飛騨高山地域の『さるぼぼコイン』と木更津の『アクアコイン』が商用利用中
電子地域通貨事業を手がけている株式会社フィノバレー。事業を通じて、地域活性化を目指している。
同社が提供しているのは、電子地域通貨プラットフォーム『MoneyEasy』。QRコードだけあれば加盟店として参加でき、エンドユーザーはスマートフォンアプリで支払いができる。加盟店側ではアプリの画面を確認するだけで、つり銭対応などの手間を減らすことができ、飲食店などは硬貨等に触れずに済み衛生面でのメリットも。
さらに、金融機関が発行事業主となることで、円(1円=1コイン)との交換ができ、地域通貨ユーザー同士の交換や払い戻しも可能だ。これにより、エンドユーザーから加盟店、加盟店から加盟店と事業者間の地域通貨の2次・3次流通が可能となり、地域内での地域通貨循環を生み、地域経済の活性化に貢献できる。『MoneyEasy』を利用すれば、こうした電子地域通貨をすぐに導入できるのが最大のメリットだ。
同社のビジネスは、『MoneyEasy』の提供および地域通貨の導入/運営コンサルティング。2019年5月現在、商用利用されているのは、飛騨信用組合による『さるぼぼコイン』および木更津市と君津信用組合による『アクアコイン』の2つ。そのほか、数カ所で実証実験が行われているところだ。
「『さるぼぼコイン』は純粋な地域通貨としての機能提供からスタートしましたが、『アクアコイン』は行政が絡むことで、通貨だけでなく、例えばボランティアや健康増進イベントの参加者にポイントを支給したり、SNSを活用して住民同士のコミュニケーション促進にも使えるようになりました。このように地域活性化に繋がる機能が広がりつつあり、事業としてますます面白くなってきています」(代表取締役社長/CEO・川田修平氏)
なお、2017年12月に商用化が始まった第1号の『さるぼぼコイン』は、1年半後の段階で飛騨高山地域の製造業以外の約30%を占める約1,000事業者が参加し、11万人のエリア人口の7~8%となる約8,000人の住人が利用するという順調なスタートを切っている。
「これから、利用者拡大に向けていろいろ取り組んでいきます」(川田氏)
O2Oアプリのプラットフォームを運営するアイリッジの新規事業としてスタート
2018年6月に設立された同社。当該事業は、それまでO2Oアプリの開発を手掛けている株式会社アイリッジ(マザーズ上場)の新規事業部門として展開していたが、金融領域というスペシャリティが必要なことと、スタートアップとしてよりスピード感を高めて意思決定を行う必要性が浮上したことから、子会社化とすることになった。
アイリッジが電子地域通貨事業に着手した経緯について、当時、新規事業部門で同事業の責任者を務めた川田氏は次のように説明する。
「新規事業を考えた時、O2Oで店に誘導したお客様に対して、決済まで手がけたいというアイデアが出ました。そこで、スマートフォンによる決済サービスにトライし、バスの乗車アプリ『バスペイ』といったサービスも実験的に行いました。そうした中で、たまたま飛騨信用組合さまが地域通貨を検討しているという話をキャッチし、さっそくアプローチしてプロジェクトを立ち上げました」
飛騨信用組合さまの問題意識は、例えば「クレジットカードによる決済は、手数料の形で東京や海外に本社を置くカード会社に地域のお金が流出してしまう」こと。したがって、地域内でしか流通しない通貨での決済サービスを導入すれば、地域のお金は地域内で循環させられるのではないかという仮説を立てた。
「それまで、紙の地域通貨は各所で導入されていましたが、スマートフォンによる決済サービスの形を取るものはありませんでした。当社としては、大手が先行する決済サービスに正面から参入しても勝ち目はありませんが、地域に特化して参入することでエッジを効かせることができます。地域に対しても、より簡易に地域通貨を導入・運営できるメリットを提供できる。そこで、事業化を決めたのです」(川田氏)
いろいろと検討を進める中で、開発した『MoneyEasy』は決済通貨としてだけでなく、金銭に変わるポイントで様々な価値交換を行う“トークンエコノミー”への展開や、地域のプロジェクトに対するクラウドファンディングのプラットフォーム化など様々な可能性が浮上。地域に限らずテーマパークや企業内の福利厚生といった用途にも使える。
「金融業界の古い仕組みがフィンテックなどで大きく変わりつつある中、面白いことをやっていくために力を蓄えていきます」と川田氏は話す。
“素早く動く” “ルールにとらわれ過ぎない柔軟さ”を重視
同社の社員は14名で、業務委託メンバーが12名在籍している(2019年5月現在)。社員の約60%をアイリッジからの転籍者が占め、残りはフィノバレーへの入社者だ。風土づくりのポイントについて、川田氏は次のように説明する。
「当社の目的は、電子地域通貨によって地域活性化にイノベーションを起こすこと。そのために“素早く動く”“ルールにとらわれ過ぎない柔軟さ”といったバリューを重視します。新しいことへのチャレンジが大事な一方、いきなりイノベーションは起こせないものとして、コツコツ努力を積み重ねる価値観も大切にしたいと思っています」
目下、川田氏のこうした考えをもとに、ビジョン、ミッション、バリューを全員で検討しているところだ。そのため、採用においても価値観を重視しており、人事考課のタイミングでは川田氏とメンバーとのコミュニケーションで図る考えだという。また、毎週月曜日の夕方に全体ミーティングを行い、経営状況はなるべくオープンにするとの方針のもと、情報共有や川田氏の思いなどを伝える時間に当てている。
「前職の経営者から『一番情報が集まり、一番悩みもする経営者が一番成長できる』と聞き、その通りと感じました。そんな経営者として、得た情報や悩みを皆にフィードバックすることも自分の役割と考えています」(川田氏)
人材育成は、自立型の人材育成テーマに自己学習を支援する形。「アイリッジの制度を当社なりにカスタマイズすることも検討している」と川田氏。
新入社員を迎える機会が多く、そのたびに全員でのランチ会を開催して親睦を図っている。ユニークなのは席替え。2カ月おきに行っているが、業務における機能性向上で行う回と、クジ引きによるシャッフルを目的に行う回がある。
「シャッフルして全体にコミュニケーションを促進させる狙いと、座り仕事が大半の中、本来は隣同士に座るべきメンバーをあえて離すことで、歩く機会を増やす狙いもあります」(川田氏)
採用する人材は、カルチャーフィットを最重視する方針。またエンジニアは、最先端の技術の使い手といったことよりも、システム周辺のことにも思いを至らしめ、いかに技術を活用して、より使われるサービスに仕上げていくかといった志向性を重視するという。
「少人数のスタートアップとして、人材不足の状況にあります。『自分はこれだけ』と線を引くのではなく、マルチのポジションに素人でもトライするマインドのある方だと、なおありがたいですね」と川田氏。
地域活性化に貢献したいと考える人にとって、同社は見逃せない存在だろう。