株式会社ベースミー

株式会社ベースミーは、キャリア支援AI『BaseMe』を提供しているスタートアップである。

2024年2月にリリースされた『BaseMe』は、2025年8月現在、約3万人の学生と200社以上の企業を集め、AIを活用したキャリア支援AIを提供し、学生と企業のマッチングを支援している。
既存の就活は、学生が就活サイトに登録し、自己分析や企業研究を行った上で、掲載企業の業種・職種、待遇といった軸で志望企業を探し、“ガクチカ”などによるエントリーシートを送信して企業側が選考するといった流れで行われてきた。

これに対し、『BaseMe』はAIを活用したキャリア支援により“価値観”を軸にマッチングすることを最大の特長にしている。
学生は、『BaseMe』に自己紹介や興味・関心、活動経験といったプロフィールを記載する。また、自分の強みや弱みといった自己分析をAIに相談し、プロフィールに反映することもできる。
加えて、日々の活動や感想、考え等をSNS感覚で投稿できる。

こうしてデータ化された大量のログから本人の価値観を分析してカテゴライズすることで、企業側が自社の価値観に合う学生を検索できる。そして、当該学生のプロフィール画面に飛んで内容を確認し、直接スカウトメールを送信できるのだ。
なお、スカウトメールは一斉送信ができず、学生一人一人に向き合って送信する仕組みだ。

一方、企業側もミッションやビジョン、事業内容といった情報を掲載し、学生側は“気候変動”“貧困問題”“食糧問題”といった企業として対応する社会課題軸や、“教育・キャリア”“グローバル”“ものづくり”といった事業の属性軸をフィルターとして検索できる。あえて待遇や福利厚生は一次情報として記載せず、価値観情報にシフト。学生は掲載内容を読んで関心を持てば「気になる」ボタンを押すことで企業側に意向が伝わり、スカウトメールが届きやすくなるという仕組みだ。

一ユーザー当たりのデータ量の多さによってレコメンデーションやマッチング精度を高め、高い入社承諾度に繋げられるところが大きな強みだ。

こういうケースがある。幼少期に海外生活経験があり、「グローバルに言語を超えたコミュニケーションを伴う仕事がしたい」といった意向を持つ学生が、就職先として何となく国際機関の職員やグローバルコンサルティングファームを考えていた。ところが、結果的に『BaseMe』でマッチングされたのは、グローバル展開するアパレルチェーンだった。
「それまで小売業など全く想定していなかったところ、本人の価値観が最適な就業先として抽出されたのです。結果的に本人も納得して入社しました。これが『BaseMe』の価値だと自負しています」と代表取締役CEOの勝見仁泰氏は胸を張る。

新卒入社の3人に1人が3年以内に離職するという現実がある。その要因は一概には言えないが、お互いの価値観のアンマッチも大きいだろう。入社して活躍するためには、会社の価値観に腹落ちして全力を傾注できることが不可欠のはずだ。
「企業ごとに価値観が異なり、ハイパフォーマーの条件も違います。これをできるだけ高精度でマッチングすることがお互いにとって最重要のことであり、『BaseMe』はその実現を目指す唯一のプラットフォームです」と勝見氏は話す。

同社は2020年11月に勝見氏が株式会社アレスグッドとして創業した（2024年2月に現社名に変更）。

東京・杉並区で70年続く青果商を営む家庭に生まれた勝見氏は、幼い頃から“商売”“働く”といったことに触れ、「その意味を考えながら育ってきた」と話す。
「近くに大手スーパーがあるにもかかわらず、なぜ値段が高いうちの店に買いに来てくれるお客さんがいるのかと疑問を持ったのです。両親は『この人参は甘いよ』などと声をかけながら接客していました。お客さんは笑顔で買ってくれるのです。大手スーパーにはない付加価値だと気づきました。この原体験がずっと残っています」（勝見氏）。

そんな勝見氏は学生時代に自分の可能性を探そうとインドやフィリピンを放浪。さらにドイツやアメリカにも留学し、AI×D2Cの化粧品事業などに取り組み、壁にぶつかりながらも様々な経験を積んで帰国した。
そしていざ、就職活動に臨んだ時、また壁にぶつかったのだ。
「ビジネスの発展をさせながら社会課題に取り組む企業に入ろうと思っていたのですが、そういった自分が重要だと考える切り口で情報を提供している企業が見当たらなかったのです。当時はコロナ禍の真っ最中で、面接はオンラインばかりで、実態を確かめる術もありませんでした」と勝見氏は述懐する。

ならば自分でつくればいい。そう思い立って、大学3年の22歳の時、友人とアレスグッドを創業し、『エシカル就活』というサービスを立ち上げる。社会課題の解決に本気で取り組む企業と、そういった企業で働きたい学生をマッチングすることに特化した就活サイトだ。
このサービスを運営していく中で、勝見氏は「社会課題の解決は自分発の一つの価値観に過ぎない」と気付く。
「“安心して働きたい”“成長したい”といった、その人が大事にしたい価値観は様々ですよね。では就活において何が問題なのかと言えば、その価値観を企業との間ですり合わせできていないことだと思い至りました。そこで、2024年2月に現在の『BaseMe』に事業転換（ピボット）したのです」（勝見氏）。

そんな同社が掲げているMISSION、VISIONは次のとおり。

●MISSION：人類の価値観を解放し、つなげる。
●VISION：人々が、自分らしい人生を歩める世界を創る。

65年の間、基本的にほとんど変わっていない日本の就職活動。「ここにメスを入れ、学生が“自分はどう生きたいのか”“どんな価値観を大事にしているのか”が最優先された就活ができない限り、日本社会は変わらない」と勝見氏は喝破する。
そして、まずは2028年までの3年間、学生の就活支援プラットフォームとして50％のシェアを取り、一定の影響力を発揮することを目指す。
「その後は、グローバル採用やキャリア採用市場への展開も視野に入れています」と勝見氏は意気込む。

2025年8月現在、同社の社員数は12名。フルタイムの業務委託やアルバイトを含めると35名という体制だ。組織としては、営業、企業向けCS、学生向けマーケティング、開発、バックオフィスに分かれる。なお、学生インターンとして1年生から4年生まで多くの人が出入りし、常に学生サイドの情報がキャッチできる環境をつくっている。

その全体は、次の5項目の行動指針で束ねている。

1．Bet on Passion　情熱を持って挑戦する
2．Ownership　圧倒的主体性
3．Move Fast　迅速に行動する
4．Build awesome things　新しい価値を創造する
5．Disrupter　常識を打ち破る

この内容は、全社員がディスカッションして抽出し、最後に勝見氏がワーディングを行った。
「まだ制定して日が浅いので、これからこれに基づくカルチャーをつくっていく段階ですが、人事考課の定性指標にするなどして浸透を図っていきます。これから入社される方としては、全部でなくても、どれか一つは強く共感するものがある方だと嬉しいですね」と人事責任者の岩本真美子氏は話す。
なお、浸透策としては、Slackに社員の当該項目に関わる行動を称え合う専用チャンネルも設けている。

人材育成の観点では、毎週月曜日の朝会「Weekly Kickoff」にて、勝見氏がその時々に重要だと考えるトピックを共有。例えば、「ユニット・エコノミクス」といった考え方を取り上げている。
加えて、全体のコミュニケーション促進も兼ね、毎月末に全員参加のグループワークと懇親会も行っている。グループワークは、部門横断でメンバーをシャッフルし、「自社ビジネスのマネタイズのアイデアを出す」といったテーマでのディスカッションや、「ストレングスファインダー」を用いてお互いを理解するワークなどを行っている。

そんな同社が求める人材像として、勝見氏は次のように話す。
「『BaseMe』は“1⇒10”のフェーズにありますが、求めたいのは自分で何かを創出できる“0⇒1”志向のある方。そのためにも、おのずと密なチームワークを行うべく、オフィスワークが当然と捉えられる方だと嬉しいですね」

“失われた30年”の根本には、旧態依然とした就活の在り方があると捉え、それを覆そうと『BaseMe』に取り組む同社。まさしく社会課題の改善にチャレンジするやりがいが得られるに違いない。