株式会社KURANDO

物流オペレーションデータのデジタル化を行う物流ソリューションプロバイダー、株式会社KURANDO（クランド）。同社は、これまで手間がかかり困難だったデータ取得を支援する、庫内業務可視化アプリ『ロジメーター』および管理者支援アプリ『ロジボード』を提供。集まったデータはマクロデータとして集計し、ベンチマークデータとして公開することで、物流業界全体の適正なリソース運用を目指している。

現在、『ロジメーター』は日本全国100センターに導入済み。取引先にはNTTグループの物流を一手に行う「株式会社エヌ・ティ・ティ・ロジスコ」、大手食品商社の「三菱食品株式会社」が名を連ねる。また、物流不動産のリーディング・グローバル企業である米「プロロジス」（Prologis, Inc.）の日本法人と資本業務提携を締結。今後の新サービス開発に向け、確かな経営基盤を築いている。

『ロジメーター』は、倉庫内業務の作業状況や収支実績を可視化するクラウド型システムである。まず作業者が倉庫内における作業実績をタブレットに登録。入力されたデータをもとに、管理者がリアルタイムでの進捗把握や収支、生産性分析をできるようになる。作業日報の電子化や、データを活用したレイバーコントロール（作業量に合わせた適切な人員配置）等、DXの第一歩として活用する企業も多い。

簡単な操作と初期投資不要で安価な価格設定が魅力で、2020年4月の正式リリース以降、大手3PL（サード・パーティ・ロジスティクス）や小売、卸等、業種業態を選ばず100のセンターで利用されている。複数の荷主を持つマルチ型の倉庫や、作業人員が50名を超える中～大規模の現場での採用実績が多いそうだ。

一方の『ロジボード』は、倉庫内業務を行う作業者を管理する、管理者向けの支援ツールである。見積書の作成や、人員調達・配置、資材発注等、管理者独自の様々な業務をサポートする。管理者がこれらの業務に当たって入力した内容を履歴として残し、『ロジメーター』同様マクロデータとして集計する。『ロジボード』は、2021年10月に物流ソリューション関連企業のオンラインイベントで初披露されたばかりの新しいツールのため、本格的な外販はこれからになる。

同社はさらに複数のサービスを企画中だ。集計したビッグデータをニーズに応じて引き出し、顧客が適切な経営判断を下すためのプラットフォーム『ロジスコープ』。『ロジスコープ』内の情報をもとに、取引情報の簡素化や最適なサービス選択を行う『ロジモール』。これらのサービスを順次マーケットに送り出し、物流業界への貢献を図る。

同社の設立は2019年7月。いわゆるスタートアップ企業だ。しかし代表取締役の岡澤一弘氏は、一貫して物流における「保管領域」＝倉庫業界に関わってきた。新卒でファクトリー・オートメーションの総合メーカーに入社。倉庫で使用されるハンディターミナルの部門で営業経験を積み、独立後も倉庫業界向けのマーケティング支援やコンサルティング等を手掛けてきた人物だ。業界内での人的ネットワークは広く、スタートアップでありながらも引き合いが多い。そのため「受注には困っていない」と語る。なお、この言葉には別のニュアンスも込められているが、詳細は次項で紹介しよう。

現在、同社は岡澤氏や役員、外部パートナーを含め17名体制。セールス&カスタマーサクセス、設計、開発と3部門で運営されている。まずセールス&カスタマーサクセスが見込み顧客への提案や無料トライアルのサポート、既存顧客へのフォローを行い、機能に関する要望をリスト化。「並び替え機能があると助かる」「画面が遷移しても絞り込み条件が消えないようにしてほしい」等の様々な要望リストから、おおよその実装方針を決めて開発に依頼する。なお、SaaSの特性を活かし、顧客ごとのカスタマイズは行わず全てバージョンアップで対応している。

「無料トライアルの顧客に対して、当社は手厚くサポートしています。“IDを発行しましたので、さぁどうぞ”…ではありません。担当のカスタマーサクセスが、事前に使い方に関する要望をヒアリング。機器のセッティングをサポートし、すぐに使い始められる状態にします。しかも無料トライアル期間は2カ月。たっぷり時間を取っています」（岡澤氏）。

岡澤氏によれば、使い勝手の良さを理解している既存顧客と、トライアルで活用している見込み顧客とでは、出てくるニーズが異なるという。特に後者は、導入を決めていないからこそ、現状の業務上の課題がストレートかつ幅広く出てくるので、機能追加・改修の大きなヒントになるそうだ。だからこそ2カ月間じっくり使ってもらい、要望をヒアリングするようにしている。

開発はCTO＋外部パートナーの8名体制で機能開発に対応。月平均10件以上はある機能追加・改修案件に順次対応している。その上のレイヤーにある設計は、CPO＋外部パートナーの3名体制。前項の『ロジスコープ』や『ロジモール』等の新サービス、『ロジメーター』の新機能（収支シミュレーション機能等）の企画・設計を行っている。

大型案件の引き合いも入ってきている中、顧客の要望に応える体制をさらに強化しなければならない。そこで同社は新しい人材の採用を進めている。

「受注には困っていない」という岡澤氏のコメントを紹介したが、さらに踏み込んだ表現をすると、岡澤氏は「当社の事業を通して大きく儲けようとは思っていない」そうだ。倉庫業界の実情を熟知している岡澤氏は、その知見を活かして作業者や管理者の負荷を取り除くツールを提供しながら、基盤となるデータを集めることに軸足を置いている。

「そのデータをもとに業界に貢献をしよう、と考える競合はほとんど存在しないのが現状です。私としては“きちんとやれば勝てる”領域で結果を出し、当社を運営できる費用が調達できればそれでいいと考えています」（岡澤氏）。

「きちんとやる」とは、要望リストに上がった順に、機能追加・改修を進めていくこと。それによって待たせてしまう顧客が存在しても、「順番が大切ですから、やむを得ません」と語る。このような方針で運営されている同社に求められている人材は、「まったりした人」だそうだ。

「儲けるつもりはありませんし、いたずらに規模を拡大するつもりも、IPOを行う予定もありません。“ぐんぐん伸びていく会社で自らを成長させたい！”という方は、絶対に合わないと思いますよ」（岡澤氏）。

必要なスキルセットを持ち、フルリモート（岡澤氏も活動拠点は京都の自宅）・フルフレックスという自由な環境下で、人生を楽しみながら働きたい。そんな「まったりした人」が、同社では歓迎されるようだ。

「フルリモートで社員を管理しようとすること自体に無理がある、と私は考えています。給料分、しっかりパフォーマンスを発揮してもらえば全く問題ありませんし、給料以上に頑張っているようであれば、給料をもっと要望すればいいのです」（岡澤氏）。

もちろん社員として任せたい仕事はある。どのようなサービスをどのタイミングでリリースするか等、経営に近いポジションで意見を発信する。開発に最適な技術や、外部パートナーの選定を行う。時には岡澤氏や役員に同行し、冒頭で紹介したような大手の顧客と打ち合わせを行う。このように外部パートナーは遠慮しがちな重要なポジションを、社員として担ってもらえればと岡澤氏は考えている。

現在「自分にはこれがある」という明確な武器（経験・スキル）を持っている。今後は経営に近いポジションでさらに必要な経験を積み、いずれはフリーランスとしてもっと自由な環境で働き、人生を楽しみたい。そんな展望を持っている人には最適な会社と言えるだろう。しかし、くれぐれもガツガツ働くことで不足をカバーしようとしないこと。それが同社では大切になりそうだ。