テキストデータを自然言語処理AIで構造化し、価値あるデータに変換
自然言語処理に特化したAIスタートアップの、ストックマーク株式会社。同社は、分析が困難であったテキストデータを自然言語処理AIで構造化し、価値のあるデータに変換する『A Series』を開発・提供している。目指しているのは、『A Series』を通じて企業のDXを推進し、企業内でイノベーションを生み出せる体制づくりや、そのために必要な企業文化の変革を支援することだ。
プロダクトの概要は、次のとおり。
●ナレッジシェア推進サービス『Anews』
・AIがユーザー個人や所属チームの関心事に合わせて、世界約3万メディアのビジネスニュースから最適な情報を抽出・レコメンド。複数のニュースを読む必要がなく、『Anews』さえチェックすれば良い状態に。
・得たニュースで得られたインサイトやアイデア、関連情報等をコメントしてチームメンバーと即座に共有。これによって他メンバーの新たなインサイトやアイデアの創発、メンバー間での「深掘り」や「議論」に繋げ、イノベーションのヒントに。
・チームメンバーがよくチェックしているニュースを基にAIが個人の興味を解析することにより、「このことはあの人に聞けばいい」という社内の“情報通”を可視化する。
●戦略策定サポートツール『Astrategy』
・AIが人間では捉えきれない世界中のニュースや記事を収集し、調査・解析対象のトピックごとに俯瞰・構造化。検索キーワードに関連する上位・急上昇・新規出現テーマの自動抽出や、特定キーワードに関連する事象や企業、産業の比較等、戦略策定に必要な情報を様々な軸で解析して人間では発見できない“兆し”を捉える。
・分析結果に直接コメントする形でクイックにレポートを作成し、チームメンバーにシェアすることで、事業戦略における素早い見直しや意思決定を可能に。
AIが自動的に新規事業の企画書を作成、人間は意思決定を行うだけの次元を目指す
今、盛んに叫ばれているDX。業務効率化や生産性向上等の“守りのDX”と、新規事業創出・新商品開発やビジネスモデル変革といった“攻めのDX”に分けられる。*IPAの調査によると、「業務の効率化による生産性の向上」において「すでに十分な成果が出ている」と「すでにある程度の成果が出ている」と回答した企業は合計で28.2%であるのに対し、「既存製品・サービスの高付加価値化」においては同じく12.0%、「新規製品・サービスの創出」では7.7%、「ビジネスモデルの根本的な変革」に至っては4.3%という状況だ。つまり“攻めのDX”はほとんど進んでいないといえる。
新しいことを始めようとする場合、まず行われるのは市場動向等の情報収集であろう。しかし、*デロイトトーマツの調査によると、「顧客との情報共有・対話」や「社員間での情報共有」「定期的な調査研究」等、“既存の延長”での情報源が大半を占め、「ビジネスプランコンテスト」「オフィシャルな自由時間設定」「体系的なアイデア創出フレームワーク」等の“既存の枠組みを超える”アイデア創出方法が取られているケースが極めて少ないことが分かる。つまり、アイデア発掘・共有の仕組みがアップデートされていないのだ。
一方、情報量は増加の一途で必要な情報を探り当てることは困難な環境にある。一般生活者向けにSEOされている検索エンジンではビジネス情報のみを抽出するには適さず、コンサルティング会社等の外部への調査委託は高額で使いづらいといった問題がある。会社員は1日当たり1.6時間情報収集を行うものの、75%の人がストレスを感じているという*ITmediaの調査もある。
では、どんな情報が必要なのか。
例えば、アメリカのショッピングサイトを手掛ける会社のようにデジタル技術で業界の在り方を変えてしまうディスラプターが様々な業界に出現している今、定量情報や業界特化情報、マスメディアによる情報では限界がある。定性情報、業界越境情報、マイクロメディアによる情報が不可欠なのだ。こうした情報の点と点を組み合わせ、自社のコンピテンシーやケイパビリティに照らし合わせてビジネスアイデアを抽出する必要がある。
現在、三菱商事、みずほ銀行、日立製作所、サントリー、JTB、ソフトバンク、リクルートホールディングスといった大手企業を中心に、事業部門向けの『A news』有償サービスは累計約250社、企画・戦略部門向け『A strategy』有償サービスは累計約50社に導入されている(2022年1月現在)。
「今後は、構造化されたオープンデータに社内データを統合して、AIが自動的に新規事業の企画書を作成し、人間は意思決定を行うだけ、という次元を目指してプロダクトのバリューアップを目指していきます」と代表取締役CEOの林達氏は意気込む。
*IPA「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方の関する調査」
*デジタル・デロイトトーマツ「日本企業のイノベーション実態調査(2013年)」
*ITmedia「会社は「調べもの」にいくら払っている? 1日当たり1057億円」
年俸の自己申告制、自由な働き方等、個人の主体性を尊重するカルチャー
林氏は大手総合商社でM&Aやファイナンス業務を手掛ける中、日々情報を収集しマーケットレポートを作成する業務に就いていた。そうした中で、情報収集やレポート作成の在り方に限界を感じ、これをAIが解決する未来像を描いた。
「文学部出身の私はエンジニアではなかったので、大学時代の友人であるエンジニアの有馬幸介(現・CTO)に声を掛け、2016年11月に二人で当社を創業しました」(林氏)。
有馬氏は大学・大学院時代に機械学習を用いたテキストデータ解析や分散環境における行列演算アルゴリズムによるビッグデータ処理を研究し、修了後は鉄鋼メーカーグループ会社のSIerに入社して大規模プロジェクトを主導する等、活躍していた人材。
両名は、まずコンシューマ向けに自らがストックしている情報を解析して意味付けを行う真のキュレーションサービス「ストックマーク」をリリースする。
その半年後、ある企業から『A news』の元となるニーズが寄せられたことを機に、BtoBにピボットした。
そんな同社では、大学の生産技術研究所特任准教授として統計学・機械学習研究に従事していた博士や、複数の研究所で自然言語処理やAI等の主任研究員等を務めた研究者がR&D Managerに就任。自然言語処理技術における日本をリードする存在として、大学との共同研究や技術書の出版、メディアへの掲載を通じて影響力を発揮している。
2022年1月現在、約70名の優秀な人材が集まっている同社は、①CxOによるマネジメント層、②リーダー層、③メンバー層の3階層によるフラットな組織を構築。トップダウンによる方針やミッション等の情報の下達だけでなく、エンジニアや営業等、各ユニットリーダーの連携で横串を刺すと共に、各現場からのボトムアップ型の情報発信を重層化させ、社内に情報を行き渡らせている。
働き方も、オフィスやリモートの選択は個人の自由裁量に任されている。
個人の主体性を尊重するシンボル的な制度が、年俸の自己申告制だ。自ら業績目標を設定し、それを達成した場合に受け取る年俸も本人が申告して上長と交渉する。また、公平性を担保するため、個人の目標や到達度を公開し、360度評価を取り入れている。
常に自己更新が求められる環境として、一定金額の自己啓発予算を個人に配分し、書籍やセミナー等に自由に使うことができる。
そんな同社の求める人材像について、林氏は次のように言う。
「コアバリューとして、イノベーションに不可欠な“早く失敗すること”を促すチャレンジマインド、謙虚に学ぶ姿勢、未来構想力、アジリティ、チーム志向、自律と責任意識、オープンで誠実なコミュニケーション、多様性の尊重、仕組化できる能力等を挙げています。これらのうち、数個は光るものを持っている方に来ていただきたいと願っています」
今、日本が最も必要としているイノベーション。これを生む真のDXを推進する同社の仕事ほど、やりがいに満ちたものもないだろう。