エンジニアも、デザイナーも、教育者も 誰もが「あたらしい医療者」に
"京都市中京区の町家を拠点とするBonBon株式会社は、AI等の先端技術を活用した医療関連ソリューションの提供を行う京都発のスタートアップ企業だ。
創業者は、医師であり、医学部在学中に糖尿病網膜症や水頭症の診断をサポートするアルゴリズムを作成した経験を持つ、代表取締役の荘子万能氏。自身が思い描く「あたらしい医療」を実現するために、医師、エンジニア、経営コンサルタント、教育者等、各分野の高度なスキルを持つ専門家達に声を掛け、2018年にこの会社を立ち上げた。
同社の主要事業の一つが、病理診断をサポートする診断支援システム『Porous(ポーラス)』の開発だ。Porousは、精度の高い病理診断支援機能を持つことに加え、臨床現場の業務フローにフィットすることを重視して開発されている。まずは、診断書の作成やデータ管理等の通常業務に同社が提供するWebサービスを利用してもらい、そこにAIを追加することで、スムーズな導入を促す考えだ。同社はシステム開発会社でありながら、荘子氏を含めて4人の医師が在籍している。医師とエンジニアが一丸となって製品開発に取り組むことで、医療の現場で本当に使いやすいシステムを生み出している。
また、医用AIの開発と並行して、医療用ゲームの開発にも注力している。現在開発が進んでいるのは、発達障害の治療をサポートするためのゲームだ。ゲーム内におけるプレーヤーの動きを比較・分析し、治療方針の決定や、認知機能の向上に役立てる狙いがある。
開発を担当しているのは、アメリカの教育大学院で教育ゲームの研究を手掛けた教育者や、大手ゲーム会社出身のクリエイター達。医学的エビデンスに基づいた確かな機能と、ゲームとしての楽しさを両立するべく、日々研究を重ねている。
荘子氏の思い描く「あたらしい医療」の最もユニークな点は、医師だけが医療者なのではなく、エンジニアもデザイナーも全ての人が「あたらしい医療者」になり得ると考えているところだ。
「これからは、エンジニアやデザイナーが“薬”を作れる時代です。既存の医療者とは違った視点でアプローチするからこそ、解決できる問題や、治せる病気があると思います。エンジニアやデザイナーとしての技術と経験を使い、医療の世界で是非活躍してほしいです。私達は、既存の医療では盲点になりがちな境界領域や辺境領域にある問題を解決したいと考えています。医療機関と医療機関が、オンラインでスムーズに繋がるように。多職種の集合体である私達が医療を支える『あたらしい医療者』となって、『あたらしい医療』をつくり出していきたいと思います」(荘子氏)"
サービスの本格始動に向けて エンジニアチームを立ち上げたい
創業から約2年が経ち、ビジネスの方向性や各サービスの概要が固まりつつある今、同社はサービスの本格始動に向けて、大きく動き出そうとしている。開発の担い手となるエンジニアチームを、新たに立ち上げる計画だ。
最高技術責任者を務めるのは、京都の大学院で情報学研究科を修了後、自動運転HMI研究や遺伝子解析研究開発を手掛けた経験を持つ伊部達朗氏。創業初期から荘子氏と共に医用AI事業や病理プラットフォーム事業を立ち上げ、2020年春にCTOに就任した。
「これから開発チームを作り上げていくにあたり、最初にチームの中心となるのは、開発の基盤を整えるメンバーだと思っています。アプリ開発を行うためのクラウド基盤やネットワーク、機械学習のライフサイクルを管理する仕組み等、開発に必要な土台を整える役割を担います。同時に、アプリのコードを書くエンジニア達も積極的に採用したいと考えています。何もかもイチから作らなければいけないのでとても大変ですが、そこにやりがいや喜びを感じられる人にジョインしていただきたいです。社内外を含めて多くの人達と関わって仕事をするので日々学ぶことも多く、色々な領域の専門家達と切磋琢磨できる、非常に恵まれた環境だと思います」(伊部氏)
ITの技術が発展していく中で、医療の分野はAIの活用が期待される一方、業界の構造上、デジタル化があまり進んでいない業界だともいわれている。伊部氏は、そういう分野に技術を実装していくことにこそ、エンジニアとして大きな魅力を感じているという。
「医用AIの開発に向けて、臨床現場で活躍されている病理医の先生方に直接お話を伺うと、診断の手助けとなるAIの可能性に大きな期待を寄せてくださっていることを感じます。その期待に応える製品を、できるだけ早く完成させたいと思います」(伊部氏)
同社ではAIの存在を医師に代わるものではなく、医師がより良い診断をするためのサポートツールだと考えている。病理の世界において、症例数の少ない疾患の診断は難しく、専門家同士でも意見がわかれる事も多い。過去のデータベースから疾患の構造を学習し重要な所見を瞬時に見つけ出せるAIは、医師にとって強力なパートナーとなるだろう。AIと医師が一緒に働くことで、これまで以上に質の高い医療が実現できると考えている。
「世の中では、『人かAIか』『患者か医療者か』など、多くの『か』の議論があります。しかし、私はこの『か』を『と』に変えてこそ、あたらしい解決策が生まれると思うのです。人とAIが一緒に活躍することで、医療の未来を切り開くことができると信じています」(荘子氏)
多彩な領域の専門家が集まり 夢へ向かって邁進中
2020年9月現在、同社では荘子氏を含めて9人がコアメンバーとして働いている。医師、デザイナー、エンジニア、教育者やビジネスサイドなど多様なバックグラウンドを持つ人々が集まっている。彼らが口を揃えて語るのは「専門領域の異なる仲間と一緒に仕事ができるからこそ、面白い」と、いうことだ。
「まだ誰も知らない、あたらしい医療を作るにあたり、何をどうすれば正解なのか正しい答えを持っている人は誰もいません。でも逆に考えると、誰もが答えの片鱗を持っていて、それをみんなで持ち寄った時に、あたらしい医療が生まれるのではないかと思っています」と語る荘子氏。専門領域という枠を越えて、医療のために何ができるのか考え抜くのが、同社のやり方なのだ。
会社の規模を拡大するにあたり、同社はこれからさらに、多様な人材を採用したいと考えている。
「現在は男女比が8:1ですが、今後は積極的に、女性社員や女性役員を登用していきたいと考えています。社会に即した良いサービスを作るためには、男性だけでなく女性の視点も非常に重要だからです。また、福利厚生という面においては、最近、社員に子供が誕生したこともあり、男女を問わずに利用できる子育て支援制度を充実させたいと考えています。当社のオフィスは築200年の町家で、緑豊かな庭もあります。将来的にはオフィスの中に、子供が過ごせるスペースも作れたらいいなと考えているところです。会社としてはまだまだ未完成なので、みんなが働きやすい柔軟な制度や環境を、一緒に作っていけたらいいですね」(荘子氏)
専門分野も年齢も経歴も多彩なメンバーが集まる同社だが、メンバー全員に共通しているのは、「自分の力で、社会をより良くしたい」という、大きな夢を持っていることだ。与えられた仕事をするためにここにいるのではなく、自己実現の場として同社を選んでいるのである。
同社のビジョンに共感し、一緒に夢を叶えたいと思う方であれば、すぐに転職する予定のない方でもぜひ一度、会ってみたいと荘子氏は呼び掛ける。会って話をすることで、一緒にできることが何か、見えてくるかもしれないと期待を寄せる。医師、エンジニアやデザイナーなどの枠を越え、「あたらしい医療者」として共に歩む仲間に出会えることを、心から待ち望んでいる。