BARE NOTE STUDIO(以後、BNS)の創設の経緯を教えてください。
原点をたどると、僕自身の「絶対に就職したくない」という強烈な拒絶感と、下北沢のシェアハウスでの仲間との出会いにあります。 もともとは音楽をやっていたのですが、それだけでは食べていけず、並行して働いていたブラック営業会社で電話機を腕にガムテープで巻き付けながら電話をかける日々を送っていました。結果として一人前の営業スキルが身についたのですが、音楽に区切りをつけた時、手元に残ったのは営業力と「就職は絶対に嫌だ」という強い想いだけだったんです。 そこで、自分と同じように素晴らしい作品を作る力がありながら営業が苦手なクリエイターのために、仕事を取ってくる営業代行を始めました。1週間で500人ほどの人に会って泥臭く仕事を探し回る中で、東京五輪決定後のホテルバブルも重なり、ホテルのインテリアデザインや空間プロデュースの依頼が増えていったんです。 当時は観光地的な和風デザインを求められることが多かったのですが、僕は「ホテルは観光地ではなく、心から安らげる場所であるべきだ」と根気強く提案し続け、手掛けた施設が次々と黒字化していきました。この時期にウォルト・ディズニーの伝記を読み、「強い願望と妥協のないプロダクトファーストで作られたものが、最終的に人を一番幸せにする」という確信を得たことも、僕のモノづくりの大きな根幹になっています。 そして当時、僕が住んでいた下北沢のシェアハウスには30人ほどの仲間がいて、毎日のように朝まで夢を語り合っていました。空間には人をつなぎ、人生を前に進める力がある――自分たちのその原体験を形にし、世界中から訪れる人に「人生が変わるほどの宿泊体験」を届けたいという想いから、2017年12月にシェアメイトたちと共に立ち上げたのがBARE NOTE STUDIOです。 最初は実績も知識もなく、投資家回りでも一蹴され続けました。それでも泥臭くフィードバックをもらっては修正案を手に何度も訪問を重ね、最後は「黒木さんなら失敗しても後悔しない」と投資を決めていただきました。自分たちでペンキ塗りまで手伝いながら、2018年にようやく第一号となるホステルをオープンさせ、初月から黒字化を達成することができました。 消去法と逃げ道から始まった泥臭いスタートでしたが、素晴らしい仲間とプロダクトへの妥協ない情熱があったからこそ、今のBARE NOTE STUDIOが存在しています。
BARE NOTE STUDIOが運営する"illi Stays"は、どのように誕生したんですか?
きっかけは、現場での生の声とイタリアでの原体験です。 2018年の民泊新法で多くの民泊が撤退した際、当時運営していたホステルに友人グループのお客様が増えました。理由を聞くと「日本には3人以上で快適に泊まれるホテルが少なすぎる」という切実な悩みがあったんです。 そこに重なったのが、イタリアでの旅の体験でした。一軒目に泊まった民泊が衛生面で最悪だった一方、二軒目で出会ったホスト夫婦は笑顔で出迎えてくれ、美味しいコーヒーの淹れ方まで教えてくれた。そこにはホテルにはない“我が家”のような快適さとホスピタリティがありました。民泊の体験は、人生を前に進めるきっかけにもなるんだと実感した瞬間です。 「ホテルのような清潔感や信頼性」と「家の快適さや空間の独自性」、この両方を兼ね備えたグループ向けホテルがあれば絶対に需要がある。そう確信し、下北沢の戸建てでモックアップ実験を行って手応えを得た後、何十社もの投資家を回って5,000万円の資金調達を実施しました。 そうして下北沢の新築ビルで、僕たちの原体験である“お泊まり会(Sleepover)”をコンセプトに立ち上げたのが「illi Stays」です。
"illi Stays"が大切にしていることは何ですか?
旅先で感じた理想像をお客様との「約束」として守り続けることです。軸にしているのは3つの要素です。 ・信頼性:ホテルのような徹底した清潔感と安心のアメニティ体制 ・独自性:部屋ごとに異なるストーリーと空間美が宿るデザイン ・機能性:グループで中長期滞在しても“我が家”のように過ごせる空間設計 資金調達の際、「デザインは真似される」とよく言われました。 確かに表面的なインテリアは模倣できるかもしれません。ですが、快適さやホスピタリティといった目に見えない細かな体験の積み重ねから生まれる価値は、決して簡単には真似できません。その積み重ねをブレずに守り抜くことこそが、プロダクトを本物のブランドへと昇華させると信じています。
社員に対する想い、そして社員に求める仕事への取り組み方や成長のイメージについて教えてください。
大きな転機になったのは、コロナ禍で社員から「ここでは成長できない」と相次いで離職を告げられた経験でした。当時は会社を生き残らせることでいっぱいいっぱいになり、社内と向き合えていなかった。零細企業に飛び込んでくれた社員たちの覚悟や期待に対して、結果で応えられなかった自分の力不足を心から痛感しました。 その時に決意したのが、「社員が費やしてくれる時間や人生の覚悟に対して、それ以上の価値で返せる会社を作る」ということです。将来、この会社にいたことを心から肯定できるような「人としての成長」を約束したいと思っています。 僕たちが定義する「成長」とは、仕事を通じて「社会的価値(誰かの役に立つこと)」と「経済的価値(事業としての収益)」を同時に高められる人間になることです。単なる趣味や自己満足ではなく、社会や誰かの不を解消して価値を生み出すことこそが仕事の本質だと思うからです。 だからこそ社員には、どちらか一方ではなく、社会的価値と経済的価値の両方を本気で追求する姿勢を求めたい。会社としては挑戦にふさわしい報酬と成長の機会を全力で提供します。そのうえで、物質的にも精神的にも満たされ、仲間や社会の幸せを自分の幸せとして感じられるような人間に、共に成長していきたいと思っています。
最後に、BARE NOTE STUDIOの魅力を教えてください。
一番の魅力は、収益性や効率だけを追うのではなく、心からワクワクする空間と体験を作り続ける「プロダクトへの圧倒的なこだわり」だと思っています。 最近のホテル市場は、建築費の高騰や収益性の追求によって、どこか予定調和で「効率」ばかりを優先したホテルが増えています。もちろん事業として収益性(IRR)を追うことは大前提ですが、数値だけを起点に作られた空間で、本当に人の心が躍る滞在が生まれるのだろうかという疑問が僕たちにはあります。 僕たちBARE NOTE STUDIOには「Product is Everything」というバリューがあります。 単に「広い」「キッチンや洗濯機がある」といった機能価値だけに満足するのではなく、「どんな時間を過ごせるのか」「どんな空気感があるのか」「なぜそこに泊まりたいのか」という、もっと感覚的で本質的な価値を徹底的に磨き上げています。 ホテルのような徹底した清潔感と安心感(信頼性)、部屋ごとにストーリーと美意識が宿るデザイン(独自性)、そしてグループで我が家のように心地よく過ごせる空間設計(機能性)。イタリアの旅で僕自身が感動したような、人生が少し前に動き出すきっかけになる滞在体験を、妥協することなく追求し続けています。 事業としての経済的価値と、人の心を動かす社会的価値の両方を本気で高めていく。ビジネスとして成立させながらも、どこまでも空間の持つ可能性とモノづくりに情熱を注ぎ込めるチームであることが、僕たちの最大の強みであり魅力です。これからも予定調和を破り、手掛けた空間を通して、誰かの人生を少しでも前に進めるような一瞬を作り続けていきます。