「クリエイターが幸せになるなら、お客様のニーズがあるなら、”なんとかして”やってみる」を一貫して続けてきた。
外部クリエイターを活用してのバナーとランディングページ(LP)に特化した制作事業、および外部クリエイターの教育・地域活性事業、そして制作フロー効率化/制作物品質管理システムのASPサービス事業を運営している、株式会社クリエイターズマッチ。月間制作本数1500~2000本、2007年8月の創業以来これまで約18万本のバナーを制作してきたトップクラスの制作会社である。
創業者の呉京樹氏(インタビュータグ参照)は、2006年1月に同社の母体となったWeb制作会社の株式会社コンテクストを設立する。そこで、ホームページ制作よりもバナーやLPといった広告原稿の制作の方がマーケットとしてはるかに大きい現実に直面。依頼から納品まで数カ月かけるホームページ制作と違い、バナー制作は“今日依頼されて納品は明日”ということがザラな世界だ。また、一仕事につき、サイズやバリエーション違いなど一晩で100本ほどもつくらなければならない、というケースが多いこともわかった。
そこで、デジタルハリウッドとの合弁で、卒業生をネットワークして日本初のクラウドソーシング事業を手がけるクリエイターズマッチを設立する。しかし、発注者とクリエイターを単純にマッチングするフレームを作っただけだったので、発注者側からのクレームの嵐となってしまったのだ。品質やスケジュール管理で問題が続発したのである。
「このままでは成立しない。品質を上げるにはクリエイターのレベルを上げないといけないし、納期や予算の管理はクリエイター任せにするのではなく、社内のスタッフが行わなければならないはず、という結論に至りました」と取締役の岡村佳浩氏は説明する。
着眼したのは、都心に比べWebの仕事が比較的少ない地方のフリーランス。バナー制作ならリモートでも進行管理が容易という読みもあった。また、地方のフリーランスに仕事を提供することで、ひいては地方経済の活性化の一助にもなれる。こうして「地域活性・教育事業」がスタートする。
さらに、同社のクリエイティブディレクターが発注者とクリエイターを介在することで品質やスケジュールが担保され、事業は軌道に乗り始めた。ここで大きな問題が浮上する。
「月間500本の制作を目指そうとすると、管理業務が大変な状況になってしまったのです。そこで、これをできるだけ効率化させる制作進行管理システムを作ろうと『AdFlow』を開発したのです。これが劇的に効果をもたらし、ならば外販しようとASPサービス事業をスタートさせました」(岡村氏)
その後、「作ったバナーの効果やレポートも管理したい」というニーズが寄せられ、原稿からキャンペーン情報、配信後の効果までクリエイティブのすべての情報を蓄積・共有する『AdFlow Banner Pool』も開発する。
こうしたツールの外販化は、ともすれば自社のメリットともなる資産を競合他社にも提供することになる。しかし、そこには次のような同社の思いがあるのだ。
「制作業務の末端に位置するクリエイターにいろいろなしわ寄せが重なるのは、仕事の構造上、100%避けられないにしても、少しでもその作り手の就業環境を改善し、クリエイターがより本質的な仕事に向き合える時間を確保することができれば、と考えています。そして、ゆくゆくは海外にも広め、グローバルに制作環境の向上を追求していきたいですね」と岡村氏は力を込める。
2つの基幹事業、制作事業とSaaSサービス事業があるからこその強み。
一般的なクラウドソーシングは、クリエイターとして誰でも登録でき、発注者はその登録情報などを確認して直接仕事のやり取りを行うというモデルである。また、発注料金を下げても応諾する登録者がいる可能性も高く、コスト削減にも役立つ。半面、クリエイターは“玉石混交”の状態となり、発注者側には「期日までに期待した品質の納品物が仕上がらない」というリスクを抱えることにもなる。そのことは、前述のとおり初期のクリエイターズマッチがこのモデルで数多くのクレームを受けたことが雄弁に物語っている。
そこで同社は、登録クリエイターを厳選することにした。実績を確認した上でスキルの審査をクリアし、即戦力として期待できるトップクラスのわずか200人に限定している。かつ、同社のクリエイティブディレクターが発注者のニーズを把握し、クリエイターが作業できる状態に“翻訳”して伝えるとともに、スケジュールや仕上がりを管理している。
「つまり、発注者にとってのリスクを当社がヘッジするわけです。その代わり、料金は一般的なクラウドソーシングよりも高めです」と岡村氏は言う。
地域活性・教育事業においては、現在、福岡、宮崎、鳥取やその他の地域でも、クリエイティブに特化した講座を各自治体と共催する形で展開している。「受講したクリエイターが東京から仕事を獲得し、地元で活躍することで、各地に税金を納め、お還しする」と岡村氏は説明する。さらに、デジタルハリウッドでは「バナー制作講座」も手がけている。内容としては、バナーやLP制作の仕事の作法や心得、仕事の流れとポイント、効率的な制作テクニックといったもの。なお、本事業は活躍してもらえそうなクリエイターを発掘する重要な機会になっているという側面や、マンパワー的な制約もあり、事業単体として高い収益を追求するという状況には至っていないが、「売上や利益といった指標とは少し距離をおいた形の“第三の柱”として大きく育てていきたい」と岡村氏は言う。
こうした広告制作の仕事は、東京など大都市に偏在している。地方のクリエイターがこうした仕事を獲得することを通じて、地方経済の発展に貢献できるとともに、クリエイターに新しいワークスタイルを提供することにもなるのだ。
「活躍した登録クリエイターを表彰するアワードを開催しているのですが、最優秀賞を受賞した人は島根県在住の子育て中の主婦クリエイター。在宅で仕事ができ、子育てと両立できることを喜んでもらっています。また、バリ島に在住のクリエイターもいて、距離を超えて、自分のスキルを活かして日本の仕事をしている。弊社に登録されたクリエイターが、自分の人生にあわせた働き方を実現できているのは、当社のビジネスモデルの最大の強みと言えます」と岡村氏は胸を張る。
SaaSサービス事業で提供している『AdFlow』は、大量のバナー制作業務における煩雑な管理作業を劇的に効率化するツール。
「月間約1500本納品する当社では、つくり直しや代案を含めると実際の制作数は約7500本にも及びます。1日あたり375、1時間あたり47ものファイルを作成することになります。しかも、それぞれ異なる相手とのメールでのやりとりが発生し、その管理は非常に煩雑です。『AdFlow』を導入すれば、最大40%も作業を効率化させることができます」(岡村氏)
例えば、発注時には制作に必要な条件をひととおり登録し、依頼するクリエイターや関連する人と共有できるので、いちいちメールでやり取りしなくて済む。情報漏れを確認する手間も省ける。修正指示や修正内容のチェックも簡単に共有できるなど、クリエイターをサポートする機能が豊富だ。
わかりやすいインターフェイスで日々の運用を効率化
これから大きく飛躍する“第二創業期”
以上のように、実力のある外部クリエイターネットワークを整備するとともに、独自開発の制作管理システムを製品化して事業基盤を整えた同社。2019年には現在の40名まで社員が増加し、これから大きく飛躍する“第二創業期”にあると言える。
「まだまだ創業12年に程度のベンチャー企業ということもあり、お恥ずかしながら、立派な社内制度や研修システムなどが十分とは言えません。まさにこれから、そうした会社としてのいろいろな仕組みを整備していくところです。ですから、自分で自分の仕事の領域を定めることなく、これからの会社の成長を一緒に楽しんでいきたいという人に来ていただきたいですね。」と岡村氏は呼びかける。
同社は近い将来のIPOも意識し、残業代はきちんと支給している。もっとも「遅くまでやらなければ終わらないような業務量にならないよう、可能な限りコントロールしている」と岡村氏。
社内のコミュニケーションも活発で、「自分の意見はどんどん言える」(岡村氏)社風がある。スピードも速い。
「一人ひとりの存在感がとても大きいです。少々おこがましいですが、当社が成長することは、幸せになるクリエイターが増えること、という使命感を持って取り組んでいます。そんな企業風土で思う存分活躍してみたいという人に相応しい会社ではないかと思います」と岡村氏は結んだ。