売する株式会社カンディハウス。「長く愛される家具を届ける」という理念の下、国内外のデザイナーとのコラボレーションを通じて、堅牢でメンテナンスしやすい高品質の家具づくりに取り組む総合家具メーカーだ。

同社の創業は1968年。家具職人でデザイナーでもあった創業者・長原實氏がドイツで技術研修生として修行を積んだ際、北海道のミズナラがヨーロッパに輸入されて高級家具の材料になっていることに衝撃を受け、「北海道の木、旭川の技術・デザインで世界に向けて家具を作る」という思いで起業した。以来、北欧家具の技法をベースに、北海道の自然と日本の文化に育まれた美意識を追求した独自のデザインメソッドを確立し、高級家具ブランドとしての基礎を築いた。総合メーカーらしく、住宅・オフィス・コントラクト家具からホームファニシング関連製品まで、手掛ける領域は広いが、チェアやテーブルといった“脚もの家具”の評価がとりわけ高い。シンプルだが一生の愛着に応える奥深いデザインと、和モダンともいうべき独特の風合いを兼ね備えたチェアやテーブル。今日、「カンディハウス」の名は国内はもちろん海外にも広く浸透し、旭川家具を代表するブランドネームに成長している。

販売チャネルも世界規模で広がっている。国内では旭川・札幌に加えて東京、横浜、名古屋、京都、大阪、福岡等、主要都市に展開する直販ショップに加え、特約店（エリアパートナーショップ）を通じて全国のユーザーニーズにきめ細かく対応。海外ではアメリカとヨーロッパの現地法人のほか、アジア・オセアニア・中米等、11カ国に専任ディーラーを置き、年々増加するオファーに応えている。

「国内の主要家具産地のうち、旭川は製造工程まで含めて国内で手掛けるメーカーが目立つ数少ない産地の一つです。もちろん当社も例外ではありません。原材料の調達から設計・生産、出荷に至る全工程を手掛ける自社一貫体制は、上質なデザインと高品質のものづくりの両立に欠かせない条件でもあります」と話すのは、2021年3月に代表取締役社長に就任した染谷哲義氏。「2018年に創業50周年を迎えたのを機に、次の100年を見据えて“地元の素材と技術を生かした製品づくり”という創業の原点に立ち返りつつ、新たな方向性を内外に示すリブランディングを進めています」

同社を語る上で欠かせないのが、旭川ならではのオープンイノベーション気質である。豊富な木材資源を背景に、戦前から戦後にかけて国内有数の家具産地に成長した旭川には、古くから優秀な木工職人やデザイナーが集まり、ものづくり人材の育成機関やデザイン協議会等、行政主導のバックアップ体制も充実していた。1990年に始まったIFDA（国際家具デザインフェア旭川）は、「世界的デザイナー×旭川家具メーカー」の作品を続々と世に送り出し、今日では世界最大級のデザインコンペに成長している。長年にわたって町ぐるみで家具製造インフラを整備し、メーカー同士が切磋琢磨して産地形成を図る取り組み全体を通じて、常に中心的な役割を担ってきたのが同社である。こうした実績を背景に、旭川市は2019年、「ユネスコ創造都市ネットワーク」のデザイン分野での加盟認定を受けた。国内では名古屋市、神戸市に続く快挙。世界に向けて、同社をはじめとする旭川家具のプレゼンスを大きく高める契機となったことは言うまでもない。

旭川全体で成長機運が高まる中での同社のリブランディングは、全社的な規模で行われている。ロゴマークや販促物の刷新、商品ラインナップの再編に加え、製造から流通に至るプロセスの最適化、生産現場のスマート化、社内組織の再構築に至るまで、社内全体を「デザイン経営」のコンセプトに沿って俯瞰的に見直し、一気通貫体制の強化に繋げている。旭川家具工業協同組合と協働で進めている「ここの木の家具・北海道プロジェクト」も、リブランディングをにらんだ象徴的なチャレンジの一例。ミズナラやタモ等、北海道産の広葉樹の木材利用を広げる取り組みで、SDGsやカーボンニュートラルを視野に入れた施策でもある。同社における原材料の道産材比率は、プロジェクトがスタートした6年前には8%に過ぎなかったが、現在では50％を超え、業界内外の大きな注目を集めている。

リブランディング第二章ともいうべき中期展望で最も注力しているのが、持ち前のデザイン経営をITの知見で強靭化する戦略的なDX推進だ。基幹システムの刷新、製品や顧客にまつわるビッグデータの効率的な管理・運用等、取り組むべき課題は多岐にわたるが、長引くコロナ禍の中でクローズアップされたのがECサイトの重要性。こうした中で2020年、社内にEC事業部を新設し、Webの活用やeコマースの充実に特化した取り組みが加速している。

EC事業部設立の背景について、染谷氏は次のように話す。
「商品の販路で見ると、エンドユーザーに直接販売するBtoCが3割、大手ハウジングメーカー様に提案するBtoBが7割となっています。いずれにしても、単にチェアを一脚お売りする、というようなスタイルではなく、お客様のライフスタイルの充実に繋がる空間提案を重視しています。ましてや、当社の家具は決してリーズナブルな価格設定ではないことから、やはり店頭で現物を見て決めてもらうのが前提でした。しかしコロナ禍でショップに何度も足を運んでいただくのが難しくなり、Webを通じた丁寧な情報提供の必要性を痛感。遠隔での決済機能の簡素化も踏まえ、オンラインショップの開設に至りました」

ECサイトの効果は予想以上だったという。「オンラインショップオープンの時点からバーチャルショップを開設する等、比較検討がしやすい構成を工夫しました。その甲斐あってか、オンラインで検討した後、全国主要都市に構えるショップに来店してもらった結果、購入までの決定率が2、3倍へと、一気に向上しました」（染谷氏）。
これと並行して、Webを活用したオンライン商談会、営業担当が得意先のコーディネーターや設計者に売り込む手段としてスマートフォンで主力商品を撮影してコメントを入れた動画を作成する等、デジタル技術を活用した情報発信のブラッシュアップが進んでいるという。

「とはいえ、EC事業部は立ち上がったばかりで、専任メンバーもわずか3名。今後はWebマーケティングやWebデザインの領域で豊富な経験を積んだエンジニアにジョインしていただき、ECサイトの本格的な活用に取り組んでいただきたいと考えています」（染谷氏）。
旭川は札幌に次ぐ道内第2の人口を擁する都市であり、利便性を含めた生活環境は申し分ない。また旭川ラーメンをはじめ北海道らしいグルメにも事欠かない。キャリア入社のIターン組は全社員の2割を超えるという。

最後に求める人物像について、染谷氏に聞いた。

「家具やインテリアが好きであるに越したことはありませんが、マストの条件ではありません。旭川から世界に挑む当社の姿勢に共感できる方なら、自然と当社の家具に愛着が湧き、OJTの一環で行う工場実習も楽しく取り組んでいただけると思いますよ。もちろんUターンやIターンを希望する方も歓迎です。私も東京出身のキャリア入社組ですが、入社後すぐに、旭川の街とカンディハウスの家具が大好きになりました」

北海道にゆかりがある人はもちろん、そうでない人にとっても、魅力的な選択肢がここにある。