“エッジAI”で低コスト、低遅延、低消費電力、プライバシー保護を実現
AIエンジニアリング事業を手掛けている、ニューラルポケット株式会社は、主に画像や動画を解析する独自のAI技術の研究開発および事業化に取り組んでいる。2018年1月の創業からわずか2年半で東証マザーズにスピード上場を果たした。
同社の特長は、クラウドの対極にある“エッジAI”の技術。AIをインテリジェントカメラやスマートフォン、PC、サイネージ等の端末(エッジ)に搭載してデータを処理することで、低コスト、低遅延、低消費電力を実現させると共に、画像・動画解析に付いて回るプライバシー保護の問題をクリアしていることだ。
従来のクラウドでの処理においては、大量の映像やデータをネットワークで送受信することになり、高コスト、高遅延、高消費電力と共にプライバシー情報が漏洩するリスクがある。大量のデータ転送をせずに済むエッジ処理によって、コストやスピード、消費電力が劇的に改善され、プライバシー情報の漏洩するリスクを防ぐこともできる。通信環境の不安定性やエッジ盗難など特有のリスクが想定されるので、それに対応するノウハウを持っている。世界最高峰のセキュリティ国際会議CODE BLUEの優勝者が在籍する等、セキュリティの側面一つを切り取ってもその水準は世界レベルだ。
同社が提供しているのは、次の5つのスマートシティ関連サービス。
●デジフロー(人流・防犯)
独自AIライブラリを組み合わせ、リアル空間での人・車両などの動態などをデータ化することで、都市や産業の抱える様々な社会課題の解決に寄与するサービスを提供していきます。例えば、神奈川県鎌倉市に技術を提供し、鶴岡八幡宮の初詣客の混雑状況を発信して分散を図るといった施策に繋げたり、デベロッパーに提供してビルやマンションの防犯監視の省力化に繋げている。
●デジパーク(駐車場・モビリティ)
駐車場運営事業者、物流施設、不動産ディベロッパーや商業施設・観光施設、SA・PA、公共駐車場向けに、駐車場満空把握、走行車両のナンバープレート解析、サイネージを活用した安全監視誘導サービスを提供している。リアルタイムでの満空情報表示により、空車室への誘導最適化・業務効率化、渋滞・待機車列抑制、駐車場利用者満足度向上を実現します。また、駐車場の利用実態・車両情報をデータ化・分析することで、駐車場設計・運営や店舗・施設等のマーケティングへの活用も可能。
さらに、弊社では、世界初となる、スマートフォンアプリケーションによるAI搭載ドライブレコーダー「スマートくん」の提供をはじめとした最新のAI/IoT技術を活用し、自動運転やマーケティングに必要な交通情報を提供することで、運転における安全性・利便向上に貢献。
●SIGN DIGI(サイネージ広告)
商業施設やオフィスビル、スマートシティにAIサイネージサービスを提供します。AI解析とサイネージ広告を融合することで、リアル空間の人流・視聴情報と広告効果を可視化。次世代のターゲティング広告プラットフォーム構築を実現。
●リモデスク(在宅勤務支援)
リモートワークセキュリティソリューションとして、リモート環境下での業務セキュリティを担保しつつ、従業員のプライバシー保護も実現したサービス。コールセンター事業やバックオフィス等、個人情報及び機密情報取り扱い業務において特にご活用可能。
●AI MD(ファッション解析)
SNSやショッピングサイトなどの膨大な情報をAIを使って解析し、ファッショントレンド予測を提供しています。アパレル企業やアパレルODMが当社サービスを活用して企画した商品は全国3,000店舗以上で販売されており、多くの企業で定価での販売率が10%以上改善するという成果が上がってる。
ノーベル賞に貢献した人材を含む、ハイパフォーマー集団
同社を創業した代表取締役社長の重松路威氏は、大学院の工学系研究科修了後、グローバルコンサルティングファームに入社し、パートナーとして多様な産業におけるIoTやAIの活用や事業化支援をリードする立場を担う。「そこで、重松はAIはいい意味で未開拓の領域が残されている未熟な分野であると認識し、自分でビジネスを組み立ててみようと思い立った」と佐々木氏。
次のような強力な顔ぶれのボードメンバーを揃え、体制を固めている。
大学院で理学博士を取得後、スイスにある研究所でブラックホール等の研究を主導し、ヒッグス粒子の発見に共同研究者として参画。2013年度のノーベル物理学賞受賞に貢献した取締役CTOの佐々木氏。
大学を卒業後、グローバルコンサルティングファームでハイテク業界のAI活用プロジェクト等を担当した取締役COOの周涵氏。
大学院の先端学際工学専攻博士課程の後、グローバルコンサルティングファームでクロスボーダーM&A戦略支援等で活躍した、MBAホルダーでもある取締役CFOの種良典氏。
大学院の機械宇宙システム専攻卒業後、大手電機メーカーでアントレプレナーとして活躍した常務執行役員技術開発統括の山本正晃氏。
そして、顧問には日本のAI研究の第一人者である、東京大学大学院工学系研究科の松尾豊教授を迎えている。
同社の掲げるMISSIONは、“世界を便利に、人々を幸せに”。その思いについて、佐々木氏は次のように説明する。
「一過性のAIブームに乗る受託開発ではなく、独自開発のAIプロダクトやサービスによる事業でユーザーに高い価値を感じてもらい、世界に貢献したいとの思いがあります」
大規模なスマートシティ計画等のビッグピクチャーを描くトップダウン型の事業体が目立つ中、同社が指向するのはボトムアップ型の事業構築。
「目の前のユースケースを一つひとつAI化し、世の中に刺さるか否かを実証しつつ、データの統合を図りながら広げていくという現実的なアプローチを指向しています。成長戦略としては、パートナーや代理店と協業してチャネルを開拓しスケールを目指す指数関数的な成長に加え、常に挑戦者としての気持ちを忘れずに、非連続的な成長を成し遂げる妙手を探し続けています」と佐々木氏は今後の成長ビジョンを話す。
世界中から優秀な人材を集め、個人の能力を100%発揮させる組織を目指す
2021年3月現在、同社の社員数は53名で、うち外国人が10名を占める多国籍企業である。「最初から多様性を意識したわけではなく、優秀な人材を選んだら結果的にこうなった」と佐々木氏。そんな同社は、目指す組織像としてGoogleをベンチマークしている。
「Googleは世界中から優秀な人材を集めているだけでなく、その能力を100%発揮させるような組織風土づくりを工夫しています。そして、これからの人生を賭けて事業をつくっていくのであれば、Googleほどの影響力や存在感のある企業にしたいとの思いもあります」
「基本的に主体性と責任感、チームワークを重視し、全体の力を合わせて最大価値を発揮しようという考え方です。この行動基準は評価指標に組み込んで推進すると共に、1on1の指標にもしています」と常務執行役員の山本氏は言う。
同社の組織は、AIエンジニアやシステム開発エンジニア、データサイエンティスト等のスペシャリティ別のチームで構成され、そこからプロジェクトにアサインされる形のマトリクス型。同社ではメンター制度を導入してメンバーのスキル向上に努めているが、1on1の相手はメンターだけでなく、チームリーダーや別のチームメンバー等を自由に選ぶことができる。
「スタートアップのようなスピード感と、落ち着いた雰囲気を併せ持っています。事業運営の面では、走り出したら止まらない一方、違うとなったら即座にピボットを意思決定する柔軟さがあります。ガバナンスやコンプライアンスの面では、既に以前勤務していた大手電機メーカーと変わらない質を持っています。こうした特質があるからこそ、まずはやってみようというチャレンジ精神が発揮できていると思います」(山本氏)
人事考課では、年2回、本人が5~6名の評価者を選び、担当メンターが本人のいい点や改善すべき点等をヒアリングした上で採点し、メンター同士で調整した上で決定されるという公平さだ。
イベントとしては、週1回の技術的な勉強会や会社のミッションを見つめ直すValue’s Day、TGIF(Thank God, It's Friday.)の社内パーティー等がある。今年からは、近郊に出掛けて中長期的なビジョンを語り合い親睦も深めるオフサイトミーティングが行われる。
同社が求めているのは、次の3項目の能力を備えた人材。
・物事を整理しながら、問題を確実に特定していく、科学的な考え方
・第一人者と胸を張れるところまで、技術を突き詰めて理解する、強い好奇心
・仲間と知見を共有しながら、全体の成功と成長を追求する、チームワーク
「一緒に働いていて気持ちいい人であることと、自らの高い技術を人に惜しむことなく教え、逆に自らに足りない点を人から積極的に学ぼうとする吸収力のある人。そんな方に是非来ていただきたいと願っています」と佐々木氏は期待を寄せる。