国内最高峰のカーレース・自動車イベントや大手自動車メーカーが顧客
ブランディング/デザイン制作会社の、有限会社シム。同社の特長は、モータースポーツや自動車業界の案件が80~90%を占める“ニッチトップ”にある。
国内最高峰のカーレース・自動車イベントとして知られる、「SUPER GT」「SUPER FOMULA」「D1」。同社はこれらのロゴやキービジュアル、コミュニケーションツール、Webサイト、グッズなどのデザインワークによるブランディングを手がけている。
それだけでなく、大手自動車メーカーのモータースポーツ部門の公式Webサイトの運営やSNSの更新を任されており、同チームの日頃の動向から、世界最高峰の著名レースへの参戦に帯同しての発信まで担っている。
さらに、鈴鹿サーキットの公式Webサイト運営やレースプログラム(冊子)の企画・編集・制作、世界最大のカスタムカーの祭典「東京オートサロン」の公式Webサイト制作、自動車のアフターパーツブランド「CUSCO」の海外向け広告キャンペーン、モータースポーツ専門カメラマンの職能団体「日本レース写真家協会」の公式Webサイト制作など、レースや自動車関連のブランディングにかけては国内随一の存在だ。
「当社には営業担当は不在ですが、こうした実績を評価されて口コミや紹介で自動車関連の案件が途切れることなく舞い込んできます」と代表取締役/クリエイティブディレクターの村山伸一氏は胸を張る。海外の商用車EVが日本に上陸するためのブランディングや、海外タイヤメーカーの日本国内のブランディングも依頼されるなど、クライアントはグローバルに広がり始めている。
自動車関連以外では、女性アーティストの公式Webサイトや、女子高校の公式Webサイトおよびキービジュアルによるブランディングなどの実績がある。
「当社の強みは、デザインワークは100%内部で行うとともに、コピーワークや写真撮影を含め、ワンストップでディレクションまで行うことでクオリティを維持強化していること。特にカーレースに関しては、当社ほどファンの琴線に触れる表現に必要な専門知識を蓄積しているブランディング会社は他にないと自負しています」(村山氏)
特にモータースポーツやクルマに関心がある人には、見逃せない存在だろう。
デザインの力でクライアントの商品やサービスを飛躍させる
家業の事業会社でデザイン業務を担っていた村山氏は、プログラミングを手がけた経験もあって、1996年のインターネット黎明期からWebサイトの存在に関心を寄せていた。
「当時はまだ、カッコいいサイトが見当たりませんでした。なら自分でつくってみようと思い立ったのです」(村山氏)
Webの最大の特性は“速報性”にあると踏んだ村山氏は、今起きていることをリアルタイムで知りたいファンが存在している世界として、特にモータースポーツが最も熱いと考えた。しかし、Webサイトをつくる力はあっても、肝心のカーレースの情報ソースは持っていない。そこで村山氏は、マスコミ各社や自動車関連会社を訪ね歩いた。そんな中でたまたま「全日本GT選手権」、現在の「SUPER GT」の事務局長に出会う。
「その事務局長が進歩的な考え方の人で、サイトづくりに賛同してくれたのです。そこで、試行錯誤しながら公式サイトをつくり上げました」
また、当時のモータースポーツ界の広報物などはデザイン性が低いと感じ、ロゴや印刷物のデザインも手掛けるようになる。そんな活動を2年ほど続けた後、「全日本GT選手権」のサーキットの風景が変わった。
「それまでは、レースが始まっても観客はまばらなことが多くありましたが、1998年のその時は本番前のテスト走行から観客が鈴なりになったのです。サーキットの雰囲気が一変しました。ブランディングの成果を確信しましたね」と村山氏は振り返る。
その年に村山氏は独立してシムを設立する。以来、「SUPER GT」のプロモーターや主催者と信頼関係を深めつつ、当該領域のブランディング業務を深耕していった。
「モータースポーツの知見とデザイン力を兼ね備えたブランディング会社はほかにないと、当社に当該案件が集中するようになり多忙を極めました。それ以外の仕事はお断りせざるを得ない状況となったのです。また、同じ世界で新しい表現を生み出し続けることも苦しいものがあり、一時期は外注化も考えましたが、その誘惑を断ち切りました。外注すると、クオリティが担保できないリスクがあるからです。その根底には、社名にも表した『デザインで世界を変える』という信念がありました」(村山氏)
社名のシム(SIM)は、“Style, Image, Metamorphosis”の頭文字。「デザインの力でクライアントの商品やサービスを飛躍させる」という思いだ。
「このポリシーが根本にあれば、レースやクルマ以外でも通用させることができると考えています。現に以前はアパレルやコスメも手掛けましたが、今後はマンパワーを増強して徐々に広げていきたいですね」と村山氏は話す。
“尖った”プロフェッショナル集団として、“妥協しない”カルチャー
2020年11月現在、社員数は12名。同社の組織はデザインチームとWebチームに分かれているが、案件ごとにそれぞれのチームからメンバーがアサインされ、プロジェクトチームを組成して進めている。
平均年齢は36~37歳とやや高めなのは、「居心地がよく、長く働いているメンバーが多いから」と執行役員/アートディレクターの堀井英明氏は言う。その“居心地のよい”風土は、スペシャリスト志向の強い“尖った”プロフェッショナル集団として、“妥協しない”カルチャーがベースにある。
「納期ギリギリまで考え、知恵を出し合って少しでもよりいいものにしようとするカルチャーがあります。私は“負けん気、根気、慈悲”をポリシーにしていますが、お互いに妥協せず全力で取り組む心地よさを全員が共有できていると思います」(村山氏)
「デザインチームのメンバーが自主的に新しいWebの技術を見つけてWebチームに導入をけしかけたり、逆の動きもあったりと、セクショナリズムも無縁です」と執行役員/ブランディングディレクターの山田崇之氏は補足する。
コロナ以降は同社も基本的にリモート体制を敷いているが、週末に開催されるカーレースの際は現場で業務を行ったり、制作物の入稿や会社の設備でなければできない業務の際は適宜出社するという働き方だ。
そんな同社のオフィスは、JRや東京メトロ、都営地下鉄「市ヶ谷」駅徒歩1分という外堀沿いのロケーション。「雨でも駅からすぐ会社に入れて、春は桜並木が見下ろせることも魅力」と堀井氏。
また、入社したメンバーを、夜間のWebエンジニア専門学校に会社負担で通わせて育成するという配慮もしている。
「積極的、主体的に業務を見つけてどんどん進めていける方、そして明るいタイプの方に来ていただけると嬉しいですね」と山田氏は求める人材に期待を寄せる。