自動車業界のグローバル開発パートナーシップ「AUTOSAR」に強み

同社は自動車分野を中心に、ソフトウェア設計・開発および通信/ネットワーク構築、電子回路設計、機械設計の上流工程に特化したアウトソーシング事業を手掛ける。

業務形態は派遣が60%、請負・受託が40%で、その逆転を目指している。
株式会社アテックは、ソフトウェア設計・開発および通信/ネットワーク構築、電子回路設計、機械設計の上流工程に特化したアウトソーシング事業を手掛けるテック企業である。
手掛けている領域は、自動車分野が8割ほどを占める。内容としては、パワートレインやモーター、ブレーキ、エアコン、メーター、HVインバーター等、あらゆるパーツに及ぶ。残りの2割は、デジタル家電やプラント、ロボット、工作機械、航空機等。顧客には、国内の完成車メーカーおよび、そのTier1と呼ばれる大手パーツメーカーを網羅しているほか、大手の電機/機械メーカー、SIerが顔を揃える。
業務形態としては、派遣が60%、請負・受託が40%。「いずれは、請負・受託が60%、派遣40%と逆転させることを目指している」と取締役執行役員コア事業推進本部長の髙野雅史氏は言う。
同社は受託業務を行うための技術センターを擁しているが、そこでは電子回路等の評価を行うTier1メーカーと同じ設備を設けて当該業務を受託。設計から評価までウィングを広げている。
さらに同社の強みとして挙げられるのは、車載電子制御ユニット用の共通標準ソフトウェアアーキテクチャを策定・確立する自動車業界のグローバル開発パートナーシップである「AUTOSAR:Automotive Open System ARchitecture」のアソシエイトパートナーであること。全世界130社強・国内20社強(2021年4月現在)が認められているが、同社のような業態の企業としては稀有の存在だ。
ヨーロッパ発の「AUTOSAR」は、安全性や拡張性、可用性等を満たすアーキテクチャとして、特に欧米で発売される車の開発には不可欠のもの。このアーキテクチャを活用することで開発工数を削減でき、それだけエラーを無くすことができる。しかし、技術的に高度で、資料等あらゆる表記が英語とハードルが高い。同社は2017年から本格的に取り組みを開始し、このほど「AUTOSAR」のBSW(Basic Soft Ware)の最大手であるドイツのベクター・インフォマティック社と、主にコンフィグレーション(設定)業務を受託するパートナー契約を締結した。2021年7月からサービスを開始するが、当該業務を手掛けるのは世界でもベクター社のほかはもう1社だけという地位にある。
「今後、自動運転が進展すると、さらなる安全性追求のため『AUTOSAR』はますます重視されると考えられます。このコンフィグレーションにはコンサルティング業務的な色彩が強く、アウトソーシング業を手掛ける当社にとっては新機軸となります。そこで、『AUTOSAR事業部』を設立し、本腰を入れて取り組んでいくことになりました」と髙野氏は意気込む。
エンジニアを第一に考え、大切にする会社をつくることを目的に設立

自動車業界のグローバル開発パートナーシップである「AUTOSAR」のアソシエイトパートナーであり、そのBSWの最大手であるベクター・インフォマティック社と、主にコンフィグレーション業務を受託するパートナー契約を国内で唯一締結。

コンサルティングの色彩が強い当該業務を新機軸として業容の拡大を図る。
同社の設立は、1988年4月。代表取締役社長の中島郁文氏は、以前、同社の同業となるエンジニア派遣会社に勤務していた。しかし、バブル期にあって、会社は本業である技術支援領域よりもレジャー等の領域に力を入れ、そのことに中島氏らは問題意識を抱く。そこで、エンジニアを第一に考え、大切にする会社をつくろうと志した。そんな時に、担当していた取引先の建築土木会社のトップにその思いを伝えると、共感された上に出資までしてもらえた。そのトップが、同社の初代社長で現会長の安井隆司氏である。こうして、他のメンバーも加え7名で同社をスタートさせた。
スタート当初は工作機械や設備、遊技機等の機械設計から始め、徐々に領域を拡大。設備に付けるセンサーも手掛ける必要性から、電子回路やソフトウェアにも領域を広げていった。
10年後の1999年にトヨタ自動車と取引を開始し、自動車領域が主力となる。2000年から早くも燃料電池車の開発に関わる等、最先端領域を手掛け始め、現在までFCV、HV、PHVおよび関連インフラ、設備の開発に数多く携わる。
「トヨタさんがFCVの『MIRAI』の発売計画を1年前倒して2014年12月に発売しましたが、そこにも総力を挙げて全面的に関わりました」と髙野氏。
2009年には共和技術センターを建て、受託業務を本格化。翌2010年に“トータルエンジニアリングカンパニーの確立”をスローガンに、より広範な業務領域の受託を目指し始める。そして2016年、社員数1,000名を超える規模に発展した。
当面の目標は、35期となる2022年度の売上高100億円、および“オンリーワンのアウトソーシング企業”になること。その内容について、髙野氏は次のように説明する。
「アウトソーシング事業は、“単価×工数”の世界です。しかし、そこに縛られることなく、付加価値を発揮して“オンリーワン”の存在になることを目指したい。『AUTOSAR事業部』によるコンサルティングサービスは、その象徴的な存在になると考えています」
先輩が後輩を教える手づくりの研修があり、エンジニアを大切にする風土

人材を大切に考えた風土づくりは特長的。アットホームさも、同社の魅力といえるだろう。

各現場に分散している社員の求心力や一体感を高めるべく、5年ごとに全社社員旅行を実施。前回は、約700名で沖縄の高級リゾートホテルを借り切って休日を楽しんだ。
同社の経営の基軸には、創業の動機になったエンジニアを大切に育成する風土づくりがあり、“FSC”(Follow up、Step up、Career up)と呼ばれる人材育成制度やカルチャーが充実している。
FSCとしてまず、上司の評価や顧客アンケートを基に1年単位で目標を設定する目標管理制度を導入。その達成を支援するために、初級・中級に分けて行う技術研修やマネジメント研修はもちろん、コミュニケーション力やプレゼン力、論理的思考力、ビジネスマナー等の人間力向上研修、品質管理や機密管理、安全衛生等の意識向上研修にも重きを置いている。名古屋市内に構える6階建ての本社ビルの1.5フロアを研修専用に割き、ソフトウェア設計開発、電子回路設計、機械設計のそれぞれにおいて専任講師を常駐させるという力の入れようだ。
経験豊富なエンジニアである専任講師は、主に基本的な技術と人間力向上、意識向上を受け持ち、最新技術に関しては現場で活躍しているエンジニアが挙手制で吸収したての知識やスキルを教えるカリキュラムを設けている。
「こうしたOff-JTの研修教材のほとんどは、社員の手づくりです。現場のエンジニアが一番知りたいことを知っている先輩社員が後輩社員のために作成して教えるという“順送り”の文化が根付いているのです」と髙野氏。
資格取得も、基本情報技術者・応用情報技術者や電気通信主任技術者等の技術系だけでなく、「AUTOSAR」を扱う上で不可欠の語学力を高めるTOEIC等まで幅広く対応し、対策講座や取得費用の負担、取得時の一時金支給で支援している。
2021年4月現在、同社の社員数は1,144名。各現場に分散している社員の求心力や一体感を高めるべく、5年ごとに全社社員旅行を実施。前回は、約700名で沖縄の高級リゾートホテルを借り切って休日を楽しんだ。また、毎年9月の期初には拠点ごとに社員を集めて経営方針説明会および懇親会を行っている。
社員を大切に考えている中島氏は、時に同社の拠点にあるリラックススペースに併設されたキッチンで料理をつくり、集まった社員に振る舞うという。こうしたアットホームさも、同社の魅力といえるだろう。「社員の声を積極的に吸収するフラットさがあり、『AUTOSAR』の事業化も社員の発案で決定した」と髙野氏。
そんな同社の求める人材像について、髙野氏は次のように期待を寄せる。
「お客様からは、責任感の強さや着実に業務をこなす姿勢を高く評価いただいています。半面、主体的に切り拓いて行くような動きをもっとしてほしいと要望されています。これから受託や請負業務を増やしていく上で、まさしくそういったプロアクティブな姿勢は重要です。チームワークは大事にする一方、フロンティア精神のある方に来ていただきたいと願っています」
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