「才能ある人、努力する人が報われない世の中はおかしい」との問題意識が原点
創作活動に取り組む全国の作り手と、使い手が、Web上で直接オリジナル作品を売買できるCtoCマーケットプレイス『Creema』を運営する株式会社クリーマ。2010年5月にリリースし、現在では全国20万人の作り手による1,000万点にも及ぶオリジナル作品が出品されており、ハンドメイドマーケットプレイスとして日本最大級の規模を誇っている。 また、2016年からは『Creema中国語版』もリリースし、台湾・香港でもサービスを展開。日本国内にとどまらないアジア最大のグローバルマーケットプレイスへと進化を続ける。
これまでに、KDDIとの資本業務提携、グロービス・キャピタル・パートナーズをリードインベスターとする総額24億円の資金調達を実施。また、海外展開やテレビCMの放映、そして、2020年11月の東証マザーズへの上場など、現在本格的な事業拡大フェーズへ移行し、採用を強化している。
同社を創業したのは、丸林耕太郎氏。創業の原点は、学生時代の体験にある。
「大学生の頃にプロのアーティストとして音楽活動をしていました。ありがたいことに色々な機会をいただき、そこそこお金も稼いでいました。そんな時、『こいつには絶対にかなわない』と思っていた才能あふれる男が、機会を得られることなく音楽の世界から去っていく姿を目の当たりにしました。自分にこれだけ仕事があってこの人にないのはおかしい、なぜなんだという、怒りにも似た違和感を強烈に感じたことを昨日のことのように覚えています。」
同様のことはほかにもあった。芸術大学の友人が、作品を世の中に発信するにあたって辛い経験をしたことを間近で見ていた。こうした現実を前に、丸林氏は「才能ある人、努力する人が報われない世の中はおかしい」「本当にいいものが埋もれてしまうような世界では、アートやものづくりの文化に進歩はない」という問題意識を持つ。
作り手が、もっと自分らしくストイックに創作活動に集中でき、その作品が世の中にスムーズに届き、正当な対価と評価を得られるようにするためにはどうすればいいか。「このことを考えるのが自分のライフワークになった」と丸林氏は述懐する。
そして28歳で起業すると決め、自分の強み・弱みを分析。不足していると思われた、仕事における筋肉(事業推進力)と、創業資金を3年間で得ることを目的に、修行と位置づけ大手ネット広告代理店に入社。「必ず2年以内にトップ営業マンになりマネージャーになる。3年以内に事業をマネジメントできる人になる。それが無理なら自分には才がないと諦めビジネス領域から身を引く。」という覚悟をもって入社した。
そのとおり、入社1年10カ月のスピードでマネージャーに昇進し、営業部長、事業部長として大きな権限と責任をもって仕事に取り組んだ。そして3年が過ぎ、役員への昇格話等もあったなかで「ここで独立しなければ自分との誓いを破ることになるし、自分を待ってくれている仲間まで裏切ることになる」と、予定どおり最後は円満に退社した。
プラットフォームである『Creema』が収益を生むまでには時間を要した。「メンバーに雀の涙のような報酬しか支払えない期間がしばらく続きましたが、みんなついてきてくれました。あの恩は一生忘れないし、必ず何十倍にもして返す。本当にかけがえのない仲間たちです」と丸林氏は振り返る。
音楽活動を通して感じた、「才能ある人、努力する人が報われない世の中はおかしい」という問題意識がCreemaの活動につながっている。
ものづくりの世界に、「本当にいいものが埋もれてしまうことのない、フェアで新しい巨大な経済圏を確立する。」
同社では、日本及びアジア最大級のハンドメイドマーケットプレイス「Creema」を主軸に、クリエイターの活動を応援する様々なサービスを展開することで、まだ見ぬ巨大なクリエイター経済圏の確立と、クラフトカルチャーの醸成に力を注いでいる。
・マーケットプレイス事業(Creema の企画、開発、運営)
・クラフトイベント事業(ハンドメイドインジャパンフェス(HMJ)、クリーマクラフトパーティ等の企画、製作、運営)
・セレクトショップ事業(Creema Store の運営)
・クラウドファンディング事業(Creema SPRINGS の企画、運営)
・アライアンス事業(地方創生、PR 支援サービス等)
『Creema』には、ジュエリー・バッグ・雑貨・アート・家具など、全国の作り手によるあらゆるジャンルのオリジナル作品が出品される。出品料は不要で、売買成約時に販売価格の10%のみを申し受ける。
売買が成立した作品は出品者から購入者への直接配送となるが、決済のみをクリーマが仲介する「あんしん決済」という独自決済システムを導入することで、クリエイターと消費者がトラブルなく安心して取引を行える場を提供している。
出品される作品は、手作りとは思えないクオリティのものがずらり並んでいる。クリーマに集まる作り手は、ものづくりに情熱をかたむけるプロの作家ないし、プロを目指す作家が殆どであることがその理由だ。
そのサイト方針を如実に表すエピソードがある。ある全国放送の民放テレビ局が、「主婦のプチ稼ぎ」をテーマにした番組の取材を申し入れてきた。
「過去の実体験から、テレビで取り上げられればサイトへのアクセスが大幅に増えることは目に見えていましたが、お断りしました。『Creema』に出品している作り手は“プチ稼ぎ”をしている方々ではないからです。そんな取り上げられ方をしたら失礼な上に、そもそもの理念から大きく逸脱してしまう。これまでも、これからも、この基本理念だけは絶対に曲げません」(丸林氏)。
『ハンドメイドインジャパンフェス』は、ものづくりに情熱をかたむける全国5,500名の作り手が一同に会する「クリエイターの祭典」で、毎年東京ビッグサイトで開催される。
また、新宿・札幌に出店する『Creema Store』は、Creema 出店クリエイターの作品を展示販売するエディトリアルショップだ。
こうした活動を通じて丸林氏が目指しているのは、「ものづくりの世界に、本当にいいものが埋もれてしまうことのない、フェアで巨大な新しい経済圏を確立する」こと。
「魅力ある作品を制作し『Creema』に丁寧に出品さえして頂ければ、作品が世界中に届き、対価と評価を得ることができるという世界をつくりたい。そのためには、今までにないフェアで巨大なプラットフォームが必要だ」と丸林氏は力を込める。
フェア、自由、そして強さが同居するやりがい溢れる風土
2020年12月現在、同社のスタッフ数は110人。マーケットプレイス、セレクトショップ、クラフトイベント、アライアンスなどの各チームに分かれ、さらに、ディレクター、エンジニア、マーケター、クリエイターなどの役割に分かれている。
「みんなで連携し合いながら一つになってやっています。年次とか役職とか関係なく自然体で、自由に議論をぶつけあいながら企画もサービス開発もすすめている」と丸林氏。
スタッフの平均年齢は約30歳で、「ジョイン時の平均年齢は27歳ぐらい。前職で年収800万円くらい稼いでいた実績のあるメンバーがほとんどです」と丸林氏。多彩なバックグラウンドを持つメンバーの集まりで、「個性派ぞろいだけれどみんな仲がよく、深い信頼関係でつながっている」という。仕事柄、数多くの作家と接する。いろいろな文化を積極的に受容し、楽しむ器を持った人材が集まるのだ。
マネジメントの軸としては、半期ごとに経営戦略会議を行い、方針の確認や目標の共有とともに各マネージャーによるアクションプランの発表と検討などが行われる。スタッフは仕事の方向性が見出しやすい環境にあるといえるだろう。
そんな同社の企業風土の特徴について、丸林氏は次のように説明する。「大原則として、どんなときもフェアであること。これは絶対。その上に、何事もゼロベースで最善を追求する思考性、年次や役職など関係なく意見をぶつけあう自由さ、そして結果に執着する強さが同居している。そんなチームです。」
新たに入社するメンバーには、こうした同社の文化への共感が必要だろう。そして「本気で生きてる人、人に優しく自分に厳しい人、自分にしかない何かを持っている人と一緒に働きたい」と丸林氏。
「仕事に対してはストイックですが、フェアで風通しのいい環境と、革新的で本質的にやりがいのある仕事、そして魅力的なメンバーが結集する場所であることだけは間違いないと胸を張って言い切れます。KDDIとの資本業務提携、グロービスをリードインベスターとする総額24億円の資金調達、海外展開やテレビCMの放映スタート、そして東証マザーズへの上場など、現在本格的な事業拡大フェーズに入っています。普通の人生では経験できないようなエキサイティングな数年がこれから始まります。クリーマにジョインするのであれば、これほどまでに絶好のタイミングはない。」と丸林氏は結んだ。